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虚構への愛
スタッフとの会議中は、「かわいい」が飛び交う。意図的なのかそうでないのかわからないのだけど、「良い」と言う代わりに「かわいい」という語を用いているように思う。「高橋的にはどっちがかわいいと思う?」とか、振られる。かわいいのは良いことだし、なにより正義なので、私も「こっちがかわいいと思う」と返している。おかげでどんどん、かわいい作品になってきている。嬉しい限りである。
私は嘘つきだ。嘘つきが高じて劇作をしている。よく練られた虚構は現実の何倍も面白い。虚構の面白さには上限がない。「かわいい」は作れるのだ。せっかく嘘つきに育ったのだから、作らない手はない。それで地獄に落ちるなら、本望だ。
蒼い月
蒼い月は、写真の中にしか存在しないと思う。紅いことはあっても、蒼いのは見たことがない。紅い月にしたって大体夕暮れ時にしか現れないし、それを過ぎると裸電球みたいな、何の面白みもないオブジェクトになってしまう。人類は月の見た目について過大評価をしている。iPhone14が発売されたらしい。恐ろしく綺麗に写真が撮れるそうだ。iPhone14の手にかかれば蒼い月、紅い月、紫の月、撮り放題なのだろう。私もカメラロールをそういう虚構でいっぱいにして、肉眼に映るよりも美しい思い出たちをたくさんクラウドに保存したいのに、iPhone7は本当に丈夫だ。いくらなんでも壊れなさすぎる。階段から落としても浴室に持ち込んでも、壊れない。壊れないものを買い替えるわけにはいかないから、私の眼はもうしばらく、写真よりも美しい景色を見続けることになりそうだ。
高橋敏文
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