ステージ・ライブ演出で使われる香りの特殊効果演出の裏側
こんにちは。
香り演出家、郡 香苗です。
このnoteでは、香りの演出ウラ話、香りを仕事にするためにやったこと・やらなかったこと、私が最近気になっていることなどをお伝えしています。
SNSもなかなかマメに更新できていませんでしたが、この冬たくさんのアートを観たり体験したりしていました。
久しぶりに京都GEARを観劇したり
麻布台ヒルズに移転したチームラボに行ったり
森美術館にも行ったり
そして何より、業務がステージの香り演出なので、舞台芸術にはいつも関わっていることが常にアートな体験!
先日は、HAENGNAE ヘンネ | Rakuten Fashion Week TOKYOでも香り演出させていただきました。
今回は、当社のメイン業務であるライブ会場やステージの香り演出を行う際の裏側についてお話したいと思います。
まずは会場図面を確認
お客様から香り演出のご依頼をいただくときは、まず大雑把に以下のような内容をヒアリングします。
いつ行われるイベントか
会場はどこか
どんなシーンで香りが必要か
どんな香りが良いか
そして次に、ステージを作る制作会社と施工会社が作成したイベント会場の図面を確認します。この図面に演出に必要な機材の記号付したこの図面は仕込み図と呼ばれます。この図面がないとなにも決まらないといっても良いぐらいとても重要。
この図面を見て、香り演出に使う機材の設置場所や設置台数、配線方法などが決まります。何がどこにあるから機材が置ける・置けないを判断していきます。
専門用語が分からない!
私がこの仕事を始めた当初は図面を見るどころか、打合せの段階で周囲が言っている専門用語がほとんど分かりませんでした。あまりに分からない素振りだと業界出身でないことがバレてしまい、信用度にも関わると思って必死に食らいついていこうとしていたのを思い出します。
簡単なところでは上手(かみて)下手(しもて)も右左あやふやでしたよ!
イントレ
ホリ
シュート
テクリハ
などなど。わかる方は舞台に関わったことがある方ですね(笑)ちなみに長さや大きさを測る時は今でも寸や尺の寸法なんですよ。
用語解説のページもいくつかあるので興味がある方はどうぞ。
舞台・演劇用語
拡散範囲をシミュレーションする
図面とにらめっこしながら機器の角度を計算しながら設置位置を決めていきます。もちろんお客様が満席で座っていることを想定して、最大限のリスクを考えながらどこに設置したら安全か、効率的に香りが行き渡るかを検討します。
余談ですがホールや劇場って壁のコンセントは使えないので、勝手に探して使っちゃだめですよ!
いかにタイムラグなく、会場全体にワンシーンの嗅覚的演出を実現させるか。
↑これはレーザーで直線距離を測るのに便利な私の現場3種の神器のひとつ!
当社のお客様(演出家や企画制作会社の方)によく聞かれるのですが、香りがしてほしいシーンが、5分とか3分とか短ければ短いほど瞬発的圧力が必要になるので、香り機器の台数が増えていきます。
現場技術チームの打ち合わせと同時並行で調香チームに香り作りをオーダー
クライアントや他のテクニカルセクションと現場について打ち合わせが行われるかたわら、もちろん香りも同時並行で作成していきます。
演出に使う香りは、当社の既存のラインナップ(40種類)の中から選んでいただく場合もありますがほとんどがそのシーンや曲に合わせたオリジナルの香りなので、1ヶ月から2ヶ月ほど制作時間をいただくことがほとんど。
独創的な香りの場合もありますし、風景などそのシーンにあったシチュエーションの香り、歌詞に出てくる情景の香り、イベントによってさまざまありますが、使う香料によってすぐに消えやすい香りと残りやすい香りがあるのが、調香のいちばん難しいところ。香りが必要なシーンがステージ進行のどのタイミングなのか、セットリストや台本を確認して調香チームに伝えます。
そして自社内で、機器を使って実際に空間噴霧しながら最終調整をしていきます。
実は、香水の作り方と、空間演出のための香りの作り方はわりと違うところがたくさんあって同じようにはできないことがほとんど。香りかたを見る官能テストでスプレー(アトマイザー)で香りを試してみても、実際に機器で噴霧してみた時とでは全くちがうということが多々あります。
本番前々日、前日は仕込み&テクリハ
香り演出は特殊効果演出セクションとして現場に入ることがほとんど。特効は舞台が設営されて、舞台上の多くの美術製作物などが仕込まれてから最後の方に設営することが多いのです。なので他のセクションよりもあとに小屋入り(会場入りすること)します。
香り機器は特に、噴射口よりも前に何らかの機器があると、香りの拡散が阻害されてしまうし前にあるモノに香りが付着してしまう可能性があるので、設置位置(特に噴射口)は気を付けます。
当社のScent Machine(セントマシン) AN1000-4は、香りはコンプレッサーの圧力によって水平方向へ遠くに飛ばすことが得意ですが、会場での香りの動き(流れ)は、徐々に上に上に昇る特性があります。満席になったお客様の熱気で空気が頭上に昇っていくからです。
アリーナやドームなど特に大きな会場でなければ、香りの機器は通常はステージ袖近くの花道付近に設置することが多いです。このとき、先ほどのレーザー距離計を使って1階奥側のセンター席でちょうど交差するように設置します。舞台用の大きなファンを使って香りを飛ばしたときに、センターで風がぶつかるようにするとそのまま2階席や3階席へ風が対流するという計算です。
ちょっと難しい話になってしまったので割愛しますが(笑)、設置位置が決まったら、電源ケーブルとDMX信号のケーブルをコントローラーまで配線、敷設していきます。
それが終わったら信号を送って動作テスト。
ここまでが仕込みと言われる作業です。
会場は建設現場と同じ環境なので、全員がヘルメット着用、場所によってはフルハーネスも着用しているのですよ。
この作業は、舞台だけやアリーナだけの場合そんなに大変じゃないのですが、一番大変なのはスタンド席まで仕込む場合です。機材を運べる大型エレベーターがない!なんて会場もたまにあります。スタンド席をなん往復も昇り降りするのはほんとうにキツイ・・・!
