”MIX BIKEと楽曲という工数の概念ではないモノづくりについての対話” vol.5(後編) ITインフラエンジニアしんじょうさん
しんじょうさんはいつも笑顔である。
ボクの印象としては彼はいつも笑っているような気がします。礼儀正しいし、場に応じて冗談を言うこともできて、当然仕事もきっちりこなしてくれる。
ボクはしんじょうさんのようなスタッフと接するとき「きっと親御さんがきちんと育てられたんだな」って思うようになりました。実際のことはボクの知るところではないにしても。
それはボクが親になったことが大きい。いろんな人を見るときの目線が変わってきた。一人の人間を、毎日仕事をこなせるようになるところまで、ちゃんと育てることの苦労を少しばかりわかってきたことは、ボク自身の変化でおいかぜでのスタッフとの接し方への変化でもあるわけです。
子供がどんなに不安定でも、ボクが想像する範囲を超えたことをしたとしても、ある一定の信頼を持って接する必要がある。これがとても難しい。
ボクはおいかぜのスタッフにもある一定の信頼を持って接したいなと常々思っている。我が子とまったく同じようにというのは難しいかもしれないけれど。
前回の前編に続いて後編をお届けします。
子育てという制約が生むもの
しんじょうさん:
柴田さんってやりたいことがいっぱいあると思うんです。できるだけそういうやりたいことに時間を使いたいっていう中で、お子さんがいない頃から生まれた後、自分の考えたいこととか使いたい時間っていうのをその子育てに割り当てないといけないってなったときのストレスってありましたか?
柴田:
ストレスはありますね。
しんじょうさん:
本当はこっちのことをしたいけど、オムツ替えなきゃみたいなことですよね?
柴田:
そうですね。わかりやすく夜出かけられなくなることはありますよね。「今日ちょっと飲みに行こうや」って友達に誘われても「じゃあ行くわ」って言えない。特に子供が生まれると出てきますよね。そういう制約が出てきます。
しんじょうさん:
制約は感じるけど、別に取り立ててストレスっていう感じじゃないですか?
柴田:
ストレスですよ。
柴田、しんじょうさん:
あはははは。笑
柴田:
誰しも自由に生きていたいじゃないですかね。自分が思うようにやりたい。
しんじょうさん:
やっぱりみんなそうか。
柴田:
これはさっきのしんじょうさんの話に戻るんです。制約されることで集中っていう概念が生まれるんですよ。
しんじょうさん:
あー!いい言葉ですね!
柴田:
それはそうですよ。最初はそういうフラストレーション、めちゃくちゃイライラしたりとか、言い訳したりするんですよね。「子供がいるからやっぱりいろいろできひんわ…」ってなるじゃないすか。でもね。それでやってる人たちが世の中にいるわけですよね?所謂先人たちがいる。何が言いたいかというと、さっきしんじょうさんも言った、会社とそれ以外ができたときに音楽活動にフォーカスできるっていう話。その感覚と一緒です。
しんじょうさん:
ああ!今回の記事のタイトルそれですね。笑
柴田、しんじょうさん:
あはははは。笑
柴田:
まさにそういうことだと思うんですよね。哲学みたいな話になっちゃうんですけど、無限であることとか自由であることって、全然自由でも無限でもないんですよ。そうじゃないですか?
