SCALE座談会:フリーランスPRパーソンの“ホンネ”(後編) ~企業とのマッチングについて/フリーランスPRパーソンの教育について~
SCALEのファウンダーの本田氏を中心に、事業会社出身からPR会社出身まで、経験や境遇は様々な中で独立という形で転身を遂げた5名がホンネを語ります。(左から大迫雄毅さん、野島優美さん、本田哲也氏、岡村真由子さん、佐賀晶子さん)
フリーランスPRパーソンの“ホンネ”をテーマにした「SCALE」座談会。前編では、それぞれがフリーランスになった経緯や独立後して感じているメリットについてお送りしました。
▶︎ 前編はコチラ。
後編は、企業との仕事のマッチングについて、そしてフリーランスとなった後の教育への課題について伺いました。
※当記事は、SCALE Powered by PRがスタートした2020年2月に実施した対談のレポートです。
「10社あれば10通り」PRパーソンの企業ニーズとマッチング
本田氏:今回始動する「SCALE」というプロジェクトは大きく「企業とPRパーソンのマッチング」と「教育」の2つの軸があります。
まず、「企業とPRパーソンのマッチング」の部分では、企業側の「PRパーソンを紹介してほしい」というニーズは10社あれば10社違うわけで、それぞれのニーズに対応できるPRパーソンを一人ひとりの経験値を元に丁寧にマッチングしていきたいなと思っています。皆さんはフリーランスとして働く中で、先方の期待値と自分ができることのミスマッチを経験したことはありますか?
佐賀さん:私は最初にご相談を受けたタイミングで、その企業様の期待値がどこにあるのか、それに対して自分が応えられるかどうかを確認していきます。それから、事業フェーズやどれくらいPRというものを理解されているかによっても大きく変わるのでそのあたりも配慮しますね。
そして自分ではお役に立てないな、と思えばお断りしたり違う方をご紹介したりしますが、そこまでフリーランスの知り合いがいるわけではないので悩ましい時もあります。そういった時に頼れる「フリーランスPR人材のデータベース」があるといいなとちょうど思っていたところでした。
本田氏:私自身も独立してから、PR業界が長いこともあって、「いいPRパーソンいない?」っていう相談はすごく多いです。「そこまで経験ない方でいいから…」とか、「PR経験のある方ってどこにいけば出会えるか…」とか。
でもそういう企業が多いということは、すなわちお互いの機会損失が発生しているということであって、仕組化したいなと思ったのが今回「SCALE」を立ち上げたきっかけでもあるんですね。とはいえ、仕組化をするといっても「PRパーソンの履歴書がただ単純に閲覧できます」とかでは意味がないし、「自分の経歴を入れたら最適なクライアントが表示されます」とかはありえないですよね。企業広報とマーケティングPRも異なりますし、PRとひとことで言っても広いですから。
野島さん:私もよく実感するのは「PR」という言葉に含まれる意味の広さです。SNSで発信する、ポスターを作る、など、特定の手法を指して「PR」とおっしゃる企業や自治体の担当者の方も多い一方で、広告も含めた上位概念として捉えられている場合もある。最適な人を紹介できたらとも思いますけど、やはりネットワークには限界がありますからそこは悩みでした。
仮に最適な知人がいたとしても、ご本人がその仕事に対してどう思うかもありますから実際は紹介するべきか迷ったり…。
本田氏:履歴書だけで見ると「5年も地方自治体のPRをやってきたから、この地方自治体の仕事ちょうどいいじゃん!」ってなったとしても、逆にその方は「長いこと地方自治体のPR業務をやってきたからもういいや。違う領域のPRをしたい!」って場合もありますよね。
そして企業側もどういう求め方をすればベストなPRパーソンに出会えるのかと知りたがっているのはあると思います。法務や経理とも違い、PRパーソンは単純な履歴書の閲覧だけで採用すると不幸なマッチングになることがありますからね。
佐賀さん:求める人材に対する「要件定義」や「自社のニーズ」を把握できていないケースが多いかなという印象を持っています。PRってまだまだ理解されていないんだなと。
本田氏:そうなんですよ。ただPRをやることが目的ではなくてその先の達成したい事業上の目的があるはずですからね。全体のどこをPRでやっていくかという話があって、「ここを目的にしているからこの部分を手伝ってくれるこんなPRパーソンが欲しい」といったことは明確にしなければいけませんよね。
その「要件定義」が整っていないまま人材を探してくれ、となれば当然ミスマッチは起こります。ちなみに、岡村さんはいくつかの企業に所属をしているとのことですが、現状ミスマッチが生じていると感じたことはないですか?
