”ゴールが明確ではないという点での音楽活動と経営の相似性について” vol.5(前編) ITインフラエンジニアしんじょうさん
対話における立場や役割はグラデーションで変化し続ける。
ボクはおいかぜの社長ではあるけれど一人の人間です。とても当たり前の話です。この企画は社長とスタッフというそれぞれの立場で話す対談ではあるのですが、対談の時間の中でその立場や役割が薄れたり無くなったりして、頻繁に一人の人間と人間とで対話している時間が訪れます。
今回のしんじょうさんとの対談はそういう時間が多くありました。
会社勤めから経営者になったボクとフリランサーから会社勤めになったしんじょうさんが、経営と音楽活動の相似性について話すとき、それは社長とスタッフの関係ではなく、ただの人間と人間との対話でしかなかった。
対談・文字起こしのチェック・執筆の間、ボクはしんじょうさんとの対話の、あの時間について考え続ける。ボクがこの企画をはじめたときに気付いていなかった大きな価値がこの対談にはあるように感じ初めています。
対談相手の、今回はしんじょうさんのことを少し深く知ることができた。でもその知る以上の何か、一緒に働くとか酒席でわいわい話すとか、そういうことではない関係性の構築。うまく言語化できていませんが、この企画が進むにつれて何か答えらしきものを見つけることができる予感がしています。
そんなボクとしんじょうさんの対話です。
ボクたちはずっと「働いて」いる
柴田:
今日ボクがしんじょうさんに一番聞きたかったのは、バンドとおいかぜのバランスのはなし。ちゃんとバンド活動をやっていて、音楽を仕事にしようと思って生きてきた。その後においかぜに転職してきたじゃないすか。その変化、1年半経って想像していたライフスタイル・ワークライフバランスになっているのか、今どんな感じで働いてくれているのかに一番興味があります。
しんじょうさん:
すごく良い感じです。想像通りというか。今31歳なんですけど、会社員になるって初めてなんですよ。そこだけ聞いてると結構やばいんですけど。笑
柴田:
まあまあまあ。笑
しんじょうさん:
働きながら音楽をやるっていうのをしたことがないので想像できてなかったところではあるんですよ。漠然といい感じになればいいなみたいなって思ってたんですけど。
柴田:
うんうんうん。
しんじょうさん:
今、すごく良いバランスだと思ってますね。おいかぜに入るまではフリーランスでした。柴田さんもフリーランス的なスタンスのお仕事だと思うんですけど、いつでも仕事できるし時間が自由じゃないですか。だからよっぽど自分を律しないと仕事とプライベートを分けられない。ボクはそこを見事に全部分けれてなかった。
特に音楽に関しては目指したいところってのがあったので、いつまでやっても足りない足りないというふうになっちゃってて。
柴田:
そうですよね。無限ですよね。
しんじょうさん:
そうなんですよ。無限なんです。だから結果として音楽に取り組むっていうことに関しても良くないことだったと思っています。例えば音楽活動の傍らにドラムレッスンとフロントエンドのWebエンジニアをしていた時期でも、両方にとって良くなかったんですね。きっちり分けれていない。でも会社員になると、会社に行く時間は仕事をやって、帰ったら仕事じゃなくなる。で別のことをする。休日は休日で別のことをする。そこのパキッとわかれてること、これは素晴らしいなと。笑
柴田:
あははは。笑
いいっすね。おもしろい。
しんじょうさん:
フリーランスの立場だったときには、毎朝同じ時間に電車乗って出勤するなんて考えられないみたいな感じだったんです。今のバンドの仲間から「よくやってるね」って言われます。ボクもそこに恐怖はあったんですけど、やってみると、自分はこっちに向いていたのかもって感じています。
柴田:
なるほど。ボクの場合は仕事とプライベートを分けるのは諦めたっていう感じなんですけどね。
しんじょうさん:
え!諦めたんですか?
