講演会要旨③「頑張れ助産院 自然なお産をとり戻せ」(2023.02.18開催)
SBSK自然分娩推進協会では、代表の荒堀憲二(産婦人科医師)よりメルマガを配信しています。
今回は、メルマガ85号(2023.03.12)の配信内容です。
さて今回は、2/18の講演内容の要旨の第3回目です。
前回2回目はこちら↓
講演会「頑張れ助産院 自然のお産をとり戻せ」
日時:2023年2月18日(土) 14:00~17:30
会場:名古屋駅前 安保ホールで開催(オンライン配信あり)
2-3「どこで産むか、誰が決めるのか」
講師:松岡悦子(奈良女子大学名誉教授)
日本では自宅や助産所で産む人たちが0.6%と特に少ないのは、そのことが知らされていないからです。イギリスでも同じ状況がありましたが、1993年にカンブリッジ報告が出されて大転換がありました。
その時の視点は、
女性の選択を重視する
継続ケア(1人の顔の見える助産師のケア)を重視する
女性中心のケア(専門家よりも)を重視する
でした。
つまり産科医療や医学モデルではなく、出産の中心に女性と助産師を置くことが合意されたということです。
その10年後の2003年に、カンブリッジ報告が出産を変えたかどうかを検証する委員会が開かれましたが、実は大きな進展はありませんでした。しかしこの委員会で、助産師や女性団体が述べた意見が注目されました。
まずビバリー・ビーチが「チョイスが一番大切で、最初からメニューにないものは選べない」と語ったそうです。
イギリスではバースセンターでの出産は2%。しかし考えたことがある人は8%もいました。一方自宅分娩のことを知らされなかった人が50%もいました。また身近に助産師によるバースセンターがなくて産むことができない人もいました。
以上の報告に基づいてBirth place調査が毎年行われるようになり質の高い論文がたくさん出されるようになったのです。
松岡先生は、
では日本では助産所分娩を考えたことのある人は何%いるのでしょうか?
自宅や助産所で出産できると思っている人は何%いるでしょうか?
と問いかけました。
また産めない地域に住んでいる場合はどうするのだろう?
とも。
そして、
日本の正常産婦も、正常分娩を希望し選ぶ自由が妨げられているのではないか ―
大規模施設への集約は、女性がローテクで正常に生む機会を減らしている ―
と投げかけました。
さらに、自宅分娩が危険だという医師たちは、自身が自宅分娩を見たことがなく、また日本の母体死亡などは統計手法にも問題があります。
そして自宅分娩や助産所分娩のリスクだけが取り上げられ、病院分娩のリスクが伝えられていないのは問題であると述べました。
自宅分娩はリスクが高いと言うけれども、スクリーニングして自宅分娩が認められた場合と、ハイリスクにも関わらず自宅で分娩している場合とが分けられていないとのことです。また、病院で管理している人でも突然の破水などにより超早産で自宅分娩になった場合なども「自宅分娩=助産師が関わった分娩」に含まれてしまって周産期死亡率が高くなっているそうです。
その結果、自宅分娩の危険性が過剰に計算されて誤解されてしまっている可能性が高い、とのことでした。
そこで36週以降の症例だけをとり出して修正してみると、自宅分娩での修正周産期死亡率はずっと低くなり、さらに助産所では最も周産期死亡率が低くなりました。
このように情報収集とその開示には不備があるので、もっと正確な情報を元に議論する必要があります。
結論として松岡先生は
自宅や助産所分娩が少ないのは自由な選択が妨げられているからである
現在のような病院偏重を生み出している制度的な要因を改める必要がある
正確な情報を得るための調査と結果の開示が必要である
と述べ、日本も研究できる環境を整えて
「自宅分娩できる助産師を育てよう、研究をしよう」
と結びました。
指定発言(中村薫、信友浩一、齋藤麻紀子)
そのあと3名の指定発言がありました。
中村薫 先生(産科医、嘱託医)
「出生数の減少で益々産科医療機関が減少し助産所が必要になる」
中村先生の日本では2022年の出生数は80万人を下回るが、その背景には婚姻数がコロナ禍で大きく減少したことがある。日本では結婚してから出産する人が多いので、婚姻数の減少は直に出生率の低下につながる。出生率の低下は、診療所や一般病院の経営に直接影響するが、この3年間、医療機関が生きながらえることができたのは、コロナ感染患者対応に対して政府からの支援金があったからだ。
だが、今年は年間出産数が60万人台に減ると思われる。さらに新型コロナ感染症が5類に移行することで政府の支援金がなくなり、加えて分娩が激減すれば経営が行き詰まる診療所や一般病院が出てくるだろう。
そうなれば病院助産師の職場もなくなる。しかし助産所は最も影響を受けにくいので、病院助産師はそれを見越して次の働き方を考えておくことを提唱した。
いずれ、助産師がローリスクの分娩を担わなくてはならなくなる、というコロナ後を予測し、助産師の今後を予言するかのような意味深なお話でした。
信友浩一 先生(元厚生労働省、元医療システム学講座教授)
信友氏は、井上弁護士が旭川調停を説明するのに用いた内容を補足することから話を進めました。
旭川で調停の対象となっている産婦人科教授の加藤氏は「すべての出産は異常だ」と述べたそうだが、これは妊娠・出産する女性はみな患者になる、つまり病人になるというのに等しく乱暴な話だ、と述べました。
さらに信友氏は、「産婦人科の教授は北島氏が述べたような優れた論文を読む時間もなく、読んではいないだろうと述べ、彼らが科学的根拠に基づいて判断しているとは思えない」としました。
また、自身の九州大学時代の産科の教授の言葉として、
「今のうちに出産を助産師に返さないと大変なことになる」
という話を紹介してコメントを締めくくりました。
これは、出産が医師の手で行われるようになると介入が増え、産科が産科でなくなり、外科の一部になるという警告である、と述べました。
齋藤麻紀子さん(NPO法人Umiのいえ代表理事)
齋藤さんは、「産む女性として体で分かることがある」と述べました。
「研究をしなくても、産婦は出産のときにじろじろ見られたり、騒がしかったり、緊張させられると体が固くなり縮こまってしまう。そんな中でするっと産めないことは体でわかる。教えてもらって、傍にいてもらって、助けてもらって、自分で産めて母乳もいっぱい出て、そのあと何かが湧いてくることは自分で分かる」
「当時オキシトシンという言葉は知らなかったけれど、それが湧いてくることは実感できた。すると、面倒なこと、困難なことを乗り越える力が湧き、さらに人助けをしたくなる。そういう女が増えれば社会に役立つ」
「だから女性が出産で経験していること、感じていることこそが重要だ。
たしかに研究は大事だと思うが、女性にとって満足感が高く、質の高い出産を実現していくためには、森臨太郎さんも述べていたように、数値化されていないものを大切に扱っていく必要がある」
そして、
「女たちの(出産)体験で伝えたいことが2つある。
『こんな幸せな体験を一人でも多くの人に経験してもらいたい』
もう一つは『二度とこんな辛く悲しく侮辱的な体験をしてほしくない』、
今後もこの二つの体験を伝えていきたい」
と結びました。
演者6名、指定発言3名の構成でテンポよく進行し3時間半が非常に短く感じられる、濃密な講演会でした。最後のフロアとの質疑応答も盛り上がりました。
さらに、その後の情報交換会も楽しく元気の湧いてくるひと時となったことをお伝えして、今回のSBSK講演会の報告を終わります。
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