しんじょうさん:
いま足の裏から共感してます。笑
柴田、しんじょうさん:
あはははは。笑
柴田:
「締め切りは創作の母」と言われるように、制約されてこそ初めて何かが生まれることがある。子育てをすることで改めて気付けることはあるかもしれないです。
しんじょうさん:
あぁ。子供を育てよう。
柴田、しんじょうさん:
あはははは。笑
柴田:
後付けのロジックでもありますよ。うちのスタッフで言うと樋口さん、近藤さん、佐野さん、聡さん、下川さんも小さいお子さんがいらっしゃる。お子さんいらっしゃる人でもイキイキ働いてるらっしゃる方って多いじゃないですか。
しんじょうさん:
たしかに。たしかに。
柴田:
働く以外の時間はほぼ子供のための時間、子供のためとかそういう次元じゃなくて選択肢がない状態なんですよ。この時間は仕事!ってなったとき。ぜったいに終わらせるしかない、この時間以外使えない、ってなったときに発揮できるポテンシャルは高い。そしてモチベーションも高いですよね。
課題があってもしょうがない
しんじょうさん:
なるほど。うわー。ボクの中で完全にConnecting the dotsです。制約がある方がクリエイティブが生まれるっていうことの知識はある。そして実感もあったんですよ。
例えば、ドラムキットで太鼓やシンバルをめちゃくちゃたくさん並べるんじゃなくて、シンバル2枚だけ、太鼓も3つだけみたいな制約を設けるとします。この限られたパーツの中でどうしよう?ってなる。前者より後者の方がアイディアが湧き出てくるんですね。子供にも与えるものが少ないほうがクリエイティブに遊ぶという実験があったり。制約はクリエイティブに繋がるっていうこと、かつて先人達が言っていたことではあったんですけど、ボクの中で一つ証明されたんですよね。会社員になってからの自分にも起こっていた。やっぱ制約っていいものやなって思っています。
柴田:
ですよね。まさにそうですよね。
しんじょうさん:
正直子育てをするということに関しては、自分の時間が減っちゃうなーって思ってたんです。
柴田:
時間は減るし、不測の事態しか起きひんし、めちゃくちゃ大変なこといっぱいあるし、不確定の塊みたいなものではあります。
しんじょうさん:
はい、確かに。
柴田:
子供って自分とは違う人格やしね。いろいろ制約が生まれるから産みなさい育てなさい、みたいなことは言えないんですけど、子供がいるっていうことをポジティブに捉えるとしたら、その制約とあとは自己鍛錬です。
しんじょうさん:
自己鍛錬。
柴田:
はい。ボクの場合は子供がだいぶ大きくなってきているので「何でこれをしてへんねん!」とか言いながら「あぁ自分もあれしてへんなぁ」とかなることはある。偉そうに言う手前、こっちもしっかりしなあかんってのはある。
子供が小さいときはもっと理不尽なこともやっぱいっぱいありますよ。急に歩かへんとか言い出す。それは彼らにとっては何も理不尽なつもりではない。でもこっちからすると「あと20分後にあそこに行くって約束してるんやけど…」みたいなことが日常で起こるわけですよ。そういうときにどうするか?みたいな話って仕事で往々にして起こりますよね。思うようにいかないときにどう対処するかっていう仕事のエラーみたいなことの、もっとどうにもならないことが起きたりするんですよ。
柴田、しんじょうさん:
あはははは。笑
柴田:
「マジで?これどうする?」みたいな。樋口さんとかは今まさにだと思います。子供が熱で迎えに行かないと!ってなっても当然夫婦で働いておられるから「これどうする?」みたいなことを常にやってると思います。ギリギリだと思います。大変やけど”制限ができる”っていうところと紐づいてますけど、自分を鍛えるという意味で、すごく強制的に鍛えられるなとは思います。
しんじょうさん:
いいですね。
大人になってから理由とか理屈で考えることが多いわけですけど、そういう理由のない「歩かへん!」みたいことをけっこう「おもしろい!」って思っちゃいます。そういうの好きです。ボク動物も好きで、そういう何かが理屈があってやってるわけじゃない、何か理由があるわけじゃない「そうなんねや!」っていう「なんでそうなんねん!」っていうのにすごいおもしろさを感じますね。
柴田:
あとは課題があってもしょうがないと思う気持ちにはなってくる。課題が出たときって解決しようと焦ったりとか、課題があること自体に焦りを感じたりとか「これやばいんじゃないか?」って思う。おいかぜだって課題はいっぱいあります。でもボクは課題って別にあっていいんじゃないかなって思ってるんですね。課題に対して向き合い続ける、向き合って解決しようとしている姿勢があれば、良いんじゃないかって。「この課題どうするつもりなんですか!」って感情的になるのってちょっと過剰だと思ってるんですよね。子育てをしてると、どうしようもないことにぶつかる。小さい子供が自分の嫌いな食べ物を床に捨てる。例えばその子供がまだ言葉がわからへんかったとして、怒ってもしょうがないじゃないすか。「床が汚れるからやめなさい!」って言ったって彼らにとって床が汚れる概念がなかったとしたら「うん。とりあえず拾って掃除するか」ってなりますよね。
さっきの戦争の話じゃないけど、どうしようもないことを経験すると、もうちょとみんな穏やかになって、平和になるんちゃうかな?とは思ってます。「課題ってあるよね!」みたいな。恨みつらみがあるかもしれないけど「それしゃあなくない?」みたいなところに行ければ良いのになぁとは思ったりするけど、なかなかそうはならないのが世の中なんだろうなっていうのも思っています。
しんじょうさん:
なるほど。すごい共感しますね。
MIX BIKEと楽曲という工数という概念ではないモノづくりについて
しんじょうさん:
最後にもう一つ聞きたいことがあります。MIX BIKE、あれはなんなんですか?
