【2021年度卒展に向けて #6】柴田文江先生が語る卒業制作と卒業生への思い
基礎デザイン学科専任教授に「今年のゼミの出来事」や「卒業制作の意義」「先生ご自身の学生時代」を語っていただくスペシャル企画!
第6回目は柴田文江先生です!
行き詰まるのは当たり前
それは新しいものを作るチャンスとなる
──まずは率直に今年のゼミを振り返ってみての感想をお伺いさせてください。
毎年柴田ゼミは和気あいあいとしています。今年もコロナ禍でなかなか会えないわりに、他人の研究に対して自分のアイデアを出したりといった相互の関係性ができていて良かったですね。対面の時のゼミでは、他の人の制作の話をそこまで集中して聞けない、お互い何をしているかをあまりよく知らない、ということもあります。でもオンラインではみんなの卒業制作の進捗についてのプレゼンテーションを毎回聞くことになるので、同じゼミ生のプロセスをクリアに把握できるところとか、自分の研究以外にも人の研究を体験できますよね。オンラインのゼミではそういう良い部分があったかなと思います。これはゼミに限らず他の授業でもいつも思っていることなんですけど、自分の作品は重要だけどそのことだけを考えるのではなくて、同じようなモチベーションやテーマは違えども似た問題意識を持っている周りの学生が、どういうプロセスでやっているかを知るのは凄く勇気になるし、研究の助けになるんじゃないかと思うんですよね。それがゼミのいいところだと思っています。ただ単に仲がいいってことだけではなくて、「研究」をシェアできるのが凄く良い。そういう意味では対面よりもオンラインの方がやりやすい部分は結構ありました。ただ、普段だったら研究以外で一緒にお出かけしたりできるのですが、その人のパーソナリティを知るような出来事が薄かったというのは残念な状況だったのかなと思います。
──柴田先生がゼミの時に気をつけていることや意識されていることを教えてください。
私自身は教えるというよりは、その人が研究していくための伴走者みたいな気分で意識しています。24時間マラソンの横を走っている人のように、一緒に走ってはあげるけど引っ張ることはできない立場です。経験者としていろんなアドバイスはあげられるけど、実際に走るのは学生自身ですから。だから学生からの相談に対して「これがいい」と言うよりも、いろんな選択肢を見つける方向で手助けしたいと思っているんですよね。実際、社会に出てデザインする時には、世の中の状況とか置かれている環境とか、その時代の流れを鑑みて自分の選択肢を作って決めていくわけです。だからそういう手助けを先生としてやっている感じです。
──柴田先生は学生が制作に行き詰まった時にどんな風に声をかけてらっしゃるのでしょうか?
行き詰まっていない学生っていないですよね。問題があると気づいている状態なのはまだいい方で、問題すらない状態が一番難しいです。「こういう風にやろうと思っているけどできない」とか、「こういうことをやろうと思ったけどどうやるかわからない」みたいな状態に関しては普通の授業と同じように、経験や他の学生の作品をもとにアドバイスすることができます。でも、問題や困りごとがまったくない状態が凄く困ると思っていて、それはやっぱり本人に生み出してもらわなければならない。そういう時は私の経験的な部分による手助けよりも、ゼミの「一人じゃない部分」に頼ります。他の人の作品を例にして、こういうところはいいよねみたいな話をしてあげることで、刺激を与えて最初の問題を見つけたりしますね。
──柴田先自身は問題が見つからない、問題がないというようなことはありますか?
