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恐怖症の治療②

SBSK自然分娩推進協会では、代表の荒堀憲二(産婦人科医師)よりメルマガを配信しています。
今回は、2024.06.05配信のメルマガ内容です。

前回に引き続き、「自閉症の子どもたちと”恐怖の世界”」(白石勧著 花伝社)より。
※白石さんの書籍を割愛し結論を中心にお伝えしています。詳しく知りたい人、文献も見たい人は原著書をご覧ください。Amazonでも購入できます。


第7章 恐怖症の治療

7-2. アン・ホッジス

私(※白石氏)が自閉症の研究を始めたのは、自閉症の人たちが書いた自伝に恐怖といった言葉があふれていたのがきっかけだった。自閉症の少女アンのことを書いた『愛の奇跡』という本を読んだときに、「ついに見つけた!」と思った。

これから、アンの家族がおこなった恐怖症の治療を3つ紹介する。

【1】しごき

アンは7歳になっても、まったく言葉はなく、椅子に座って哺乳瓶をくわえて身体をゆすっているだけだった。外出するときも、乳母車に乗って哺乳瓶をくわえていた。また、自分で食べないで、食べさせてもらっていた。アンは7歳になっても、まるで赤ちゃんのようだった。

アンが5歳のとき、家族で海に行ったとき、アンがベビーバギーに乘って身体をゆすっていると、ベビーバギーがひっくり返り、アンは砂の上に顔から投げ出された。父親がすぐにアンを追いかけて抱き上げ、ベビーバギーにもどしたところ、30分ほどすると、アンは砂の上に飛び降りて遊び始めた。そして、休暇が終わるまで、哺乳瓶をくわえて砂浜で遊んだことがあった。

アンが7歳になったとき、父親がまた休暇をとって家族でその海に行った。すると、5歳のときのことを覚えていて砂浜で遊んだ。

そこで父親のジャックは、試練を自分が与えれば良いのではないかと思いついた。

こうして、「しごき」という発想が生まれた。
そして、母親のアイヴィーにこのことを話し、アンが自分で食べないという食事の問題にこれを試すことにした。

ジャックはアンをいつもの椅子から抱き上げ、食事用の椅子に座らせた。アンが泣き叫ぶと、ジャックはアンを叩いた。

ジャックはスプーンを取ると、無理にそれを手に持たせた。アンは「ギャー」と叫び、スプーンを放り出した。父親はピシャと激しく娘を打った。再びスプーンを拾い上げ、娘の手に持たせた。また放り出すと、ピシャと二発目がとんだ。

食事が終わる頃には、アン・ホッジスは生まれて初めて自分で食事をするようになっていた。(J・コープランド、1977, p.47)

父親は叩く必要はなかった。年齢相応のことをやらせるだけで良かったのである。
父親は1週間の休暇をとって、アンに食事の仕方を教えた。

このあと、夫婦でアンの手を取って、アンはいやがったが、家のなかをすみずみまで連れて歩いた。
アンは家のなかにある日用品でさえも、触ることもできない怖い物が数え切れないほどあった。

こうして様々な恐怖を克服させていくと、アンは遊ぶようになり、庭にひとりで出られるようになった。

【2】犬恐怖症の治療

アンが2歳になる前、病院からの帰り道を歩いていると、大きな犬がアンの前に飛び出してきた。アンは「ギャー」と叫び声をあげ、以来アンは家の外に出られなくなった。

そんな経緯があったので、思いきって試してみることにした。

父親と兄弟と3人で、野良犬や迷子の犬を収容している「犬の家」に行った。そして、おとなしくて子どもに馴れている2歳ぐらいの大きな茶色の犬をもらってきた。
犬を連れて家に帰ると、犬はすぐに家に慣れ、ミルクと食事を平らげて横になった。そこに、アンが2階から降りてきた。

父親が階段の方へ逃げて行こうとするアンを押えた。怖い犬に直面させるためである。そして、母親が優しくアンの手を取って、犬の背中をそっとなでさせた。これは怖い犬に直接さわらせているのでフラッディング法である。しかし、アンは目をつぶっていた。目をつぶって犬の背中をそっとなでたというのは、スモールステップ法という要素も入っている。また、母親がアンの手を取っているというのは強制だが、アンひとりではできないことを手伝っている支援という要素も含まれていたはずである。

最後は、犬が吠えたり噛みついたりしないで、アンの顔をなめて手をなめたというのが決定的だった。この1回の治療で、アンの犬恐怖症は解消した。この犬はラディーと名づけられ、いつもアンのそばにいるようになった。

