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ジャック・ロンドンの描いた「疫病で文明崩壊後の21世紀世界」の憂鬱
先日、日露戦争の話で触れた、「明治日本を訪れた有名作家の一人」ジャック・ロンドン。私が敬愛するラフカディオ・ハーンとも、あわやニアミスな旅程をとっていたことなどを最近になって知り、興味津々です。
そのジャック・ロンドンの代表作といえば、最近、ハリソン・フォード主演で有名になった『野生の呼び声』ということになるのですが、この新型コロナ騒動の世相の中で読んでみて、ずしんと重い読後感を持ったのが、『赤死病』。
21世紀後半の地球、ウィルスの蔓延の為に文明が滅亡した後の世界で、ほそぼそと狩猟をしながら暮らす老人が、「わしが若い頃の人類は科学技術に浮かれておったが、思えばあの時から、すべてが間違っておったんじゃ」と嘆き悲しむ話。
・・・と言うと、ありきたりなエスエフ作品のように思えますが、書かれたのが百年前、1910年代の作品というのだから先見性に驚きます。ウィルスの影響で荒廃した世界に転がっているのが、墜落した飛行機ではなく墜落した飛行船の残骸であったりする違和感が多少ありますが、ウィルスの影響によってかつての力関係が逆転した「運転手と金持ちの婦人」のエピソード(昔の恨みの仕返しとして、運転手は金持ちの夫人に鎖をつけて奴隷として働かせているわけです)とか、鬱になる話が続々出てくる。
ともあれジャック・ロンドン氏の描くこの世界では、文明というものは無くなって悲しむべきものとはとらえられておらず、
「どうせ人類は、このウィルス騒ぎも乗り越えて、文明を復活させるだろうさ。ただし、その過程で、またどうせ、たくさんの殺戮や戦争が起こるだけ。また無意味な文明の建造の為の大量の犠牲を出すだけだろうさ」
という「ある意味、人類滅亡オチよりも憂鬱になる予言オチ」となります。
このコロナ世相の中で、この本を読んで、ますます憂鬱な気分になるか、
それとも「いや人類はそれ以上のもののハズだ!」とジャック・ロンドン氏のニヒリズムに反論したくなるか、
それは読者一人一人の感じ方しだい。