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出産費用等の保険点数の試案(たたき台として)
SBSK自然分娩推進協会では、代表の荒堀憲二(産婦人科医師)よりメルマガを配信しています。
今回は、メルマガ95号(2023.06.20)の配信内容の続きです。
↓前回の内容はこちら↓
出産の医療保険化について⑥(続き)
※本記事は「出産の医療保険化について⑥」の続きです。
さて、実際の点数化については3つの試案をもとにSBSK内で話し合いました。その概要を井上弁護士のオンライン記事を基に説明します。
もちろんこれらは試案でありオーソライズされたものではありません。
最終的に厚労省が決め国会が承認するものですが、その前に意見募集もあると思いますから、意見を出すためにもぜひ皆さんの議論のたたき台にしてみて下さい。
Vol.23098 出産費用等の保険点数表の各種試案(弁護士 井上 清成)
2023年6月8日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行
1.正常分娩・産後ケア等の保険点数
ー 3つの試案 ー
試案は、
産婦人科医の中村薫氏の「中村試案」、
一般社団法人日本助産所会代表理事澁谷貴子氏の「助産所会試案」、
新生児科医の北島博之氏の「北島試案」
といったSBSK自然分娩推進協会の会員によって原案として提示されました。
いずれも、助産所や継続ケア等に特に着目しつつ、正常分娩、産前の妊婦健診等、産後のケア等をも含めて一体として「保険点数」を付けたものです。
2.中村試案の序文とその内容
中村試案では、序文として次のことが強調されていました。
ア.将来における産科医師の不足・偏在化により助産師の役割が大変重要となる事が予見される。そのため助産師の労務を保険点数化する事が必須であると考えられる。
イ.分娩は助産ケア業務と医療行為は分けて保険点数化し、さらに医療行為に対しては包括医療制度を導入した。この包括医療制度は1次医療機関における過剰医療の抑制、及びより早い段階での高次医療機関への搬送を促す事を目的とした。
ウ.さらに助産師による妊娠中・出産・産後に至るまでの継続的ケアは幸せな妊娠・出産・育児につながり、より多くの虐待児や産後うつの減少につながる事が期待され、そのため産後ケア継続支援加算も設けた。
3.保険点数項目
中村試案と助産所会試案の特徴的な保険点数項目を、次に抜粋します(1点は10円に換算)。
(1)妊婦健診について
基本健診料
― 中村250点、助産所会500点
助産師ケア料
― 中村620点、助産所会400点
紹介料
(助産所より助産所又は第1次医療機関へ)
― 中村200点、助産所会250点
(助産所より第2・3次医療機関へ)
― 中村・助産所会500点
(2)分娩料について
中村試案の「分娩料」は、次の通り述べられています。
*分娩料は基本分娩料+助産師介助料+新生児看護料+包括分娩医療費で構成される
Q1:この分類について皆さんはどう考えますか?
(中村試案「分娩料」続き)
*包括分娩医療費とは入院時より分娩後24時間までに施行された分娩に関わる医療費を包括し定額支給とする事である。
従来の積み上げ式は「出来高制」と言ってやればやるほど点数が積みあがっていくので、例えば経験年数が浅い医師では、心配になって処置が多くなる傾向にあります。かつて私の尊敬する院長が「出来高制では藪医者ほど点数が高くなる」と怒っておられました。
包括制で、単純な会陰切開や縫合などある程度の医療行為は全て包括医療費とすることで、介入や薬や検査の少ないお産へ誘導する効果があります。
1)基本分娩料:20000点
基本分娩料へは以下の加算を認める。
A: 政令指定都市加算 +16000点
B: 僻地医療加算
人口10万人以下 +10000点
人口10万人~30万人 +6000点
人口30万人~100万人 +2000点
Q2:都会ほど高額な医療費が支払われることになりますが、これは仕方ないでしょうか?
