出産の医療保険化について③
SBSK自然分娩推進協会では、代表の荒堀憲二(産婦人科医師)よりメルマガを配信しています。今回は、メルマガ92号(2023.06.12)の配信内容です。
前回(出産の医療保険化②)では、出産費用の保険化の目的とは?についてお話しました。続いて、保険化した場合の考えられる影響についてお話します。
医療保険化の影響
【1】 クリニック・診療所
まずクリニックでは、分娩費が抑えられるために、すでに分娩数の減少に悩んでいる多くの施設では、さらに経営が厳しくなります。
例えば、月1件の分娩数減少は地方では50万円×12か月で、年間600万円の減益となります。それはベテラン助産師一人の年間給与ですが、退職引当金や社会保険費を含めればそれでも足りないかもしれません。
分娩数が年々減少しながら分娩費が頭打ちになれば、先行きはさらに厳しくなると思います。その上都会では、無痛分娩による大病院への誘導が盛んに行われています。
私は無痛分娩への流れが望ましいとは思いませんが(それについては後日配信するとして)、経営的に麻酔科医師を配置できないクリニックは、その流れによっても分娩を取りやめることになります。
【2】 助産所(助産院)
次に助産所ではどうでしょうか?
助産所は赤字ギリギリでやりくりしている施設も少なくないので、今の施設別分娩比率(0.1%以下)が変わらずに、分娩費が頭打ちとなれば、やはり多くが廃業に追い込まれる可能性があります。
しかし、すでに少ない施設数にまで追い込まれた結果、赤字体質にも順応しているので、耐え忍ぶことはクリニックよりはるかに訓練されているように感じています。
何よりも仕事に誇りとやりがいをもっているので、簡単には無くならない、という期待も持てます。
さらにクリニックや病院が分娩を取りやめると、産婦の一部は助産所に流れて分娩数が増える可能性もあります。
よって助産所にとっての医療保険化の影響はプラスかマイナスか即断はできませんが、総合的にみるとプラス面が大きいだろうと考えています。
ただこれまでの厚労省の対応を見ていると、クリニックが減った分を助産所で補おうという姿勢は見受けられません。厚労省は医療の集約化で乗り切れると思っているようです。
しかし、私は助産所を復活させないと日本の将来に禍根を残すと思います。
その理由は、
集約化は生活の場から妊娠出産を引き離すことになり、産む意欲を削ぐ結果となり少子化対策に逆行する。
集約化は低リスクの妊産婦の分娩満足度を高めることとは真逆で、虐待や産後うつを増加させる可能性がある。
集約化された大病院で医師に24時間のお産対応を求めるとすれば、医師の働き方改革が達成できない。
以上のような理由から、リスクの低いお産を集約化で対応するとなると、少子化はますます進行し、そのうえ母子関係の問題が生じる可能性があるため、日本の将来にとってとても不利な選択だと言わざるを得ません。
【3】 大病院
大病院では医療保険化の直接の影響はほとんどないでしょう。
他の医療行為は全て保険点数によって決められているので、むしろすっきりします。一方、産科クリニックの減少を好機とみて、自院に産婦を引き込みたい思惑があります。それは経営的にももちろんですが、大病院は教育病院でもあるので、研修医や専攻医を確保するためにも分娩数は確保したいのです。
とはいえ、そのために自然なお産の機序やその後の母子関係に与える影響を顧みずに無痛分娩に走るのは如何なものかと感じています。
ただその流れは産科医の想いと言うよりも、経営者や麻酔科医の思惑が錯綜しているように感じます。
ともあれ、母子が最も不利益を被る、といったことが無いようにしないといけないと思います。
厚労省に求めること
厚労省には医療保険化に当たって、助産師(病院も含めて)や助産所の機能を見直すよう認識を新たにして頂きたいと思います。
同時にそのような世論が形成されるように、助産師はそのための行動をおこすべきでしょう。
↓次号に続く↓
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