【2021年度卒展に向けて #1】清水恒平先生が語る卒業制作と卒業生への思い
基礎デザイン学科専任教授に「今年のゼミの出来事」や「卒業制作の意義」「先生ご自身の学生時代」を語っていただくスペシャル企画!
第1回目は清水恒平先生です!
デザインの中で大事な「言語化」
──まずは率直に今年のゼミを振り返ってみての感想をお伺いさせてください。
僕は去年着任したばかりなので、コロナ以前のゼミの状況を知らないんです。ほとんどオンラインだったんですよね。今年は学生が「飲み会やりましょう」ってzoom飲みを積極的に開いてくれていて、割といろんな話ができている実感があって、それは良かったなあと思ってます。今年の学生はそれぞれ独特な世界を持ってる人が多くて面白くて、僕自身も勉強になってます。これは最近僕が心がけてることでもあるんですが、「自分がわからないことこそが実は面白いんじゃないか」と思っていて、その面白さってなんなんだろうってことを学生と一緒に考える時間がすごく楽しいですね。
──ゼミのときに苦労されている点はありますか?
苦労というよりは工夫したところですが、ゼミの時間以外でも話をする時間を設けてますね。僕のゼミは月曜日なんですけど、木曜日の夜もzoomを開けてゼミをやってます。去年は初めてでそこまで気が回らなかったので、今年はそういう時間をもうちょっと取ったほうがいいかなと思ってやっています。
──ゼミのときに清水先生が気をつけていることや意識されていることを教えてください。
みんなの発想について「分からない」っていうことを理由に否定せずに理解しようと意識しています。みんなの発想はそれぞれで自由だから難しいところもありますが、僕も学生の頃は自分の発想を他人に説明するのは苦手でした。でも論理的に話せていないだけで、みんなが面白いと思ってるポイントは、間違っていないと思っています。それをちゃんとした言葉にするにはどうしたらいいかを考えています。僕はデザインの中で「言語化」が大事だなと思っています。だけどあえてそうしたくないという人もいるので、あまりそれを押し付けないようにはしてますけどね。だからいいところをできるだけ伸ばせるように学生とのやりとりを意識してます。
──「言語化」の程度はどれくらいがいいのでしょうか?
僕自身はできる範囲で言語化していこうと思っています。仕事だと、クライアントに説明しなければいけないのでけっこう具体的な言語化が必要です。ただし形を考えるときなんかは、理論が先というよりは、なんとなく悩みながらも触ったりちょっと動かしてみたりしてます。言語化って単純に「文章にできました」ってことだけではないと思っていて、例えばポスターのデザインをしていて最終的に「このタイトルこっちに持ってきたほうがいいかな」っていう感覚的な部分は説明しづらいと思うんです。だから言語化がすべてではないと思うんですけど、たまたま歩いてるときに「あれについてはこうしようかな」とか考えた時には、そのことを記憶しておくために説明的にメモすることがありますね。
──けっこう言語化もするけど、やっぱり実際に試してみないと分からないっていうのはありますよね。
そうですね。たくさん試して失敗することが多いと思います。それから、言語化はどちらかというと、もう作るものがしっかり決まっている場合にしていることが多いです。僕のウェブの仕事とかは、やるべきことをちゃんと言語化して、手順を分解しないと進めにくいし、実行できないんですよ。とくにスタッフと一緒になにかを作るときは言葉で伝えるしかないので、そんなとき僕はけっこう言語化します。スタッフも「なんとなく違うかな」ってアバウトに言われてもどうしたらいいか分からなくて困っちゃうじゃないですか(笑)。
──清水先生は学生が制作に行き詰まったときにどんな風に声をかけてらっしゃるのでしょうか?
今年もけっこうみんなテーマで悩んでましたね。僕の場合は学生の考えていることのヒントになりそうな本とか、話とか事例とか、をなるべく出すようにしています。それから、ゼミ生同士で意見を言い合ってくれたらいいなって思ってます。ゼミでは僕と誰かが1対1で話したあと、「みんなはどう思う?」ってその場で他の学生に聞いたりしてますね。すると意外とみんないろんな角度で話をしてくれます。テーマ決めに関しては、他の先生もそうだと思いますが、僕も面白がって考えるように意識してます。実は仲の良い飲み屋のマスターにゼミ生のテーマを僕が喋って、そこからヒントをもらって、それを学生に戻すみたいなこともやってるんです。でもこれをみんなは知らない(笑)。
──清水先生自身が行き詰まったときはいかがですか?
