CES2022潜入レポート!
オミクロン株の逆風をおしてCES 2022に潜入してきました!
私達は投資先スタートアップD’Artsの支援のためCES 2022を訪れましたが、ついでに見て回ったので、我々の超・主観的なレポートをお届けします。
ご存知ない人のために。CESは世界最大級のテック・イノベーションの見本市で、毎年年初にConsumer Technology Association(CTA)主催でラスベガスで開催されるイベントです。
2021年は全面オンライン開催だったので、今年は2年ぶりの対面開催で期待大だったのですが、Google、Amazon、Facebook(Meta)、Intelなど例年の目玉出展者がオミクロン株の猛威を受けて相次いでリアル出展を見送るなか、空きブースが目立つ寂しさは否めず、来場者も2020年に17.5万人を数えたところから大幅減となったようです。
出展者数:約2,300社(内スタートアップが約800社)
参加者数:約40,000人
CESは膨大な領域からの出展があるので俯瞰的な整理は容易ではないものの、私たちは「AI、ブロックチェーン(暗号化技術)、VR、ドローンといった技術群」と「その適用対象としてのリアル空間とバーチャル空間、移動体、人間やペットといった生き物」の掛け算として把握するのが便利と考えています。
メディアでは個別に目立つ展示を雑多に紹介していますが、私たちは提供先ごとに分けてリアル空間としての「スマートホーム系」「モビリティ系」「人間の肉体系」、バーチャル空間としての「メタバース系」「人間のメンタル系」の五領域が目立つイベントだったと感じました。
これらの領域を通じて「コロナとの共生」を前提とする展示が多かったわけですが、CES 2022では、例年にくらべて非連続的な飛躍のある展示が見られなかった反面、人の生活が不可逆的に変化し新たなライフスタイルに対する受容性が高まったことを前提として「技術がもたらす快適性」に対する要求の高度化を見込んだ具体的な価値提供の競争が始まっていると感じました。
例えばリモートワークが当たり前になった現在「複数同時参加でビデオ音声会議ができる」というだけで足りていたニーズに「ビデオ会議で失われがちな息遣いやぬくもり、空気感をいかに再現するか=immersive」という要求が加わって「高度なリアリティを再現するバーチャル会議」というテーマでの競争が目立ちました。デジタルコンテンツを家にいながらにして消費する有償流通が当たり前になった現在、コンテンツの真正性が価値の大小を分けることを前提としてNFTの実装競争が見られました。
つまりCES 2022は(それがよいことがどうかはさておき)コロナ禍という世界共通の普遍的な大変化のせいで世界共通で一律なライフスタイルの変化を前提としているため「技術と適用対象の間に新たな掛け算を通じてまったく新しい価値を生み出す場」ではなく「革新的な技術が人々の生活に等しく浸透したことで、その具体的な洗練性を競う場」になっていたということです。
そんななか気を吐いていたのが、各国から集まった技術系スタートアップの展示で、彼らには、統合的で壮大なビジョンよりも具体的なアピールをもつ特定の製品やサービスを磨く動機が強く生々しいユースケースが想定できる展示であるためブースを訪れる来場者と活発な質疑が発生するシーンが多く見られました。
実際、私たちが投資先のブースで手伝っていたら、季節外れないでたちのあんちゃんがフラッふらっと足を止めて、目を輝かせながら色々と質問をしてきたのですが、これがなんとOculus VR社の(伝説的)創業者パルマー・ラッキー氏(19歳でプロトタイプを開発し、24歳でOculus VRをMeta(旧Facebook)に約23億ドルで売却)ご本人!
CESの中でも特にスタートアップへの注目と盛り上がりが高いと実感すると共に、セレンディピティや出会い(我々の共通言語では「エフェクチュアル」と言ったりしますが)こそが、こういう場に出展する醍醐味と再認識しました。
一方、大企業の展示ブースは、乱暴にいえば「壮大なビジョンを掲げているものの、個々の製品やサービスには具体的な尖りが足りない」印象が共通していました。
例えば2020年は某社がネットワーク都市構想を、今年も某社が鳴り物入りでEV事業への参入とコンセプトカーを紹介したものの「TESLAをはじめとして先行するEVメーカーに対してユーザー体験において決定的に差別化するポイントは何か?」というごく当然の問いかけに対する明確な答えを持ち合わせておらず「スタイリッシュなダッシュボードのEV」という以上のアピールに乏しいと感じました。来場者も「ふうん…格好いいけど、それで私たちの生活がどう変わるのかな?」が想像できず、人だかりはあったものの、展示されているEVの写真を撮影するだけで滞在時間が短く、現場の出展担当者との質疑や会話は殆ど見られませんでした。
この傾向は他の日本の大企業ブースでもおおむね共通しており、話題性を煽ったり露出の機会として活用しようとしているものの、多くの出展企業が「コンセプトに留まらず具体的な洗練性を競うゲーム」を意識して具体的なユースケースを来場者(=市場)に当ててフィードバックを得ようとしている中では、抽象的なコンセプトの一方的なぶち上げに留まっていたというのが率直な感想です。(もちろん例外はあるけど)
話は飛躍しますが、こういったアプローチは新しい価値を立ち上げていく基本動作とも共通しています。私たちは多くの日本企業でイノベーションや新規事業支援を行っていますが「壮大なビジョンを意識しすぎてコンセプトが具体化しない」という落とし穴に出くわすことがあります。最終的には大きな姿を目指すとしても「具体的な洗練性」を研ぎ澄まさないことには「誰に、どのような価値を提供するのか」が曖昧になり、ユーザーにアピールしないか、誰からも求められず売れない製品・サービスを作ってしまう罠に陥ってしまいます。
「手もちの札を活かして舵取りをしていく」、「抽象的な構想に留まらず、具体的な価値を提案して実行する」方法論として「エフェクチュエーション」や「リーン・スタートアップ」という考え方があるので、また別の回でご紹介したいと思います。
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