2)助産師介助料:8000点
*入院より分娩までが24時間を超える場合、分娩介助料を24時間毎に4000点加算し48時間まで8000点を限度とする。
*48時間(入院より72時間以上)を超える場合は2次・3次医療機関への搬送が望ましい。
3)新生児看護料:3000点
出生当日の新生児看護ケア料
出生翌日からは後述の新生児ケア料を算定
4)包括分娩医療費:6480点(入院より分娩後24時間以内)
*入院時より分娩までが24時間を超えた場合24時間ごとに2100点加算する。上限は4200点(入院より分娩までが72時間以内)とする。
*分娩に関わる医療費とは血液検査、超音波検査、CTG、点滴、抗生剤投与、会陰切開縫合術、陣痛促進剤、吸引分娩、臍帯血血液検査、胎盤病理検査、助産院でのクレンメによる会陰処置等を言う(ドプラーによる児心音聴取のみの場合は請求不可)。
*助産所での分娩や在宅出産においても上記処置があった場合は包括分娩医療費を請求可能。
助産所会試案によれば、
1)基本分娩料は5000点・分娩管理料は300点(1時間につき。割増もあり)、政令指定都市加算2500点・僻地加算1000点
2)助産師直接介助料25000点、サポート助産師料3000点(1名につき)
3)新生児看護料3000点・褥婦看護料3000点
4)包括分娩医療費6480点
5)(助産所における)超音波450点・CTG200点・点滴100点、クレンメ会陰処置100点、ドップラー100点など。
6)包括分娩医療費を越える場合
A. 緊急帝王切開術 包括分娩医療費+従前の緊急帝王切開術点数
B. 予定帝切、輸血、3-4度裂傷等では超えた分を請求可とする。包括分娩医療費との同時請求不可。
7)包括無痛分娩費 4800点 適切な理由や病名がある場合は保険請求とする。薬剤料や時間に関係なく包括する。
(3)入院料について
中村試案では「入院料」は、下記のとおり述べられています。
1)入院に関する保険点数は下記 ア)~オ)を基本とする。
妊娠中・産後入院共に医療費は包括医療費とする。
ア)基本入院料:一日につき350点
イ)食事費用:朝食70点 昼食100点 夕食170点
ウ)入院助産師ケア料:一日につき820点
エ)入院新生児ケア料:一日につき840点
オ)包括入院医療費:
入院当日 3200点(分娩目的の入院の場合は包括分娩医療費を請求)
入院2日目~7日目 一日620点(入院7日目まで)
入院8日目~ 一日420点
*8日以上の入院は高次医療機関への搬送を考慮する事。
*包括入院医療費については検査、内服薬、処置等すべてを包括とする。包括入院医療費を超える医療費がかかった場合は差額分を請求可能。
*産後入院は重症貧血など医学的問題が無ければ産後6日間を目安とする。
*医療処置が不要となったにもかかわらず、母親の育児に対する不安やマタニティブルー等で入院が7日以上となる場合は後述の産後ケア入院費(入院費から包括入院医療費を除いたもの)を請求する。
2)死産・流産時の保険点数請求について
A: 死産(22週0日以降~)となった場合:
分娩当日より上記2)分娩に関する保険点数を適応。
分娩料・助産師介助料・新生児看護料は請求可。
B: 流産(12週0日~21週6日):
包括入院医療費に包括分娩医療費を加算。
分娩料・助産師介助料・新生児看護料はその1/3を請求可。
C: 流産(~11週6日):
流産手術等、包括入院医療費を超える費用については差額分を請求可。
分娩料・助産師介助料・新生児看護料は請求不可。
助産所会試案によれば、下記のとおりです。
1)入院基本料650点(1日につき)
2)食事代100点(1食につき)
(4)産後ケア入院料について
中村試案では下記のとおりです。
*上記⼊院費の内、包括入院医療費を除いた ア)~エ)の点数とし、1か月間に4日を目安とする。
*別途投薬などの医療費が発生した場合は従前の保険点数加算とする。
(5)助産師産後ケア料について
中村試案では下記のとおりです。
1)助産師のみの場合:
助産師ケア料 620点(1時間以内)
1時間を超える場合 310点加算
2)助産師+医師の場合
助産師ケア料(620点)+ 医師健診(380点)
3)乳房ケア料:350点
・助産師による乳房ケアで助産ケア料620点は同時に請求可。
・内服薬投薬や切開排膿などの医療処置については従前の点数を追加加算可。
・時間外割増請求可。