柴田:
そう。だから毎日仕事してます。
しんじょうさん:
えーーー。
柴田:
全然苦じゃないんすよ。丸一日休まなくていいというか。半日休んだりとか、平日少し早く仕事を切り上げたり、曜日関係なく毎日べたーっとずっと仕事するようにしてるんですね。いっときは切り分けていたこともあるんですけどね。
しんじょうさん:
はい。
柴田:
結局切り分けていても自営業者とか経営者って、ずっと頭の中に仕事のことがある。お勤めの人たちだってそういうときもあるかもしれないんですけど、ボクの場合ずーっと頭に仕事のことがあるから、それなら気になってることを気になったときにやった方が健全だなっていうのが、ここ一年ぐらいの結論かもしれないです。
しんじょうさん:
なるほど。
柴田:
それはフェーズというか、ライフステージによっても変わる。ボクは子育てがちょっと落ち着いてきたのは大きいです。末っ子が小学校に上がって、そこまで手がかからないんですね。ちょっとした隙間の時間にスタバに行って仕事するか!とかっていうのができるようになったっていうのはある。でもしんじょうさんの言うこともすごくよくわかります。
しんじょうさんのバンドって売れてるし有名じゃないですか。しんじょうさんにとってバンド活動って仕事をしているという感覚はありますか?
しんじょうさん:
まだまだ小規模なバンドで、がんばってるところですが。笑
ボクの一つの反省点として、もう少しバンドを仕事として割り切ったら良かったなっていうのがあるんですね。音楽も仕事だと思った方がよかった。でも、そう思えなかったし、思いたくなかった自分が、20代の自分だったんです。
柴田:
自己表現っていうところに重きがある感じですかね?そっちに軸足があるというか。
しんじょうさん:
そうですね。バンドでの表現をピュアな芸術っていう風に自分では美化しすぎていた。コマーシャルアーティストという分類に入りたくないと思っていた。ただ、もっと仕事として捉えて、音楽仲間との接し方もそうですし、音楽の作り方、結局クライアントワークだったりするんで、そこをもっと仕事と捉えていたら、もっと違った方向はあったのかなと今思ったりはします。
柴田:
なるほどね。フリーランス時代はバンド活動・ドラムの講師・Webエンジニアを、それぞれが日々ずっと並走してるみたいな状態だったと思うんです。同じ状態が毎日続く。会社勤めになったことで、それらが縦に割れたような状態になったじゃないですか?要はこの曜日のこの時間はおいかぜでお金を稼ぐ仕事をして、それ以外の時間で副業があったり、バンド活動があるみたいな。割とそれぞれがパキッとわかれるようになる。やってることは多分変わらない。時間の組み方が変わることで捉え方が変わったりするのかなって。バンド活動が仕事だと言いたいわけじゃなくて、働くという定義を社会との接点をつくることって捉え方したときにしんじょうさんはずっと働いてるんじゃないかなと。そういう意味で、実はフリーランス時代もおいかぜ時代も変わってないんじゃないかなって気がするんですよね。要は時間の区切り方が変わっただけでずっと働いてるよねみたいな。そこは感覚的にどうですか?
しんじょうさん:
確かにおっしゃる通りだと思います。笑
柴田:
あはは。笑
しんじょうさん:
そうだと思います。確かに、うん。
そうなんですよね。今でもありがたいことに音楽や演奏の仕事をちょくちょくもらっていて結局やってることは変わっていないしずっと働いていますね。でも精神衛生上は全然違いますね。
柴田:
なるほどね。
音楽も経営もゴールがない
しんじょうさん:
今回はボクがゲストでボクの話をすることがメインの対談だと思うんですけど、柴田さんにめちゃくちゃ聞きたいことがあって。
普段わざわざ発信されないような、例えば柴田さんって仕事は普段どうしてんのか?みたいなこととか、子育てしをながら仕事をするってどうやってうまくやってきたのか?とか。
柴田:
ずっと試行錯誤というかトライアンドエラーですよね。
一つ確実に言えることは、経営や社長業ってさっきしんじょうさんが話してくれた音楽活動に似ていて際限がないんですよね。何をやったら正解かってのが実はない。お勤めってある程度ベンチマークがあるじゃないすか?ここの仕事が終わったら帰れるとか、これが納品だよみたいな。もちろんボクにも納品っていう概念はありますけど、明確なゴールがないんですよ。だから日常でゴールを作らないと、なんかもう頭おかしくなりそうで。笑
しんじょうさん:
あーーー!笑
柴田:
ちょっと大袈裟かもですけど、わかりやすく言うとそういう状態。だから例えば家事や整理整頓するときに日々の正解みたいなことを明確に決めてるんですよ。”それができたら大丈夫!”みたいなポイントいっぱい作っているって感じです。小さい頃からそういうタイプではあるんですけどね。
しんじょうさん:
なるほど!
