書籍レビュー「有機化学 改訂2版 (奥山有機化学)」
レビュー対象書籍基本情報
[書籍名]
有機化学 改訂2版
[著者]
奥山 格, 石井 昭彦, 箕浦 真生
[初版発行年]
平成28年
[発行所]
丸善出版
[形状・文量]
B5判 大型本 ・ページ数 423p
[定価]
5,000円+税
書籍内容情報とレビュー
『注意』
以降には実際に読んで感じた私(レビュー者)個人の感想に基づくものが含まれています。
[書籍ジャンル]
大学有機化学教科書(基礎有機化学)
(レビュー者より)
この書籍は著者も言っているように、大学有機化学の教科書として国際標準たりうる水準のものをとのコンセプトで作られています。構成としては計23章からなっている内容のうち、およそ三分の一は化学結合、分子間相互作用、オービタル、酸塩基といった有機化学を理解するために必要な知識の解説となっており、残りは各種官能基反応などの各論という海外の有機化学教科書でもよく見るオーソドックスなものとなっています。高分子や創薬など何かのジャンルに特化しているわけではなく、あくまで有機化学の基礎的な内容を広く学習できる内容です。
[対象]
大学学部で有機化学を学ぶ学生もしくは教える先生
大学院に進学し改めて有機化学を体系的に学びなおしたい学生
改めて有機化学を体系的に学びなおしたい社会人
(レビュー者より)
まずこの書籍ですが基礎有機化学の総合的な教科書ながらB5判の大型本423pの一巻しかありません。ウォーレン有機化学がB5判の大型本上下二巻の計約2000p、マクマリー有機化学がA5判上中下計約1400pあることを考えるとかなりきゅっとしているといえます(これについては実は裏があるのですがそれは後述)。とはいえ大学学部時点で理解しておくべき理論・知識・現象・概念は概ねきちんと網羅されています。重要概念は丁寧な図と共に要所要所で説明されていますし、重要反応については反応機構もわかりやすく示して解説されています(数多ある有機化学教科書の中では反応機構がとても見やすくわかりやすい印象でした)。ただやはり要約感が強いことは否めないですね。この書籍を前後のつながりを理解しながらスムーズに内容を理解し読み進めるためには、適時先生が補足やサポートをしてくれる環境(大学学部の講義など)か、もともとある程度有機化学の知識を持っていることが必要になるかなと感じます。なのでこの書籍を意欲ある高校生や大学有機化学に触れてこなかった方が独学で有機化学を勉強する際のメイン書籍として使うのはちょっと大変かなと思いますね。逆にいえばすらっとコンパクトに情報がまとまっているうえ1冊5000円とお手頃なので学び直しにはもってこいです。欄外のトピックスやウェブノートにはややマニアックな情報が載っていたりするので、学びなおすほど有機化学に意欲のある方なら楽しく読める内容だと思います。
[読破難易度]
易~普通
[理解難易度]
普通~やや難
(レビュー者より)
何よりこの書籍は著者が日本の方というのもあって文章は読みやすいです。また、全ページフルカラーで図、反応機構なども適宜わかりやすく記載されていますから、この書籍を「読む」難易度は他の有機化学教科書(特に洋書や洋書の和訳版)と比べて高くないと思います。一方でページ都合か細かい解説や議論が省略されているなと感じる個所が少なくなく、ある程度の知識がないと理解するのにやや難しさを感じる方が出てくるかもしれません。
いいなと感じた点
(レビュー者より)
実はこの書籍は隠し技を持っています。それは無料で利用できるウェブサイトの存在です。そこには書籍に載せきれず泣く泣く削ったのであろう解説や反応例、問題、さらには4つの追加チャプター(どれも書籍の1章に相当する文量)まで公開されています。ある意味この書籍最大の特徴といってもいいかもしれません。ページ数が他の著名な教科書より少ないということを上に書いていますが、実際にはこれらウェブサイトの内容も含めると他の著名な有機化学教科書に匹敵するボリュームとなります。そのウェブサイトは別に書籍購入者じゃなくても閲覧できるので、書籍購入を迷っている方が居たら一度サイトを眺めてみてから決めてもいいでしょう。とても太っ腹といいますかかなりコスパがいい書籍であるといえます。
総評
「学び直し、もしくは二冊目として優秀な基礎有機化学の教科書」