柴田、しんじょうさん:
あはははは。笑
柴田:
MIX BIKEはMagasinnさんが運営しているミックスジュース専門店のCORNER MIXとおいかぜのワワワでつくったマシンです。Magasinnの代表の岩崎くんからCORNER MIX立ち上げのときにワワワでワークショップやりませんか?つくりませんか?って誘っていただいたのがきっかけです。いまはワークショップさせてもらったりとか、一緒にPOP UP SHOPで出店したりしています。その流れの中である経緯でMIX BIKEの原形となるサンプリング元に出会ったんですけど、それを再現できないかな?って2人でなったんです。ミクロコスモスのいーはんくん再現してもらいました。インドネシアのすごい昔のエアロバイクらしくて、それをカスタマイズしました。MIX BIKEは完全にバイブスだけで作ったんですよね。「こんなんあったらおもろいな!」という初期衝動で。
しんじょうさん:
まさにバイブスですね。いいですね。いいエネルギー。
柴田:
すごい話題になってるし、いろんなところから貸してくださいって引き合いがきてます。できることならもう1台作りたいけど再現性がない。笑
しんじょうさん:
さっきの子供の話とも繋がるんですけど、何か理由つかないものって魅力的ですよね。MIX BIKEも理屈じゃない。
柴田:
理屈じゃないです。
しんじょうさん:
面白いですよね。
柴田:
もともと再現性がないものを研究してミクロコスモスチームが何とか完成に持っていってくれた。奇跡みたいな一品です。
しんじょうさん:
すごいなぁ。非常に用途が限定されてますね。ああいうヘンテコなもの結構好きなんですよね。
柴田:
まさに制限されてますよね。笑
しんじょうさん:
たしかに。笑
そうなんですよね。やっぱり「みんな何それ?」ってなって、結構メディアに取り上げられて、レンタルも開始したっていうし。
柴田:
レンタルも開始してますね。MIX BIKE自体がお金を生み出している。
しんじょうさん:
MIX BIKEってミックスジュースの宣伝をしてるわけでもないし、ただただヘンテコなもんやけど、結果すごい広まってる。CORNER MIXさん、おいかぜのこともすごい広がっている。
柴田:
ああいうものって楽曲と一緒だと思うんです。普通のロジックでは作れないじゃないですか。バンドマンが作ってる曲って見積もり作って工数ベースで考えたら作れないじゃないですか?