【3】赤い色への恐怖症の治療

アンはバスを見ただけで泣き叫んだ。
しかしある時、バスに乗っても、アンは静かだった。不思議に思って考えると、そのときに乗ったバスは緑色のバスだった。こうして、アンが赤い色を恐がっていることがわかった。

家族で作戦会議を開いた。そして、最初に、お風呂で使う赤いスポンジを買ってきて、アンの体を洗うことにした。はじめ、アンは「ギャー」と叫んで逃げようとしたが、叩かれて、そのスポンジで体を洗われた。アンは数日で赤いスポンジを受け入れ、1週間もしないうちに赤いスポンジで遊ぶようになった。

次は、赤いソックスと赤いスリッパを買ってきて履かせた。そして、脱ごうとしたらピシャと叩いた。家庭用品は必ず赤い物を買うようにしたので、家中が赤い物だらけになった。

6週間後には、アンは赤い物すべてを受け入れるようになり、赤い物で遊ぶようになった。

その晩、国旗を居間の床いっぱいに広げて、アンを居間に呼んだ。呼ばれて来たアンは立ちすくんだ。アンの顔には恐怖の表情が浮かんでいた。みんなで優しく、アンを部屋の反対側にいる自分たちの所へ来るように呼んだ。アンは長いこと立ち止まっていたが、そろりそろりとつま先立ちで、赤い部分を避けて歩いて来た。両親はまた反対側に行ってアンを呼んだ。何度も何度も、これを繰り返した。

アンの顔の恐怖の表情は消え、笑顔さえ浮かべてこの遊びを楽しむようになった。

(自閉症の子どもに恐怖症の治療をしていくと、それまで秘められていた恐怖が顔に現れてくるようになる。これは、恐怖症の治療の効果が現れてきたことを示している良い印である)

赤い色のバスに乗れなかったアンの恐怖症はこうして治療が終わった。叩いたというのは余分であったが、2か月ほど時間をかけて、スモールステップ法の見本になるような見事な恐怖症の治療がおこなわれた。

このあと、8歳のときにアンは言葉を話せるようになり、特殊学校に入学が許可された。そして、23歳になったときは、仕事をしていて、車の運転もしていた。

この本に『愛の奇跡』というタイトルがついているように、恐怖症の治療は自閉症の子どもの発達に奇跡と呼ばれるような効果があった。

しかし、この本の著者コープランドは、「実は『褒美と体罰』という、今日自閉症児の効果的訓練法と考えられている方法に、知らずに、巡り会ったのだった」(p.49)と書いている。

コープランドが書いていた自閉症児の効果的訓練法というのは行動療法のことである。現在の行動療法は体罰を使わないが、初期の行動療法は「褒美と体罰」で自閉症の子どもを訓練するという発想で、体罰を使っていた。父親のジャックが体罰を使っていたので、コープランドは行動療法をおこなっていたと勘違いしたのである。

また、父親が体罰を使っていたことも影響したのだろう。この本は世界中で歓迎されて多くの言語に翻訳されたが、自閉症の世界から忘れられてしまった。そして、恐怖症の治療が自閉症の子どもに奇跡的な効果があったことも理解されなかったのである。

(初期の行動療法は「褒美と体罰」で訓練をするという発想だった。「ニンジンとムチ」で馬を訓練するのとおなじ発想である。しかし、イルカはエサの魚だけで訓練できることがわかった。現在の行動療法は、「好ましい行動には褒美を与え、好ましくない行動は無視をする」という考え方に変わった。アメリカでは身体にさわることも虐待とみなされて認められなくなっている。)

7-3. アン‐マリーとミシェル

7-4. テンプル・グランディン

テンプルが大学教授になって畜産施設の設計者として成功した背景には、家庭教師のクレイ先生や母親や高校の科学の先生の貢献があった。そのうちの1人でも欠けていたら、テンプルの成功はなかっただろう。しかし、家庭教師のクレイ先生が、3歳のときから様々なことを教えて恐怖症の治療をしたことがもっとも重要だったと考えている。

家庭教師のやり方、母親や父親の態度などが細かく述べられていますが、SBSKのメルマガとしては細かすぎると感じたのでこの部分は割愛します。

興味のある方は原著を求めて下さい。

次回は「恐怖症の治療と教育①」です。


白石氏の電子書籍の目次は以下のとおりです。
※なお、本記事は白石氏の了承のもと公開しております。
第一部 自閉症の原因と予防
  第1章 自閉症の原因
  第2章 刷り込み
  第3章 新生児室
  第4章 自閉症予防の5カ条
第二部 自閉症の正しい理解と支援
  第5章 自閉症の正しい理解
  第6章 後期発症型の自閉症
  第7章 恐怖症の治療
  第8章 恐怖症の治療と教育


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