岡村さん:今のところ幸い起きていないですね。仕事先の方から「こういう案件興味ある?」とか、「知人が広報を探しているけど会ってみてくれないか」といった紹介が多いので、私のバックグラウンドや仕事の仕方などを知った上で紹介して頂くことがほとんどです。なので、致命的なミスマッチだったことはないですね。みなさんとてもいい方で、刺激的で楽しい日々を過ごしています。
本田氏:紹介は大事ですよね。履歴書には書かれない性格とか、言語化されていない部分も含めて「この人」っていうのがわかっている分、ミスマッチリスクは減りますよね。
独立は通過点に過ぎない。フリーランスにも学びの場を。
本田氏:続いては「教育」についてです。「教育」の部分では「SCALEアカデミー」と呼ばれる体系的な学びの場を提供します。フリーランスになると「自分を成長させる」という観点ではどうしても不安が付きまといますよね。
そうしたフリーランスに向けた勉強会などを定期的に提供できればと思っています。現状で皆さんは自らの価値を高める目的でセミナーや勉強の場に行くことはありますか?
大迫さん:確かに、いわゆる「PRのセミナー」というものに行く機会はあまりないかもしれません。自分がもっと勉強したい分野のセミナーにはいきますが。僕自身が課題だなと思うのは、フリーランスにお願いされる仕事が作業レベルのものになってしまっているケースを目にすることです。
PRは“知識産業”であるべきだと思っているので、「SCALE」もフリーランスが集って、業界を底上げするランドマーク的な場所になればいいなと思います。
本田氏:そうですね。これまで日本には「PR領域におけるコンピテンシー(行動特性)」がありませんでした。私は20年PR業界にいますが、日本のPR教育は欧米と比べてスキル&知識寄りというイメージです。
「リリースを書くこと」「とにかくメディアに当たること」というような、タスクレベルでとらえられていますよね。だから「この人の書くリリースは芸術的だよな」って感動しても、本質的にどういった行動特性でそのリリースが書けているのか曖昧になる。
100年に及ぶPRの歴史があるアメリカでは、それを掘り下げてコンピテンシーに落とし込み、汎用性を持たせています。日本ではPRパーソンの力がどういうことかという本質的な部分が抜け落ちているから「作業お願いします」だけで終わらせて、しかも「作業」としてのフィーしかもらえないのはあまりにもったいないですよね。
佐賀さん:インハウスのPRを経験してきた立場として思うことは、大企業には人が育つ環境があったんだなあということです。社内で上司や先輩から学ぶこともできますし、社外で有料の勉強会に参加する機会もあります。ただ、どうしても社内的な御作法があるので、そこでのやり方を学ぶことも必要になってきますけどね。
なのでそこからベンチャー企業へ転職したときは、変なしがらみもないけれど、社内に教わる人はいないし、勉強会の費用もでないので、自ら学んでいくことの必要性を強く感じました。結果、有志で開かれている勉強会を見つけて、その中でベンチャー企業の広報としての所作を学ばせてもらいました。最近課題に感じているのは、ここからさらにスキルアップするための機会が少ないことですね。
大迫さん:独立も通過点に過ぎないですよね。なので独立した時点でのスキルがその人のPRスキルだ、と周りから評価されてしまうことがあるとするとすごくもったいないことです。例えば3年目で独立したとして、その人のスキルはそこで止まっているわけではなく、そこからさらに培った経験値があるわけで、それがマッチングの際に伝わりにくいのであれば残念だと思います。そういう意味ではアカデミーの開講とコンピテンシーの整理は非常に有意義なことだと思います。
<読者の皆さんへのメッセージ>
本田氏:話が尽きませんが最後に今フリーランスとして悩みながら働いている方や、今後もっとフレキシブルな働き方をしたいと考えている方などにメッセージを頂けますか?
