見出し画像

分娩麻酔と自閉症

SBSK自然分娩推進協会では、ご希望の方にメルマガを配信しています。
今回は、メルマガ28号(2021.9.27)の配信内容です。

メルマガ23号で以下のような文章を紹介しました。

「北里大学のかつての分娩方法は予定日の1週間前に分娩誘発を始める。このため誘発前に鎮痛のためジアゼパムとペントバルビタールを投与し、陣痛時にはジアゼパムとペチジンとケタミン(注射麻酔薬)とメトキシフルレン(吸入麻酔薬)、必要に応じて笑気ガスが使われた。熊本の服部医師(精神科医)は有名な医学誌ランセットに「この方法で生まれた子供は自閉症になる危険性が高い」と投稿している(只今原文検索中で、入手すればまたメルマガ記載します)」

その文献が手に入りましたので詳細をお知らせします。


全身麻酔分娩後の自閉症および発達障害

 テーマ:全身麻酔分娩後の自閉症および発達障害
Hattori Ryouko Kikuyo HP。
Motonari Desimaru 熊本大学 
他2名

内容:

1975年~1984年までの10年間に全身麻酔により生まれた49人の発達障害児を確認した。内訳はDMS診断分類で、23人が自閉症、14人が特殊な発達障害、12人が知的障害であった。

自閉症23人のうち21人が同じA病院で生まれていた。その病院では分娩の95%に全身麻酔を用いていた。A病院で生まれた子どもの自閉症頻度は21人/11,939人、全身麻酔を行わないB、C、D病院で産まれた子どもの自閉症頻度18人 /19,580人、に比べ有意に(約2倍)高かった。

先の21人中19人は北里大学方式により産まれていた。これは予定日の1W前にオキシトシンまたはプロスタグランディンを用いて分娩誘発を行い、その時に鎮静剤、麻酔剤、鎮痛剤のコンビで投与するのが特徴であった。誘発前夜にジアゼパム10mgとペントバルビタール100mgを経口投与し、分娩中はステージにより10mgジアゼパム筋注、10mlのメトキシフルレン吸入、50mgペチジン筋注、30mgケタミン静注が断続的に投与される。必要であれば笑気と酸素も与えられる。肝炎と神経毒のため、1985年からメトキシフルレンがエンフルランに代わった。

ジアゼパムは胎児の中枢神経活動を抑えると推定されており、低アプガールスコアや無呼吸発作、筋弛緩、傾眠、哺乳困難をきたす。更にジアゼパムは胎児心拍の拍動バリエーション(variability、基線変動のことだと思われる)の消失を来たし、さらにバルビツールなどの鎮静作用を増強させる。ケタミンもアプガールスコアを低下させる。Rowlattは、「発達期の脳がジアゼパムなどのトランキライザーに曝される事による将来の知的発達障害の危険性」に言及している。

北里方式による分娩時間は、麻酔をしない他のグループの出産より、初産も経産婦も短かかった。この方式では胎児心拍のLTVもしばしば低下する。特にジアゼパムの投与後には低下する。我々はこの分娩のプロセスにおいては、自閉症のような長期のハンディキャップの胎児リスクが増加するものと信じている。

コメント by Arahori

この論文は精神科の医師による報告であるため、主に全身麻酔薬に関して考察されています。しかし産科的にみるとこれは姙娠39週でいわば強制的に行う誘発処置であり、当然痛みが強く感じられる分娩方法です。その痛みを感じさせないために、おそらく思いやりの全身麻酔が行われているものと考えられます。痛みを軽減するための麻酔薬によるリスクは当然あり得る話ですが、一方収縮剤・オキシトシンによる悪影響も無視できません。

自閉症の治療にオキシトシンの投与が有効か、という論文は多数ありますが、出生前に多量のオキシトシンを静脈内に定速で流し続けた時にどのような影響が出るのかはわかっていません。

オキシトシンは脳内の下垂体後葉から、少量ずつパルス状に分泌されて生物学的な効果を発揮する物質ですから、本来の生物学的役割が狂わされている可能性は否定できません。

また北里方式では分娩時間が短縮していましたが、頸管は頭部の圧迫により開いてくるので、開大時間が短いことはそれだけ頭部圧迫が強いことを意味します。頭部圧迫の強度が脳に何らかの影響を及ぼしている可能性も十分あります。

そしてこれは現在主流の硬膜外麻酔による無痛分娩に関しても、程度は異なっても同様な機序によるリスクは無視できないだろうと思われます。

(北里大学は神奈川県にあり、この論文は熊本でのお子さんですから、北里方式を熊本に持ち帰り広めた方がいらっしゃるということなのでしょう。当然全国に同じような患者さんが出ているものと考えられます。この論文は、分娩の評価を新生児や母体の死亡率、アプガール、出血量等といった分娩直後の指標で行うのではなく、長期の健康障害に焦点を当てた点で、非常に貴重な論文です)

こちらもどうぞ。
SBSK自然分娩推進協会webサイト
メルマガ登録(メールアドレスだけで登録できます)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?