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恐怖症の治療と教育②

SBSK自然分娩推進協会では、代表の荒堀憲二(産婦人科医師)よりメルマガを配信しています。
今回は、2024.06.11配信のメルマガ内容です。

前回に引き続き、「自閉症の子どもたちと”恐怖の世界”」(白石勧著 花伝社)より。(あと数回でこのシリーズも終わります。)
※白石さんの書籍を割愛し結論を中心にお伝えしています。詳しく知りたい人、文献も見たい人は原著書をご覧ください。Amazonでも購入できます。


第8章 恐怖症の治療と教育

前回に引き続き、私(※白石氏)がおこなった恐怖症の治療を、
「単一恐怖症」
「同一性の固執」
「多動と自傷」
という3つに分けて紹介する。

自閉症の子どもが社会で自立するには、恐怖症の治療だけではなく、普通の子ども以上に多くのことを教える必要がある。


8-2. 同一性の固執

同一性の固執は、新しいことを学ぶという学習の妨げになる。また、家族にも同一性を求めるようになると、家族も巻き込まれて大変になる。

同一性の固執を自閉症の子どもの個性として尊重すべきだと主張している学者もいるが、同一性の固執を尊重していると、できていたこともできなくなって、ほとんど何もできない重度の障害者になってしまう。

同一性の固執は変化の恐れが原因である。自閉症の子どもの発達のためには、同一性の固執をなるべく早期に恐怖症として治療する必要がある。

■ 偏食

偏食が重度になると、まったく何も食べられないという拒食になることがある。

愛知県心身障害者コロニー中央病院での治療を紹介する。
自閉症の子どもの偏食は同一性の固執変化への恐れである。精神科医でさえも、自閉症の子どもの偏食が同一性の固執で変化の恐れだということを理解していない

自閉症の子どもの偏食には2つの考え方がある。

一つは、そのままでいいという考え方である。無理をしてまで偏食をなおす必要はないという考え方である。ほとんどの療育機関がこのような考え方をしていて、偏食を放置している。

もう一つは、偏食を克服させるという考え方である。これは少数派である。そういった少数派の考え方のひとつを発達協会の湯汲英史(2010)から紹介する。(発達協会は40年以上自閉症の子どもの支援をしてきた日本でも代表的な医療機関である。)

偏食指導が大事なのは、なによりも「苦手なものもちょっと頑張って食べてみよう」という気持ちをつくるという意味があるからです。その気持ちが、ほかのことでも「苦手でも頑張る」気持につながっていくのだと思います。
偏食指導とは、「嫌いなものを好きにさせる」のではなく、「頑張って乗り越える力」をつけていくものだと思います。家族など大人と一緒に取り組んで「できた」という経験が、いろいろなところに生きてくるはずです。(pp.72-73)

苦手なものをまったく受けつけず、「食べない」と決めてしまって、食べさせようとすると泣く、騒ぐなど大きな抵抗をする子がいます。そうすると、「そこまで嫌がるなら」と大人があきらめてしまうことも多いでしょう。しかし、そこで子どもは泣いたり騒いだりすれば食べなくてすむ、ということを学んでしまうことになります。ここでは大人の心構えが大切です。騒いでもひるまず、毅然とした態度でのぞみましょう。しかし、叱ったり脅かしたりするのは厳禁です。「大丈夫、食べられるよ」と応援してあげることが大切です。(p.76)

湯汲英史(2010)

発達協会も偏食が同一性の固執で変化の恐れであることを理解していない。しかし、偏食を克服することがいろいろなところに生きてくるということは理解している。

抵抗が強くて止めてしまうと、恐怖症が勝利したことになるので恐怖症が悪化する。大きな抵抗があっても、それをなんとかして食べさせるには大人の心構えが大切である。

また、叱ったり脅かしたりして偏食を克服させても、叱られたり脅かされたりする恐怖が生まれると、それまでできていたこともできなくなってしまうことがある。

自閉症の子どもにスパルタ教育をして失敗した施設があるが、それはこのケースである。

■ 偏食の治療(1)

偏食の治療について、行動療法のシーラ・リッチマン(2003)から引用する。

偏食プログラムは感情的に厳しいものなので、他の難しいプログラムと並行して行うと、子どもは圧倒されてどちらのプログラムもうまくできなくなってしまいます。-(略)-
ノリコがブロッコリーを食べなければ、母親はスパゲッティを与えません。そうなるとノリコは昼食ぬきになってしまいます。しかしこのことで、夕食への食欲が刺激され、ブロッコリーを食べる動機が高められるのです。(pp.84-86)

シーラ・リッチマン(2003)

リッチマンは、偏食プログラムは感情的に厳しいと書いている。ほかにも、2~3日は大変な思いをする覚悟が必要だと書いてある本があった。それで、私も偏食の治療は大変だと思っていた。

おやつの時間に、私の隣に座っていたA君がクッキーを残していた。そこで、クッキーを小さく割って、「クッキー食べます」と言って、A君の口元に持っていった。

すると、A君は顔をそむけた。そこで、「だいじょうぶ、がんばれ!」と励まして、そむけた口元にクッキーのかけらを持っていった。

今度は、反対側に顔をそむけた。そこでまた、反対側にそむけた口元にクッキーのかけらを持っていった。そうやって何回か繰り返していると、パクッと食べた! 「すごい! がんばったね!」と、ほめた。

A君は勇気を出して自分で食べた。はじめは、「だいじょうぶ!」と励ましていたが、数日でおやつはなんでも食べられるようになった。

あるとき、A君が私にクッキーのかけらを手渡した。手渡された瞬間は、「あれ? なんだろう?」と、その意味がわからなかった。でもすぐに、偏食を克服したときの再現をしてほしいのだと気がついた。

そこで、「だいじょうぶ、がんばれ!」と言って、そのクッキーのかけらを口元に持って行くと、A君は顔を左右に何回かそむけてから、パクッと食べてニコニコ笑った。

B君もおやつの偏食があった。A君のときとおなじように、おやつを小さなかけらにして、「だいじょうぶ、がんばれ!」と励まして、口元に持っていった。はじめは、何回か顔をそむけていたが、B君もがんばって自分で食べた。B君もおやつはなんでも食べられるようになった。

偏食の克服は恐怖症としてスモールステップでおこなえば、それほど大変ではなかった。

「ブロッコリーを食べなければ、母親はスパゲッティを与えません」、これでは厳しくなるはずである。励ましもなければ、小さくするといったスモールステップにもしていない。

■ 本来の人格

F君は5年生で、障害児専門の学童保育所に途中から時々来るようになった。その学童保育所で、会話が少しできるという数少ない子どもの1人だった。

自閉症の子どもの不適切な行動は、恐怖が原因になって生まれていることが多い。そして、自閉症の子どもの本来の人格はその不適切な行動で苦しんでいる。

恐怖から生まれている不適切な行動は、言葉で止めることはできない。身体を止める必要がある。身体を止めることは、自閉症の子どもの本来の人格を尊重していることを意味している。

次回は「恐怖症の治療と教育③」です。


白石氏の電子書籍の目次は以下のとおりです。
※なお、本記事は白石氏の了承のもと公開しております。
第一部 自閉症の原因と予防
  第1章 自閉症の原因
  第2章 刷り込み
  第3章 新生児室
  第4章 自閉症予防の5カ条
第二部 自閉症の正しい理解と支援
  第5章 自閉症の正しい理解
  第6章 後期発症型の自閉症
  第7章 恐怖症の治療
  第8章 恐怖症の治療と教育


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