岡村さん:私は新卒時代から「“会社員”は3年しかやらない。だから3年間がむしゃらに働いて学び切ろう、たくさんのことを吸収しよう」と決めていたので、今フリーランスになるかどうか迷っている方は「あと半年でこれを学び切ろう」みたいな感じで、自分の中でスケジュールを引いて、それまでに達成すべきことを決めると覚悟が固まると思います。あとは「人間なんとでもなる」ので、勇気をもって飛び出すといいのではないでしょうか。
野島さん:私は独立を決めたのは“自分の心に嘘がつけない”という気持ちが強くなったからなのですが(笑)。ある日ふと「会社を辞めれば自分の好きな地方自治体のPRの仕事も、これからやっていきたい人材育成の仕事もどちらもできるかもしれない」と思ったんです。なぜあまり恐れを抱かず、すんなりそう思えたか考えてみると、やはりこれまでにPRの仕事をする中で出会った色々な人とのつながりがあったからだと思うんです。
同じような感覚や好奇心を持った方々とのつながりがあればあるほど、助け合えたり、お仕事もご紹介いただけたりして、不安な気持ちは減っていくのではないかと思います。これからの時代、目先のお金があることよりも「あの人だったら本当に困った時に相談にのってもらえるかも」というつながりがたくさんあることが大切なのではないかなと思う今日この頃です。
大迫さん:前提として組織で働くこと自体は重要なことで、学びも多いですしチームをマネジメントする機会があるなどビジネススキルとしてメリットが多いなと思っています。その上で、組織に所属して多くを拘束されるよりもマルチに多動したい方にとってはフリーランスという働き方が合っていると実感しています。
不安に思うことがあるとすれば、つながりやお金の部分だと思いますが、一度外に出るとすぐに小さな悩みだったことに気づかされます。今後は「SCALE」のようなサービスもそれを後ろ盾してくれるセーフティネットになると思いますし。個人的にはPR業界は女性が多い業界でもありますから、いずれ会員同士で共済会みたいなものを作って、産休や育休に対する福利厚生のようなものができたとするとコミュニティとしての所属意識も生まれて面白いですよね。
「SCALE」の今後の展開が楽しみです。
佐賀さん:私はフリーになってすごく幸せなのですが、今があるのはやはり大企業で鍛えてもらった礎があるからだと感じています。そのことは本当に感謝しています。今企業で働かれている方は組織での学びや経験、理不尽なことも必ず血となり肉となっているはずです。
マインド面でいうと、会社員時代は、ずっと空気を読んで仕事をしてきましたが、フリーランスになってからは自分が思ったことに正直に動くようになりました。「ここ、おかしくないですか」「今からここ変えられませんか」とはっきりとお伝えするとクライアントからは「そういうのを待っていた!」と言われて。
求められていたのはこういうことなのか!と。なので、より自分らしく働きたいという方はフリーランスというスタイルはいいかもしれません。
本田氏:皆さんのお話を聞いてフリーランスの働き方とPRは、やはり相性がいいんだなと感じました。今回のSCALEのしくみは第三の道だと思っていて、「事業会社やPR会社に所属するか」「一匹狼のフリーランスでいくか」のどちらでもない、その中間にあるデータベース上で仕事が生まれていくイメージなんです。組織に所属するではなく、だからといって個人で孤独ということでもない。
働き方もフレキシブルになりますし、企業のPRのあり方もフレキシブルになるということです。個々の自由度を上げていい仕事ができるPR環境を実現させたいですね。
―――ありがとうございました!
※当記事は、SCALE Powered by PRがスタートした2020年2月に実施した対談のレポートです。