僕自身が行き詰まったときは別のことやりますね。とりあえず手を動かして作り始めます。作って直してを繰り返しますね。アイデアが悪くてもまずは作ってみれば、新しいアイデアにつながっていくこともあるし、そこからブラッシュアップしていけばいいじゃないですか。だから僕自身、そもそも「すごく行き詰まった!」ということを感じたことがあまりないです。「行き詰まった」って思ってるだけなんじゃない? まだやってないでしょ? って感じですね。
──今年のゼミで印象に残っていることを教えてください。
zoom飲みをどこのゼミより先にやろうとして、ゼミの初回の夜にやりましたね。夏休み前も1回やって、夏休み中に2回ぐらいやって最近も1回やったので5回はzoom飲みしてます。その中でも、普段しっかりした印象の人が泥酔したことが印象的でしたね。僕はまだゼミ合宿に行ったことがなくて。みんなもイベント的なことがないから残念ですよね。
大学生活4年間かけて立った、デザインの入り口
──清水先生ご自身の卒業制作はどういうものだったのでしょうか?
僕は基礎デザイン科(以下基礎デ)の中でも少ない方だと思うんですが、網戸先生のゼミでした。やりたいことがあるからこの先生っていうよりは、なんとなく網戸先生の人柄に惹かれたところがありました。というのも僕はグラフィックやりたいとかウェブやりたいとか方向性がとくに決まっていなくて。卒業制作も何やるのかまだ分からないけど、なんとなくグラフィック系なんだろうなっていうふんわりした感じでした。だからみんなと同じようにテーマで悩んでたと思うんですけど、最終的には文字についてやりましたね。「ひらがなは表音文字だからそれ自体の形に意味はないが、もともと漢字からできてるものだからそこに表意性はあるのではないか」ということをテーマに、ポスターと小冊子と、インタラクティブに動くものを作りました。インタラクティブは「Director」というソフトで作りました、これは今でいうとAdobe Animate(以前のFlash)のようなもので、クリックしたら文字が動いたり音が出るものですね。そんなに優秀な学生じゃなかったのでふわっとした感じの卒制だったと思います。今でこそやりたいことをやれるようになって、勉強もちゃんと考えながらしてるんだけど、あの頃は……何やってたのかよく分からなかったです(笑)。
──清水先生が文字に興味を持ったきっかけを教えてください。
大学に入学してからです。文字はあんまり好きじゃなかったです。実家が本屋で、逆にあんまり好きじゃなかった(笑)。活字の本を読んでたかというとそうでもなくて、漫画ばっかり読んでました。実家にいるときは実家の本屋の本を読んでたので、東京に来てから最初は本を買うのにすごく抵抗がありましたね。なぜ文字に興味を持ったかというと、タイポグラフィの授業はありませんでしたが、向井周太郎先生と板東孝明先生の影響が大きいです。向井先生はコンクリートポエトリーがかっこいいなと思って、板東先生はその頃、デザイン論のオムニバスの授業でいらっしゃってて、板東先生のポスター見て「こういうのやりたい」と思いました。あと僕は大学3年生くらいでようやく自分のコンピューターを持つことができたので、それを使ってレイアウトしたり、文字を組むのがだんだん楽しくなってきたんですね。それらがきっかけで卒制につながりました。本当にあの当時グリッドの授業があればよかったなと思います。自分で調べてもあんまり、よくわからなくて。助手になってから板東先生にちゃんと教えてもらいました。
──当時はデザインの学び方についてどのようなことを意識されていたのでしょうか。
デザインの学び方については、語れるほど何か学んだかというとそうでもないです。4年間かけてデザインが面白いと分かって、ようやくデザインの入り口に立ったぐらいだと思います。今のみんなも「基礎デザイン科って何やってるの?」って言われると思いますが、僕らのときはもっと言われてたので大丈夫です(笑)。僕のときはちょうど基礎デザイン科が30周年だったのでシンポジウムとかイベントとかをやってましたね。それがきっかけで他の学科の人と話す機会も多かったので、基礎デザインってなんだろうってよく考えたりもしてましたね。でもこれに答えなんかないので、分かるというよりは、自分で納得できるように学べればいいんじゃないかと思います。
──清水先生はなぜ基礎デザイン科に入学されたのでしょうか?
数学で受験できたからです。僕はもともと「デザインをやろう」とか「美大に行こう」とか思ってなかったんです。たまたま友達が芸大を目指してて、それがきっかけで面白そうだなと思っただけなので、当時はデザインとアートの違いも全然分からなかった。でも入学したら面白くてハマったんです。今考えると、下手に予備校とかで美術の勉強とかやらなくてよかったかもしれないです。入った時は何もできなくて、ポスカラの使い方も水差しの使い方も分からなかった。隣の友達に聞きながら制作してました。
──当時の「卒業制作」が清水先生の「現在」とどのように繋がっていると思いますか?