助産所会試案では、より詳しく下記の通り提案されています。
またさらに、細かく各種の加算も提案されています。
1)ショートステイ宿泊型 入院1泊2日 6500点
(入院費・食事代・助産師ケア料・新生児看護料など)
2)デイケア 2500点(食事代・助産師ケア料)
3)ショートデイ 1250点
4)アウトリーチ 800点
(6)産後ケア継続支援加算について
中村試案も助産所会試案も、下記の通りとなっています。
産後ケア継続支援加算:680点/月
・褥婦さんへ助産師による産後ケアが1ヶ月に1度でも行われた場合は助産師ケア料とは別に1ヶ月あたり680点を出産翌月より請求可。
井上弁護士の記事では
「なお、現代的な課題として、「里帰り出産」が多いので、そのフォローが必要であろう。「里帰り出産」の場合であっても、産後ケア継続支援加算を付けられる体制の整備が肝要である。まずは、離れた地域の助産所・診療所の連携、情報の相互提供の体制を築かなければならない。」
と述べられています。
(7)交通費について
北島試案においては、さらに「交通費」についても、次のとおりに言及されています。
基本的に交通費は、公共交通機関で間に合う、或いは本人の無理な努力なく可能な場合には私費とする。
交通費の支給は検診も分娩、産褥の検診全てに、以下の場合にはタクシー利用可。
この場合には全国において地域のタクシー会社と連携しておくシステム構築する必要あり。
分娩機関までのアクセスに通常の公共機関では無理がある場合:
1)低年齢や障がいのある兄弟姉妹を抱えている場合:
近隣のタクシーの保険利用可(施設までの距離は問わない)
2)距離が1km以上ある場合:
3kmまではタクシーの保険利用可(分娩施設過疎地は、別に規定)
4.無痛分娩等について
中村試案では、無痛分娩については下記のとおりです。
包括無痛分娩費:4800点
・適切な理由や病名がある場合の無痛分娩は保険請求とする
・薬剤使用量、分娩までに要した時間に関係なく包括無痛分娩費として包括する
井上弁護士の記事では
「この点、無痛分娩は、そもそも10万円程度の支給が必要であるとも思われ、それを1万点の保険点数として加算するか、そもそも、保険点数としての加算はせずに、自治体財源からクーポン券の発行などによって賄うべきか、議論の存するところであろう。
なお、その他にも、クーポン券の発行で対処することが妥当なものがあるかも知れない。
たとえば、15万円程度の大都市特例給付金や、マッサージも含めた出産支援給付金(10~15万円程度)も考えられよう。」
と述べられています。
5.助産所の再興を目指して
井上弁護士の記事では、
「次元の異なる少子化対策」においても、「出産費用等の保険適用」が唱えられている。その保険適用は、何よりも「助産所分娩」を充実させる方向のものでなければならない。それも、1名又は特定の数名の助産師が関わった場合に加算される「継続ケア」を重視したものである必要がある。
「出産費用等の保険適用」を契機に、適切な保険点数を付けると共に、賠償責任保険の整備と嘱託医療機関の配置の諸問題を合わせて解決し、「助産所の再興」を目指していくことが望まれよう。
と結ばれています。
以上は井上弁護士の記事を一部省略して提示しました。
記事原本はVol.23098 出産費用等の保険点数表の各種試案 をご覧ください。
※なおnote掲載にあたり、改行や太字にするなど内容を変えない程度の編集を行っております。
荒堀より、注釈
以上の試案は「たたき台のたたき台」と考えて下さい。
しかし何もないところから考え出せないので、現場を知る医師と開業助産師が試しに考えてみました。ぜひ皆さんも自分で考え仲間と議論し、SBSKまで意見をお寄せ下さい。
それによって試案を改善し、効果的に国の検討部署等に届けていきたいと考えています。無痛分娩費用については、私(荒堀)は必ずしも賛成ではありませんが、Online試案として公表されているので載せておきます。
無痛分娩に関しては別に配信する予定です。助産師の継続支援については、私的には「妊婦健診、分娩、産褥、産後ケアに関して特定の助産師または少数の助産師グループでこれらを担当した場合は、継続支援加算をつけるべきだ」と考えます。
それぞれの時期であっても加算をつけるべきだと思っていますが、皆さんは如何ですか?
ご意見等について
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