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個性のある作曲、個性のない作曲

こんにちは、スキャット後藤です。フリーランスの作曲家です。

モノ作りしてる人は、必ず一度は自分が作るものの個性について考えたことあるんじゃないでしょうか?自然と湧き出てくる、自然と滲みでてくる個性もあれば、パっと聞いた時に「あ、◯◯さんの音楽!」って思われるような個性もあります。僕はずっと後者に憧れていて、それを目指してます。

僕は職業作曲家(商業作曲家)です。誰かからの依頼でいつも音楽を作ってます。例えばドラマの依頼が来たら、企画書と台本が届きます。そこにはその仕事でやらなきゃいけないことが書かれてます。そして監督がやりたいと思ってること、作品の方針も重要になります。この時点で、職業作曲家は自分が表現したいものではなく、作品のための音楽をつくることが優先であることがわかります。

僕は自分の個性を出したいのですが、監督がそれを望んでるとは限りません。指名されたからと言って、個性が求められてるとは限らないのです。ここでいう個性というのは「パっと聞いた時に僕とわかる音楽」という意味です。もしアーティストなら、その人の音ってわかるほうが有り難がられます。中田ヤスタカだったら中田ヤスタカの音が欲しいですよね。でも職業作曲家ってそうじゃないことの方が多いです。個性が強ければ強いほど作品の邪魔になります。(音楽が演出を食ってしまう)

例えば、僕の音楽性を存分に出すことを期待して依頼してきてくれる人もいます。プラネタリウムとかベネッセなど、子供向けの作品をつくる時に声かけてくれるディレクターは僕のファンを公言してくれてて自由に音楽作らせてくれます。いつもリテイクはほとんどないです。特にリファレンスもないです。最近ぼちぼち作曲しはじめた2026年放送のアニメも、僕の音楽が好きで依頼してきてくれてるので「自由に遊んでください!」って言われてます。こういう案件は自分がやりたいことをどんどんと提案できます。もちろん作品をよくするための音楽を目指した上での話です。

「スキャットさんに劇伴お願いしたら作品に合わせて音楽つくってくれるから安心」って理由で依頼がくることも多いです。そういう作品の時は空気を読んで自分のクセの強さをかなり弱めます。例えば、明日からはじまるドラマ『下山メシ』は、自分の個性を薄くした劇伴をつくりました。例えば僕は、デジタルの剥き出しの音みたいなのが好きです。『下山メシ』って、登山して下山してメシを食うドラマです。解像度高いキレイな自然の風景と、食事のシーンがメインです。どう考えてもデジタルの音は似合いません。山間の過疎村を舞台にした映画『天然コケッコー』みたいな、レイハラカミの電子音が似合う作品もありますが、今回の作品はそういう音は向きません。なぜなら、登山(自然)の気持ちよさ、透き通るような空気、山脈の奥行きや壮大さを表現しないといけないからです。デジタルの音は映像をぶち壊します。

ドラマ『下山メシ』の第一話はホルンソロの曲ではじまります。「人はなぜ山に登るのか」からはじまる主人公の語りを読んだらパっと閃きました。山々の空撮映像とか(台本読んでの予想)、「今からちょうど100年前のことだ」の語り部分に一番シックリくる音楽はコレ!って思いました。自然の空気感も残せるし、歴史も感じられるし、ソロなので強さも感じます。そのシーンに必要な要素をパパっと頭に浮かべてみたら、ホルンソロが最適だと思いました。ホルンソロの曲なんて聞いたこともないし作ったこともなかったですが、、、、

このドラマの顔にもなるであろう、ホルンソロ曲に僕の個性なんていらないんです。もちろんメロディーを聴いて「スキャットさん!」って思う人がいるかもしれないけども、たぶんわかんないと思います。僕もわかんないですから。たった数音の何気ないメロディーですが、入りの音、2音目の音程、フレーズの流れなど計算して設計してます。考え抜いたというよりは長年の経験が元になってるので、それは一瞬の判断。もしそこに自分がやりたいことや、自分の個性を乗っけてしまうと蛇足になります。ぶち壊しです。こういう時は自分の主張を殺して役割に徹します。個性の有無の作り分けです。

この作品はそんな感じで他の劇伴も作りました。今まで僕が担当してきた作品で一番、僕の個性が薄い作品だと思います。どちらかというと滲み出てきた個性って感じの劇伴。でもそんな中、僕がいつも使う、ポルタメントする口笛の音は今回も使いました。例えば、第2話の賀屋さん(かが屋)のシーンで流れます。こういう、僕が音楽をつくっているというわかりやすいマーキングはよくやってます。必然性がある音楽なので個性が邪魔になってません。

個性を出しづらい作品ですが、こういう遊びはやってます。無理やり「ジャージークラブ」のリズムを使ってみようってところから作り始めた楽曲が第3話で使われてます。ジャージーリズムは「5つ打ち」って言われていてNewJeansの曲とかで使われてるリズムです。もちろんそういうK-POPなアプローチなアレンジにはなってないのですが、個性の薄い劇伴ばかりだと「今までにも聴いたことある劇伴」になるので、他ではやってないようなアプローチの曲もバリエーションとして用意してみたんです。SpliceでジャージーなリズムをDAWに貼って「さて、このドラマに合う音楽ってなんだろ?」って流れです。場違いな音楽作ってても失敗ではないです。ドラマに合わないなら、その曲が使われないだけなので何も問題ないです。このように、一応チャレンジングな音楽を用意して選曲さんに渡すようにしてます。地味ですが今回、何気ないよくありそうなピアノやギター曲が謎に変拍子になってるのも特徴です。作品の色になったと思います。4/4拍子の曲だったら、なんとなく展開が読めて新鮮さがなかったと思います。

ということで!

ドラマ『下山メシ』は、11月14日(木)24時半から放送されます。登山して、下山した後に食べるメシのドラマです。主演は志田未来さん。MAで完成版を見た時に「うわ、めちゃくちゃ良い作品になった」ってめちゃくちゃ感激しました。観た人が幸せな気持ちになるドラマだと思います。

というか、音楽が鳴ってないシーンこそ観てほしいと思います。ずっと続く美味しいシーン、とにかく毎回出てくるメシがずっと美味しそうなんです。深夜の飯テロを楽しんでいただければと思います!効果さんがいい仕事してます!!志田さんの食べ方もめちゃくちゃキレイで美味しそうです!

選曲さんがいい仕事してくれた!と思ったポイントがあります。ホルンソロの曲が山と関連のないシーンでも流れます。このアイデアがすごいと思いました。他のドラマでは出来ない、「これぞ、下山メシ!」って選曲。このあたりにも注目していただけたらと思います。

監督は、今回お初のふくだももこさん。もう一人の監督は何度もお仕事してる北畑さん。『孤独のグルメ』の監督をずっとやってる方です。『晩酌の流儀』も監督されてます。飯ドラマのプロです!二人とも「さすが!」という出来です。ということで是非ご覧ください!

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