私は正直いつも行き詰まっていますけど(笑)。学生の時に小さいレベルでなんとか解決して作品にしてきたわけじゃないですか。だからそういう過去の経験が自信となって、今凄く行き詰まっているけれど、自分はできると思っているというか、私の場合は新しいものを作ったりするので、その答えってもしかして「解決する方法がない」と、解決しているのかもしれないですね。行き詰まるのは当たり前、でもそれは新しいものを作るいいチャンスだから、「辛いけどこれを超えたらきっと楽しくなるな」といつも思っています。
──今年のゼミで印象に残っていることを教えてください。
毎年4月に何かの展覧会を見に行ってるんですけど、今年はできなかったのでちょっと残念ですね。そういうことでゼミのみんなに仲良くなってもらったり、いろんな感覚を共有できるようになったりするんですけどね。でも、うちのゼミのみんなはオンライン飲み会とかもないわりには仲がいいですね。バランスのとれた子や優しい子が多いんだろうなと思ってます。コミュニケーションが上手にできて、相手の気持ちを慮るということは、デザインする上では大事なことです。それは私に対してもしてくれるので、いつも凄くゼミがやりやすいです。どうしても先生は学生からすると与えてくれる人という感じなので、学年が低くなれば低くなるほど要求だけが届きやすい。4年生くらいになると「先生も大変だな」みたいに、優しくしてくれるので大人になったなと嬉しかったりしますね(笑)。みんなとはとてもいい人間関係が築けているのかなと思います。
学生の時から持っていた問題意識
やりたいことだからこそ今もやっている
──柴田先生ご自身の卒業制作はどういったものだったでしょうか?
私の卒業制作は「水中体質量計」という体重計みたいなのを作りました。ビート板みたいな体重計でしたね。そんなにいいものじゃなくて、優秀賞もとれませんでしたね。でも、それも糧になっているし、4月から制作を始めて卒業する段階の時には、自分なりには進歩したな、ちゃんとやったなと思います。
──もう一度作り直そうと思ったりしますか?
全然思わないです。なぜなら、その後に体質量が測れる電子体重計が出たじゃないですか。あれがない時代だったので、「体重だけで体が太っているとか痩せているとかを、健康のバロメータにするのはおかしいんじゃないか」というのがテーマでした。だから体質量っていう考え方をしたほうがいいということで、お風呂の中で測る体重計を作ったんですよ。脂肪と筋肉の重さって違うけれど、そういうことが当時は簡単にわからなかったんです。
──印象に残っている学生時代の作品を教えてください。
3年生の課題で、システム手帳に入れる基礎体温を測る体温計を作りました。女の人ってバイオリズムが社会活動に影響するじゃないですか。お腹が痛くて会社や講演会に行けないとかですね。私も凄く身体が弱かったので、男子学生がいっぱいいる中で、なんで女性だからって大変なんだろう、とジレンマを感じることが結構あったんです。学生の時から問題意識を持っていたんだと思います。そこでICチップを使う課題があったので、これを寝る時に時計にしておいて体温を測るというものを作ったんです。私は病気がちだったから基礎体温を毎日測っていたのですが、これが実は結構大変なんです。だから寝る前に着けて、朝になったらシステム手帳に入れると読み取ってくれる、というものを作りました。私は漠然となんですが、学生時代のときからそういう医療系のデザイナーになりたいって思っていて、それで卒業制作は女の人だけじゃなく、いろんな人の予防医学や健康のことを家庭からサポートするというテーマにしたんです。のちに東芝に入ったのですが、配属されたところが美容器具で、でもそのあとにフリーになったんですけど、結局、体温計や手術ロボット、検査機器なんかもやっています。結果的にやっぱり医療機器系をやりたかったから今もやってるんだなと思っています。
──やはり医療機器系のデザインをするのはご自身の身体や体験からですか?
子供の頃から虚弱だったしというのもあるけど、インダストリアルデザインで貢献できることってあるのかなと思ってます。医療機器などは割とダイレクトだけど、デザインがないとうまくいかないことがあって、そういうところをデザインする人ってあまりいないんですよね。設計ができる人はいるけれど、「設計できる=デザインできる」ってなっちゃっているんです。ダサかろうがなんだろうが関係ない、だけど本当はそうじゃない。「設計の上にデザインがある」んですね。だからめんどくさいけれど、そういうのをデザインすることで、使う人が間違った使い方をしない設計がうまくできたりするんです。そういったこともデザインの範疇だと思います。だから、あまり外には出していないんですけど、自分の仕事のなかで二割くらいは医療機器係の仕事もやってますね。それはもうずっと2、30年間くらい真面目に続けています。
──柴田先生は工芸工業デザイン学科(以下工デ)の出身ですが、なぜ基礎デザイン学科(以下基礎デ)の教授になられたのでしょうか?