柴田:
もちろん会社の売り上げやみんなの成長といったようなベンチマークはあるんですけど、ボク個人で言うと”これをやってこれをやってこれをやってるから今日は大丈夫!”みたいなのことを日々繰り返してるだけって感じです。
しんじょうさん:
へえ!なるほど!
柴田:
そうじゃないと経営者って多分病むと思ってます。笑
しんじょうさん:
そうですよね。笑
ボクがさっきお話した、おいかぜに入る前とやってることは変わらないけど、会社員になって精神衛生面がすごく良くなったっていうこと、いま柴田さんが仰ったことがまさにそれな気がしていて、音楽とか芸術も確かにゴールがない。
それが今の仕事、ことエンジニアリングって、やり方が複数はあったとしても正解がある。
柴田:
ある。ある。エンジニアリングの良いところですね。正解があるからね。
しんじょうさん:
そうなんですよ。ボクがおいかぜに入ってから今までで一番幸せなポイントはそこかもしれないです。
柴田:
あー!面白いなー。たしかにね。
しんじょうさん:
ずっとそこで悩んできたような気がします。自分が生きていく中で、音楽を聞いて感動した経験があって、そこから自分も音楽を生み出してるじゃないですか?もちろん自分が影響を受けた音楽を目指すんです。どういう音楽かは人によって違うんですけど、例えばそれがジャズとか楽器を演奏するっていうジャンルであれば、超絶技巧が目指す一つのところ。いかにたくさんの音のボキャブラリーがあって、瞬時にそれを披露して、会場が盛り上がる。そこを目指しているとしても、一方で歌を大切にするジャンルだったりとか、クラシックだったり、あるジャンルでは超絶技巧ということに価値が高くないこともある。オーバープレイって言われるんですけど、楽器の演奏が長けているからこそ、他に影響を与えてしまう。超絶技巧自体はすごいことなんだけども、音楽はそれを必要としないときがある。いくら自分にとって奇跡と感じたり神様が作ったって思えるような音楽も、他の人にとっては別に何でもないこともあるんです。そういうことって再現性もないし、自分がいくら頑張ったって認められない人には認められないっていう。そこでずっと悩んでいたんです。
柴田:
すごく面白い。ボクの場合、こと経営に限って言うと、経営ってゴールとかこうすれば正解はないってなると、さっきの”一日これをやっていたら自分が大丈夫”って確かめることのできる色んなツールを用意するみたいなところと一緒かもしれない。たぶん音楽って突き詰めていくと”音楽性=人間性”みたいなところになっていくんじゃないかなと想像するんですけど、人としてどういう器があるかが音楽の器だ!というようなところ、つまりテクニックじゃなくてアーティスト自身の深みをつくることでつくる音楽も深みが出てくるよね、みたいなところは経営と一緒で、経営者も多分そういうメンタリティなんですよね。
ボクの人生経験とか、ボクの経験値とか、そういうボク自身の考え方とか知識、そういうこと全てが経営に反映されると信じている。じゃないと多分やっていけない。正解とかゴールがないという意味では音楽と経営は一緒ですよね。単純に技術とか、作品を出すっていうゴールだと達成されたら続けられなくなることがあるかもしれない。経営って自己表現に近くてボクがバンドマンに興味があるのはそういう相似性かもしれないですね。
しんじょうさん:
へー!経営って自己表現なんですね。
柴田:
自己表現ですよ。そして人生そのものです。だってボクの考え方が組織に対してめちゃくちゃ反映されますよね。
しんじょうさん:
たしかに。
柴田:
おいかぜも人数が増えてそれなりの組織になってきましたけど、まだまだボクの色が強くて、しんじょうさんがこういうことやりたいですとか、こういうふうにしたいですって言ったときに、直接的なのか間接的なのかは別として最終的にYESかNOかをジャッジするのはボクなわけじゃないすか?それはルールや仕組みも含めて。ということはボクの考えがすごい反映されますよね。だから会社の器ってボクの器そのものだと思っています。
しんじょうさん:
なるほど。はい。そこに共通点があるとは全く思ってなかったですね。
柴田:
そこはめちゃくちゃ似てますよ。
しんじょうさん:
へー!なるほど。
柴田:
うん。だから譲れないもの・変わり続ける必要・妥協しなきゃ駄目なこと・続ける意味、そういうものが出てくる。すごく似てるんじゃないかなと思っていて。
しんじょうさん:
あー!その並んだキーワードはバンドでもまさにそうですよ。
