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愛が自己矛盾に溺れるとき

"自己矛盾"とは、自己の中にある二つの相反する欲望が、互いにせめぎ合っている状態だと思う。

こと恋愛において、この自己矛盾が時に自分の首をじわじわと絞めつけるように作用する。たとえば、恋人にもっと自分のことを知ってほしいと願い、勇気を出して自分の過去を打ち明けたいと思う。けれど、打ち明けた途端に相手が引いてしまうのではないか、そんな不安が心の奥で頭をもたげる。距離を縮めたいのに、心のどこかで自分の本音や弱さを隠してしまう自分がいる。その結果、相手との間にわずかな隙間が生まれてしまうのだ。

矛盾は日常の些細な場面にも忍び込む。例えば、連絡が欲しいと思う一方で「そろそろ返信するべきかな」と相手のペースを気にしてしまう自分。相手からのメッセージを心待ちにしているのに、通知が来た瞬間に既読にするのは何だか負けた気がして、一呼吸おいてから返事をする——そんな妙なプライドが自分でも歯がゆい。こうした自己矛盾は、些細な駆け引きのようで、実際は自分にとっても苦しいものだ。

恋人に心を開きたいと強く思うのに、その一方で「完璧な自分」を装ってしまう瞬間もある。欠点を見せればきっとがっかりされると思うと、素直に笑えない。でも、無理に完璧を装う自分が、まるで仮面をかぶったまま抱きしめられているような気がして、胸が苦しくなる。完璧を装えば装うほど、相手はその虚像に気づかずに期待を重ねてしまい、結局、後々になって自分がその期待に潰されてしまうことになる。

甘えたいのに甘え方がわからず後悔したことも何度もあった。たとえば、恋人がそばにいる夜、ただ「一緒にいてほしい」と言えば済む話なのに、甘える方法がわからなくて無言で距離をとってしまう。あとから「どうして素直に言えなかったんだろう」と悔やんでいる自分がいるのだ。どこかで「甘えたら迷惑かもしれない」と思ってしまう自分が邪魔をして、気持ちを伝えられないまま、ただ自己矛盾の波に飲まれていく。求めているのに求められない、そのもどかしさだけが残る。

恋愛における自己矛盾は、甘い喜びと同じだけ苦い後悔を残す。抱きしめられているときでさえ、「本当はもっと側にいてほしい」と心で叫びながら、口には出せずにその瞬間が過ぎていく。愛してほしいのに、愛を求めている自分が弱いと思えてしまい、それが言えずに苦しむ。そうして矛盾の波に飲み込まれていると、いつしか自分でも自分の気持ちが分からなくなるのだ。

恋愛において、自己矛盾は時に自分をもてあそぶ罠のようなものだ。全てを見せれば軽く見られるかもしれない。隠し続ければいずれ破綻が待っている。だからこそ、矛盾を抱えたまま、それでも少しずつ本音を見せる努力が必要なのだと思う。矛盾と折り合いをつけながら、相手に近づきたいと願うこと。その葛藤の中で、もがき続ける自分がいる——

そうした葛藤の中で、きっと愛の本質が見えてくるのだ。


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