しんじょうさん:
たしかにたしかに。
柴田:
例えばドラムのこのソロパート練習するのに8時間かかるから単価いくらでとか言い出して、この1曲つくつのに50万円で、アルバム全部作るのに500万円とかなったとして。「え!無理じゃない?」みたいな話になりますよね?漠然としたイメージ、こういう世界観を実現したい、ってことを目標に関わるみんなが工数度外視でそこに向かって作ったときに出来上がる世界線。ちなみにボク、楽曲つくったことないですけど。
柴田、しんじょうさん:
あはははは。笑
柴田:
それが収斂されていったときに、キュッとして曲ができるんですよね。多分ね。
しんじょうさん:
たしかに。
柴田:
それを会社という組織でやろうと思うとかなり難しいんすよ。
みんなが工数度外視で「このイメージでやろうぜ!」ってやると会社潰れちゃう。できない。だけどそれを会社とか組織の中でできる方法ってないか?っていうのはボクの一つのチャレンジでもある。さっき話した会社っていう組織を使った実験みたいな話です。MIX BIKEは岩崎くんといーはんくんとボクっていう経営者でありフリーランスの3人でやったから楽曲が作れたんですよ。これを組織でやろうと思ったとき、どうやって作るんやろう?と思うんですよね。
そこの矛盾というか乖離というか。ボクは「どうしよっかな?」「どうやったらできるんかな?」「これ無理?」みたいなことを考えながらワワワとかおいかぜで新しいプロジェクトをやりたいと思っています。
しんじょうさん:
なるほど。
柴田:
良い質問だなぁ。MIX BIKEと楽曲が繋がりましたね。楽曲って工数考えたら作れないですよね?
しんじょうさん:
一音増やしたら課金ですってなったら成り立たないですよね。
柴田:
追加工数かかるならやめておきますってなったらよくわからない本末転倒というか。
しんじょうさん:
ボクいまやってみたことがありまして。ITインフラのエンジニアを始めてみて、友達に仕事のことを説明してもいまいちうまく伝わらない。だからITインフラのエンジニアリングとは何の仕事をするかという説明をするために、なにかの方法で伝えていくってことをやってみたい。ボクらの仕事を知ってもらうことは、みんなにとって良いことだと思う。プラス理屈じゃない方法を取るって面白いなって思っているんです。
人って自分の知らない話を聞かない・聞けないじゃないですか。
柴田:
うん。聞かないですよね。
しんじょうさん:
ネットワークのパケットのプロトコルの種類に応じてLEDが発光するっていうのをすでにつくっている人がいるんですね。プロトコルに応じて色が変わって光るのがおもしろいんですよね。
柴田:
へーおもしろいですね。
しんじょうさん:
ネットワークのことを何も理解してない人が見ても面白いんですよ。それを応用したボクのアイデアとしては、特定のプロトコルのパケットを受信したらあるトーンの音に発音するっていうプログラムを作る。ある空間でオーディエンスがWi-Fiに繋いだときに何か音が発せられる。そうするとネットワーク全く理解しなくても自分の起こしたアクションがネットワーキングの一部になる。っていう感じです。
柴田:
それアート作品じゃないですか。めっちゃ良い!
しんじょうさん:
そうなんですよ。そういうインスタレーションをやってみたい。水って水道の蛇口を捻れば出てくるぐらい当たり前に存在を感じることができるんですけど、ネットワークに関して目に見えないんで実感しにくい。つまりこの空間に電波とパケットが飛んでるって言っても全く理解できない。そういうネットワークを音で表す・変換する方法で体感してもらうっていうのは良い広め方ができるなみたいなと思っています。
柴田:
めっちゃ面白いっすけどね。
しんじょうさん:
ただネットワーク機器がめちゃくちゃお金かかるんででハードルが高い。笑
柴田:
確かに、確かに。笑
アート好きそうな横井さんとか武田くんとか巻き込んだらできそうですけどね。
しんじょうさん:
あーそうですね!写真とかも絡めて。
柴田:
めっちゃ良いと思いますよ。アプローチが新しい。
しんじょうさん:
そうです。MIX BIKEから着想を得たんですけど。
柴田、しんじょうさん:
あはははは。笑
柴田:
着想を得ているかどうかは別にしてもおもしろい!オリジナルなコンセプト「どこからその発想出たん?」って感じは似てますね。すごい面白い。
しんじょうさん:
ネットワークの有意義さを伝えるという意味では本質的ではないかもしれないですが、興味は持ってもらえそうです。でもそこに尽きると思っていて。
柴田:
うん。そうっすね、ネットワークと音っていうのでインスタレーションにまでしてる人はいないかもです。どう伝わりやすくか?わかりやすくか?ってことができればいけそうな気がすしますよね。
しんじょうさん:
そうなんです!
(前編はこちら)