これはよく聞かれるんですが、工デが呼んでくれないからです(笑)。基礎デの教授になったのは、原さんに声をかけられたからですね。でも大学っていろいろなタイミングがあって、大学には今教えている先生がいるので、呼ばれても勝手に行けないとかそういうことがあるんだろうなと思います。それから、基礎デにいると私の専門はプロダクトだけど、工デにいたらその範疇を逸脱していることもあるんですよね。工デはカーデザイナーや家電デザイナーとか、はっきりしている人が多いので、私はちょっと違うのかなと思ったりしますね(笑)。
どんなことを大事にして生きていくのか
卒業制作はそれを知る最初の機会でもある
──当時の卒業制作が柴田先生の現在とどのようにつながっていると思いますか?
学生時代は4年間、形が作れないことがずっと悩みでした。でも形のデザイナーになるので作れるようにならなければと思っていました。卒業制作って自分なりの形を作るためのさまざまなプロセスのテーマがあると思います。それは卒業制作でクリアできた気がします。その時に私の作り方のバランスというか定規みたいな約束事ができて、形の基礎的なボキャブラリーができました。それは今でも自分のデザインに活きていると思ってます。
──4年間形が作れないことが悩みだったけれど、卒業制作でその指標になるようなものができたということですね。
そうそう。卒業制作って他と比べてどうとかではなく、「形ってこうなんだ」って自分がわかるためのものなのかなと。だから優秀賞取れなかったけれど、自分としては「これでデザイナーになるんだな」みたいな気持ちになれました。そこまで立派なものではなかったかもしれないけれど、まあなんとか卒業して、とりあえず就職も決まっているからやっていくしかないな、という覚悟は持てました。
──卒業制作は私たち学生にとってどんな位置付けのものだとお考えですか?
それまでのいろんな課題は、ある程度レールが轢かれた中だから制作できたものだと考えてほしいと思います。やはり自分自身で問題を提起するというのがデザインの基本なんですよね。これは凄く難しいことなんですけど、自分自身ってどういうことを大事にして生きていく人間なのかというのを卒業制作では最初に作るものなんじゃないかな、とも思います。そういう意味ではデビュー作だし、いくつになっても卒業制作は覚えているものなんですよ。成功したら成功したでいいけど、失敗したら失敗したなりの学びがあるし、どっちにしても重要なことです。そして、それは一年間一生懸命やらないと得られないことだと思います。
──今年の2022年卒業生に向けてのメッセージをいただきたいです。
凄く厳しい状況の中で卒業制作をしたみんなだからこそできることってあると思うので、タフなデザイナーになれるんじゃないかなと期待しています。卒業したら今度は生徒じゃなくて、同じデザインの世界で生きる人同士だから、また違った関係性が作れたらいいなと思っています。
──ありがとうございます。では、今回の卒業制作展に来場される皆様にメッセージをお願いします。
デザインとかを知らない子が、4年間武蔵野美術大学基礎デザイン学科というところで勉強した成果が展示される凄い場所です。一人一人に可能性があるので、そこを意識しながら作品を見ていただけると面白い発見があると思います。ぜひゆっくり見てください。
──最後になにかもう一言だけお願いします!
私、今年基礎デザイン学科の教授を辞めることになったんですが、学生にデザインを教えることも、基礎デのみんなも大好きです。みんな優秀だし、私が学生の時にはこんなに真面目な学生はいなかったので、こちらもいろんなことも勉強させてもらえて凄くいい機会だったと思います。私は武蔵美の卒業生だから、先生だけどみんなを後輩として見ています。社会に出ると同じ大学の子って本当に可愛いんですよね。そういう気持ちで教えていたので、私自身も楽しい期間を過ごさせていただきました。みなさま本当にありがとうございました。
(取材編集・大場南斗星 有田礼菜 松尾花)
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