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出産の医療保険化について④
SBSK自然分娩推進協会では、代表の荒堀憲二(産婦人科医師)よりメルマガを配信しています。
今回は、メルマガ93号(2023.06.14)の配信内容です。
前回(出産の医療保険化について③)では、保険化した場合の考えられる影響についてお話しました。
今回は奈良女子大学名誉教授の松岡悦子先生のレポートを紹介します。
出産の保険適用の影響 ― インドネシアの場合
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インドネシアではBPJSと及ばれる健康保険が2014年から導入され、それまで助産師中心だった出産の情況が大きく医師中心に変わりつつあります。この保険が導入される前には、助産師は妊娠・出産・避妊の相談役として、地域の女性たちにとても頼りにされていました。
BPJSの保険には3つのランクがあり、加入した人はランクに応じたサービスを無料で提供されます。出産の場合、正常な妊娠は助産師やプライマリーケアの医師をまず受診し、その紹介がなければ二次の病院を受診できないことになっていて、助産師が保護されているように見えます。
ところが、個人で開業している助産師が慌てたのは、BPJSは個人開業の小規模の助産所とは契約しないということでした。そうなれば大部分の助産所は保険診療ができず、患者が来なくなってつぶれることになります。
しばらくして、インドネシア助産師会はある案を持ってきました。それは、開業助産師が地域のプライマリーケアを担う医師を通じて保険と契約を結び、保険からの払戻金も医師を通じて受け取るというものでした。そうなると、開業助産師は医師の監督下に入ることになり、自立性を失うことになります。
ただ、これ以外の道もありました。それは助産所の規模を大きくしてクリニックに格上げすることで、助産師が医師や薬剤師を雇い、施設の規模を大きくすれば保険と直接契約できました。ただこの選択肢はとてもハードルが高く、実現できたのは限られた助産師です。
3つ目は、保険契約ができないなら自費診療の患者を扱うと宣言することで、特色のある出産を豊かな女性たちに提供することでした。それもできないなら助産所を閉じるしかなく、開業助産師は岐路に立たされました。
いずれにしても、助産所での出産の払い戻し金額は2019年時点で一件につき70万ルピア(約6500円)と安く、BPJSに提出する書類を作るのに手間がかかり、しかも医師を通じてお金が払い戻されるため、手元にお金が入るまでに時間がかかり、何より医師との連携で消耗することになりました。そのため、助産師は妊婦に少しでも異常があると、わずか70万ルピアのためにと思えて、医師に転医や搬送することが増えました。
また産科医にとっても正常産の払戻額が少ないために、帝王切開が増える傾向にあり、病院の中には産科をやめて儲けの多い腎臓透析に切り替えるところも見られ、産科医を志望する医師が減ったそうです。さらに女性たちは、サービスの良い私立の母子病院で保険を使って産みたいと思い、陣痛が進むまで待って救急患者として病院に行く人もいるとのことです。その結果、二次病院が患者数を増やし、一次と三次の病院が患者を減らしたそうです。
このように、保険の導入は当初の予想を超えた影響をもたらします。ただ、インドネシアと同じことが日本にも起こると言いたいわけではありません。海外のさまざまな例を参考に、起こりうる事態を予想しつつ保険の中身をデザインする必要があるでしょう。
(文章:松岡悦子)
要約と感想
以下は、松岡先生のインドネシアレポートの要約と私の感想です。
インドネシアではBPJSという分娩保険システムが導入された結果、小規模の助産所は保険システムとの契約ができないことが分かった。
契約するには以下の3つの方法があるがハードルが高い。
プライマリーケア医の配下になり、そこを経由して分娩費を受け取る。
医師や薬剤師を雇って助産師がクリニックを開設する。
保険システムを離れて自費診療で行う。
1は 助産師の独立性がなくなるし、
2は 資金と経営力と医師とのコネも必要でハードルが非常に高く、
3は 裕福な女性が顧客なので、限られた助産所しかできない。
以上の結果、助産師は激減したと聞いている(荒堀記)、また、分娩費が安いため産科を辞める医師も出てきた。
助産師による分娩の大切さを認識しないまま、また医師と助産師の協力体制を構築しないままでの医療保険化は、結局誰のためにもならない結果となることを示しているように思えます。
↓次号に続く↓
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