僕はその時やったことがまさしく現在の入り口というかそのまま繋がっています。卒制自体は大した作品じゃなかったですが、文字をインタラクティブに動かしていたことで、今はなき国際メディア研究財団という研究所の方に声をかけられて、そこでプログラミングを学んだり学会で発表したりするようになりました。だから僕が今専門としていることの1番最初の入り口ですね。あの頃、卒制でやりきれなかったタイポグラフィのこととか、コンクリートポエトリーのこととかを今ようやく追っかけで勉強している気がします。だからずっと卒制をやってる感じがあるかもしれないです。大袈裟に聞こえるかもしれないけど、本当に当時からつながっていて、やってることはほとんど変わんないかもしれない。僕の他にも同じように卒制のテーマから続けて、いまだに専門として続けている人もいます。当時の卒制はもう動かないんですが、今できることでもう1回やりたい気持ちはありますね。
自分のデザイン世界が統合されていく感覚
──「卒業制作」とは私たち学生にとって、どんな位置づけのものだとお考えですか?
人によってそれぞれ違うと思いますけど、卒業するための単位のためって割り切るのもありだとは思います。でも、1年間ひとつのことに時間をかけることは、仕事ではなかなかない機会なので、割り切ってやってる人の場合でも軽いものではなくなるんじゃないかと思いますよ。優秀賞とかあるけど僕はとれなかったし、とれなくたってその先にもっといいことがあるかもしれないので、卒業の時点でどこまで行けたかは別として、その人にとってずっと続いていくものであるといいなと思います。1年間飽きずにやってきたことはその人にとって意味があって価値のあるものだと思うので、そこを入り口にこれからいろんなことやっていって欲しいなと思いますね。
── 今年の2022年卒業生に向けてのメッセージをいただきたいです。
コロナの影響もあってあまり直接の接点を持てなかったですが、今年は夏休みに他のゼミの人も話しに来てくれたりもして、そういう気持ちに本当にありがとうございますと言いたいです。僕ももうちょっとみんなと直接対面できる機会があった方が良かったなと思っていますので、別に卒業してからなにかやってもいいよね、と思ってます。とくに今の基礎デの人たちって面白い人がたくさんいると思うから、何かしらの繋がりを持って、コロナの2年間でできなかったことをお互い積極的にこれから取り戻せばいいんじゃないかなと思います。卒業してからもゼミ仲間で毎年集まってる人もいるみたいだし、僕も呼んでくれたらいつでも行きますよ。多分他の先生方も応えてくれると思います。それから実は、社会人は楽しいですよ。僕は大学時代すげー楽しいなって思っていましたが、社会人になったらなったで、もっと楽しくて。年々楽しくなっているんです。なので、みなさん卒業してからも楽しく過ごしてください。嫌なことは逃げてもいいんですよ。
──ありがとうございます。では、今回の卒業制作展に来場者されているみなさまにメッセージをお願いします。
きっと期待を裏切らない良い作品が揃っていると思います。基礎デザイン学科の作品は、見た目に分かりやすく面白い作品もありますが、一見派手じゃないけれどよくよく見ると実はすごく深いものもたくさんあるので、そういうものこそ中身をぜひしっかりみて欲しいです。やっぱり、基礎デザイン学科の学生のみんなの視点はすごく面白くて、そこにはこれからのデザインの問題意識やいろんな課題が含まれています。それはある意味、時代の最先端なんじゃないかな、と思うのでぜひ時間をかけて見ていただきたいと思います。
──最後になにかもうひと言だけお願いします!
えーーと、僕は最近盆栽を始めたんです。もともと植物は好きで、事務所で植物を育てていたんですけど、冬に鉢に植えてた植物が枯れちゃったと思ってたら、春になったら葉っぱが出てきて「生きてた!」と思って楽しくなっちゃって。それが最初のきっかけですね。もともと盆栽に対する憧れはあったんですけど、難しそうだから始めるのをずっと躊躇してたんですよ。でもある日、練馬の尾崎フラワーパークという、都内最大級のガーデンセンターへ家に置く植物を探しにいったんです。そのときたまたま放置されてた大きい盆栽を買って、初めて自分で剪定したり枝を曲げたときに、これは楽しいなと思いました。
──そこからハマったんですね。
そうです。盆栽って自然を模してて、いわゆる日本の庭園「借景」みたいにめちゃめちゃ人工的なものなんですね。生きてる木をわざと一部を枯らしたり、針金を枝に巻きつけて枝をぐにゃっと曲げたり。そこまで自然に手を入れるのどうかなって思ってやってこなかったんですが、いざ枝を曲げてみると空間を作っている感じがタイポグラフィーのような感覚で、今までやってきたことがつながってくる感じがありました。20代、30代の頃ってまだ音楽をやったり、バイクに乗ったりとかいろんなものに興味がありました。でも最近はそれぞれバラバラだったものが、自分のデザインっていう世界の中で統合されていく感覚があります。何が言いたいかというと、やって無駄なことはないんです。あんまり頭でっかちにならないでいろいろ手を動かした方がいいなと思うので、興味があることをどんどん積極的にやっていってほしいなと思いますね。
(取材編集・松尾花 有田礼菜 大場南斗星)
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