ヒトの細菌叢(Microbiome)とプライマル・ヘルス7
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今回は、メルマガ39号(2022.01.17)の配信内容です。
今回も微生物叢に関する話題です。
前回の内容は下記をご覧ください。
ヒトの細菌叢(Microbiome)とプライマル・ヘルス7
セクション1 姙娠と胎児の生命
Chap1 妊娠中の微生物叢の変化
5)微生物叢の変化は妊娠中に必要
6)妊娠中の微生物叢の変化と体重・代謝の変化
ポイント
妊娠中の微生物叢は母体の体重増加、インスリン抵抗性、炎症および脂肪蓄積を誘導する
微生物叢は内分泌細胞と協働して、満腹度やインスリン分泌に影響を及ぼす
BMI(肥満指数)は腸内微生物叢を介して代謝ホルモン、具体的にはインスリンやインスリン分泌促進因子、食欲関連ホルモンなどを調節している
言い換えると、娠中の微生物叢の変化により体重は増加するが、体重増加は腸内微生物を介して代謝を調節する
微生物叢の変化は妊娠中に必要
妊娠後半に観察される腸内微生物の変化は、第3 Trimester*に見られる体重・インスリン抵抗性・および炎症反応の増加に関係している。
実際、妊娠末期の腸内微生物叢は、生理学的効果を積極的に高める。妊娠末期の腸内微生物叢を無菌(GF)マウスに移した結果、これらのマウスは妊娠初期の微生物叢を受けたマウスと比較して、インスリン抵抗性を増加させ、炎症性血清マーカーのレベルを増加させ、より体重が増加した。体重増加、インスリン感受性の低下、そしておそらく若干の炎症は、母親や胎児に害を与えることなく適切に胎児を発達させるために必要だ。そのために、妊娠末期における母親の腸内微生物叢の変化がある、ということである。
*第3Trimester:以下「妊娠末期」(28W以降)とした。
妊娠中の微生物叢の変化と体重増加の関連
おそらく妊娠中に起こる最も劇的な生理学的変化は、妊婦の体重増加である。体重増加は、成長する胎児の体重、ならびに母体組織の成長および貯蔵脂肪の増加によるものだ。妊娠の初期段階では体重増加はわずかなもので、急速な体重増加は妊娠末期に起こる。
体重は微生物集団数と相関する。顕著な例は、一卵性双生児における微生物組成の違いである。一方の子が肥満でもう1方が正常体重である場合、肥満児の微生物集団を、無菌マウスに移植すると、マウスの身体と脂肪の増加による体重増加を促すことが見つかった。このように微生物叢は、体重増加、インスリン抵抗性、炎症、および脂肪蓄積を誘導する。
微生物叢が体重増加に影響を与えるメカニズムには、多糖類発酵の増加、代謝ペプチド分泌の調節につながる脂肪酸(SCFA)産生の増加、食欲を調節するためのTLR5*との相互作用などがある。さらに、微生物叢は内分泌細胞との相互作用により、グルカゴン様ペプチド1・2のシグナル伝達を変化させて、満腹度やインスリン分泌に影響を及ぼす。
一方、体重増加と肥満は、腸粘膜の透過性を高め(防御機構の弱体化)、エンドトキシン血症および菌血症を増加させ、全身性の炎症を促進する。肥満女性ではバクテロイデスとブドウ球菌が有意に高く、妊娠前BMIが高いと妊娠末期の炎症性反応も高い。
体重増加は妊婦に必要であるが、これは母体腸内細菌叢の変化と多様性の減少に関連しており、子孫の微生物組成に影響を及ぼす可能性がある。妊娠前の母親のBMIは経膣分娩した児の腸内微生物組と相関している。
*注)TLR5:TLRとは腸管内で病原微生物を感知する因子でTLR5はその1つ
妊娠中の微生物叢の変化と代謝の変化
BMI(肥満指数)は腸内微生物叢を介して代謝ホルモンの働きに関与している可能性が高い。インスリン、GIP(インスリン分泌促進因子)、およびアディポカインの分泌レベルは、肥満女性における腸内細菌量と相関している。
妊娠中の代謝変化として、空腹時血糖値の上昇、インスリン抵抗性、およびグルコース不耐症がある。妊娠後期には炭水化物代謝に関する微生物機能が発現し、グルコースの利用が高まる。妊娠中のレプチン、グレリン、グルカゴン様ペプチド1(GLP1)などの食欲関連ホルモンのレベルの変化が起こる。
腸内微生物層の変化は、発達中の胎児の栄養要求に適応するための消化管の変化の一部である。消化管の柔毛表面積の増大や蔗糖およびシグナル伝達受容体の増加も適応の例で、これらが腸内微生物叢に直接的な影響を与えているのかもしれない。
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