柴田:
だからおいかぜに所属しながらでも自己表現の場を持ってるスタッフは、ボクはすごく健全だなと思っています。それはバンドだけじゃなくて作家としてでも副業の仕事でも何でもいいんです。要は自分っていうものをどう捉えてどう発露するかという場を持ってることって、生きていく上ですごく大事なんじゃないかなと思うんですよね。さっきしんじょうさんが言ってくれた働き方の変化の話、おいかぜに入って時間の使い方が変わることでバンドの捉え方が変わったりするのって、とても面白いなと思いますよ。
しんじょうさん:
そうですね。ボクも意外な心境の変化に自分で気付いて、実はこっちの方が性格的に、自分には向いていたっていうところはあります。
音楽だけしている自分に誇りが持てなかった
柴田:
あとはライフステージもあるかもですね。生活リズムの変化とか。若いころはある何かに一点集中みたいなことができても、30代を目前にするとリズムを作っていきたいということはあるんじゃないかな。
しんじょうさん:
そうですね。ライフステージはめちゃくちゃありますね。ライフステージと世の中。うん。確かにそうですね。
ボクがITインフラエンジニアになるって決意したのはその2つが理由ですね。ライフステージと世の中のこと。自分の年齢と世の中のことですね。
柴田:
なるほど。世の中のこと、とはどんな感じなんですか?
しんじょうさん:
誤解を恐れずに言うと「音楽をしてる場合じゃない」っていう時代に入ってる気がしていて。もちろん継続してやっている人はいるし、自分もやっているし、音楽はすごく意義のあると思っています。ただ現実的に考えてその次元に世の中はない。もっと生きるか死ぬかっていう問題に近い方向に今みんな集中している。一番のきっかけはCOVID-19です。
柴田:
たしかにCOVID-19以降そういう側面はありますよね。
しんじょうさん:
そうですね。ライブ禁止、集まることが禁止、ライブハウスでクラスタが出たりして、わかりやすく実質音楽が禁止されました。ライブを収入にしてる人たちは仕事にならなくなった。「あぁこういうこともあるんや」っていう一つのショックです。あとずっと昔からある問題ではあるんですけど、戦争です。
柴田:
そこに辿り着くんですね。
しんじょうさん:
まずはロシアとウクライナのこと。もう本当に直近ですね。その頃も音楽の仕事はしていて、昨日ロシアがウクライナに対して戦争始めましたってっていうタイミングはすごいショックでした。
柴田:
そんなに影響を与えてるんですね。
しんじょうさん:
日本は今は幸せな環境に置かれた身なので、ありがたく音楽をすればいいんですけど、ただそこにあんまり誇りが持てないって気持ちがありました。
人がめちゃくちゃ死んでるっていうときに、音楽をするっていうことがそんなに誇らしいことなんかな?という気持ちになりました。音楽が確実に力を持っていることは確信しているんですよ。ただ実質何も救わないですよね。やっぱり世の中に余裕があるから活動できるありがたさがある。そして最近だとイスラエルとパレスチナの問題。まだまだ続いていく。そういうことで自分がくらってしまいました。
音楽が世の中から求められてないとして、音楽しかできない自分っていうと、もう本当にただ平穏に暮らすだけ存在。批判的に言うともうただ食料を消費して排泄してるだけの価値なってしまう。身近で良いから世の中に対してもうちょっと確かなことをできる人間になりたいって思ったんです。
柴田:
なるほど。しんじょうさんの言う「音楽をしてる場合じゃない」って本音じゃないのかもな?とは感じました。本音じゃないというか正確に言うと「音楽をやりながら違うこともしたいと思った」ということの言い換えなんじゃないかなぁ。
しんじょうさん:
そうですね。そうです。
柴田
しんじょうさんは音楽の力は信じてると思う。
あとダブルワークが認められる世の中になったってのも結構大きかったんじゃないかな?
しんじょうさん:
大きいですね。
柴田:
だから両立してるのはすごく健全だなって思っていて、音楽はやっぱり力はあると思うし、音楽にしかできないこともあるだろうし、ITインフラのエンジニアリングといった世の中に実際的に役に立つことにも意味があるし、この両立っていうのが良いんじゃないかなっていうふうには思いますけどね。
しんじょうさん:
その両立させてもらえる環境、おいかぜの環境はめちゃくちゃありがたいですね。
(後編につづきます。)