これも豆知識ですが、演出機器はほぼ無線は利用しません。ほとんどの機器がコントローラーまで有線でつながっています。何十メートルもの長―いケーブルの取扱いも大変!
無線を使う場合は無線機の専門知識を持った専門チームがドームの天井ほどの高ーいアンテナを伸ばして使うんですよ。
そして先ほどの用語にも出てきた「テクリハ」はテクニカル・リハーサルのこと。つまり照明、音響、特殊効果演出などの機器のリハーサルのことなんです。これが終わるとやっとゲネプロやキャストが入ってのリハーサルが行われます。
当日は、ぶっつけ本番!!
タイムスケジュールにもよりますが、当日のリハーサルは、開場し客入れが始まるまでの時間が短い場合は、香り演出機器のリハーサルは行わないことがほとんどです。万が一客入れまでに香りがかすかにでも残ってしまったらだめだから。
というわけで、香り演出が本気を出すのは本番一回、一投入魂!なんです。
そして当日がいちばん難しいのが、スモークなどの煙も同じことが言えるのですが、リハーサル時の客席ガラガラの状態と満席のお客様がおられる時では、会場中に香りが届く速度も濃度も違うこと。
リハーサルでは短い時間ですばやく会場中に充満したのが、満席のお客様がいる本番ではなかなか香りが行き渡らない、なんてことが起こってきます。経験を積んだ今ではそれも見越した計算ができますが、この事業をやりはじめた当初は、なかなか速度が掴めず苦労しました。
客入れ中、スタッフ楽屋では「バラ打ち」が行われている
開場されてお客様がお席に着いているあいだ、大抵は楽屋でご飯を食べつつ、スタッフ楽屋では「バラ打ち」という打合せが行われています。
バラシの打合せなのでバラ打ち。
本番が終わると、お客様が全員退館した瞬間から会場では全員がまたヘルメットを被り、撤収作業(バラシ)が行われます。このときに各セクションがバラバラに自分の担当だけを考えて撤収するのでは事故が起こります。どこのセクションが、どこから撤収作業をして、どこの搬出口から、どの順番で搬出するかを打合せするのです。
本番中、お客様の表情は何にも代えがたいご褒美
本番が始まると、台本やセットリストを追いつつ、インカムで舞台監督からの香りキュー(きっかけ)が出されるとコントローラのスイッチを上げます。この時コントローラを操作するオペレーターと香りを確認するスタッフは別で、だいたいは2人以上の数名で担当します。舞台袖でオペレーションをする場合もあり、客席にしっかりと香りが行き渡っているかどうかが確認できないからです。
通常、現場チーフポジションのスタッフがオペレーションを担当するので、私は香りのチェック係をすることがほとんど。本番中、通路を歩き回って鼻を利かせて確認していきます。
その時は、しっかりと香りが感じられているか、お客様の表情も何気なくチェックしています。機器から近い席のお客様は気持ち悪くなったりしていないか、安全かどうかも同時にチェック。
目を瞑って香りを堪能される方
マスクを少し外して嗅ぐ方
「え!?なんか匂いする!」と一緒に来られたご友人と騒ぐ方
ビニール袋を取り出して、香りの空気を採取しようとしておられた方も!(笑)
まさに、当社の理念である「夢と感動を記憶を作る」瞬間・・・!
この瞬間を現場で、ライブで、生で見たいために私は代表になってからも現場に出続けています。本当にやってきて良かったと思う瞬間であり、これからもまた大きな目標に向かってがんばっていこうと決意する瞬間でもあります。
本番終了後から数日はSNSエゴサしています(笑)
本番が終わり、バラシ撤収作業が終了して機材をトランポに積むと、やっと現場を離れることができます。そこからのお楽しみがお客様の生の感想を見つけること。
視覚的演出効果がハデな特効と違い、香りは目に見えず、カメラにも収まることはありません。だからこそ儚い夢のような良さもありますが、演出効果としてオーディエンスのお客様にとって香りがどう受け止められたのかはやはり気になるところ。SNSでうれしい書き込みを見つけると、改めて本当に良かったとやりがいを噛みしめています。
皆さんも、普段好きなアーティストのコンサートに行かれたり、お芝居を観に行ったりすると思います。
でもあまり触れられることのない舞台の裏側、特に香りの特殊効果演出について、簡単ですがいつかお伝えしたいと思っていたことが書けました。
いつか、皆さんの「推し」のアーティストライブでお会いできるのを楽しみにしています。
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私が代表を務める大阪・淀屋橋「株式会社SceneryScent(シーナリーセント)」では、イベントや展示会、店舗などで香りを演出する事業を行っています。
世の中に「ある」香りの再現も、「ない」香りのオーダーメイドもOK。
また、香りを拡散する機器Scent Machine(セントマシン)を開発製造。販売はもちろんレンタルも行っています。
◆ライブイベント、ステージ、テーマパークで香り効果演出
◆商業施設でのクリスマス装飾香り演出
◆ホテルブライダルでの香り空間演出
◆ミュージカルなど舞台演出での特殊効果の香り演出
◆アニメやゲームなど推しキャラの香り
株式会社シーナリーセント https://sceneryscent.com/
香り演出家 郡 香苗