完璧すぎる幻想小説「パウリーナの思い出に」は翌日に効いてくる遅効性の悪夢【アルゼンチンオバケの話#11】
ラテンアメリカ文学の名作には、
読んでいる間は「これは何の話なの?サスペンスなの?恋愛モノなの?」と戸惑ってしまうものの、
オチを読むと「ああ、そういうことか!」となり、
そして読んだ後からじわじわと「心が侵食される」遅効性のものが多いと思います
それも、読んだ翌日、翌々日くらいになって、「あー、あそこが伏線だったのか、あのセリフがダブルミーニングだったのか!」と、だんだん「効いて」くる感じが多い。
これはつまり、ラテンアメリカ文学には「オチまで読まないと面白さに気づかないものが多い」ということで、
「ラテンアメリカ文学の名作といわれるものを途中まで読んだが、ちっとも面白くなくて、やめた」という人がいるとなると、「読み始めが退屈でも、がんばって最後まで読んでみてくれ!」とも言いたくなる。最初のうちは退屈なものが多いのは実は私もそのとおり(!)とは思うのですけどね。
でも、それならなおさら、
「なかなかラストに辿り着けないバルガス=リョサとかムヒカ=ライネスとかの大長編をいきなり読むのは辛い」
という人も多いはず。
そういう方にはビオイ=カサーレスの短編小説『パウリーナの思い出に』を入門編としてオススメしたい!
『パウリーナの思い出に』はコンパクトな短編ですし、
まさに「読んでいる間は、そもそもどんなジャンルの話になるのかすらまったくわからない」浮遊感を味わせてくれつつ、
最後に哲学的としか言いようのない奥の深いドンデン返しを放ってくれます。
そして翌日翌々日くらいになって、
「あー、あそこで『雨が降ったわけでもないのにやけに寒かった』とか言っていたのも、ただの情景描写じゃなくて、オチのための伏線だったのか!」という気づきがいろいろ出てきて、心を侵食されます。
そう、この小説に出てくる女性パウリーナは、どんなオバケよりも恐ろしい、
これがもう、翌日、翌々日となればなるほど、嫌な感じが増幅していくw。とてもよくできた小説。
何を言ってもネタバレになるので、気になった方には読んでいただくしかないのですが、ひとつだけヒントを出すなら、恋敵への醜い嫉妬に苦しんだことのある男性なら、このオチは最強レベルの悪夢ではないでしょうか?
『パウリーナの思い出に』は厳密にはゴーストストーリーではありませんが、語り口、舞台の雰囲気、鏡というモチーフの効果的な使い方など、一級の怪奇譚ともとれる。
アルゼンチンの小説家の技巧の確かさを味わうことができて感嘆しますが、
ボルヘスにせよビオイ=カサーレスにせよコルタサルにせよ、
アルゼンチン発のこの手の幻想小説を読むといつも不安になることがあります、こうしてSNSに記事をアップしている私は現実世界にいるのでしょうか、それともまさか、私もまた、実はなんらかのフィクションの中の登場人物なのでしょうか、、、?
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