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D.H.ロレンスの『チャタレイ夫人の恋人』読書会 (2021.1.8)

2021.1.8に行ったD..H.ロレンスの『チャタレイ夫人の恋人』読書会 のもようです。

メルマガ読者さんの感想文です。

私も書きました。

デモクラシー夫人の恋人

(引用はじめ)

「子供を世の中に送り出すことは怖ろしいと思っているんだ」と彼は言った。「子供がこの先どうして行くかと思うと、とても怖い」
「でも、あなたが私の中に子供を植えつけたのよ。赤ん坊に優しい気持ちになって。そうすれば優しさがこの子の未来になるのよ。キスしてやって! キスしてやって!」
 彼は身震いした。というのは彼女の言葉は本当であったからだ。《優しい気持ちになってやれば、それが子供の未来になるのだ》ーーその時、彼はコニーにたいして純粋な愛情が湧くのを覚えた。彼は彼女の腹に、またヴィーナスの丘に接吻した。それと、子宮と、子宮の中にいる生命に接吻するためだった。(P.516 第18章)

(引用おわり)

第一次大戦中の1917年にロシアで共産主義革命が起こった。第一次大戦により、4つの帝国が崩壊した。(ドイツ帝国、ロシア帝国、オーストリア=ハンガリー帝国、オスマン帝国)1911年の辛亥革命で崩壊した清王朝も含めれば、20世紀初頭には5つの帝国がなくなっている。新たな国民国家が生まれ、デモクラシーが台頭した。
その頃、日本でも大正デモクラシーと呼ばれる民主化運動が盛んになり、男子普通選挙が実現していった。

20世紀になって、急激に生産力が拡大し、産業人口が増えたので、労働者という民衆が政治勢力として現れた。彼らが、労働運動を通して政治的要求をするようになった。そして、イギリスでは、彼らは、第一次大戦後の普通選挙によって自分たちの代表を議会に送るようになった。

19世紀までは、ブルジョワや貴族階級が、王権に対して自由主義を掲げて政治権力を奪い、イギリスを統治していた。その中心が、クリフォードのような有閑貴族階級である。しかし、既存の支配階級が、凄惨な第一次大戦によって勢力を失ったのである。そこにメラーズのような炭鉱出身で、なおかつ軍隊で教育も受けた、リテラシーのある労働者階級が現れて、自己主張するようになった。それは、まず下半身の自己主張であった。

『チャタレイ夫人の恋人』には、女性を巡り、旧勢力と新勢力が、政治闘争する様子が描かれている。そして争いに勝ったものが、子供を育てながら、自分の家族を守り、新たな政治勢力として政権に参画していく。「優しさという勇気」(P.513)が必要なのは、その新たな政権の維持のためだ。

自由に生きていくのには覚悟がいる。そして、自分の自由も大切だが、生まれてきた労働者階級の子供は、どうやって自由を確保して、未来を切り開くのだろうか?
子供たちに優しくするには余裕がいる。時間的にも金銭的余裕がいる。メラーズとコニーは、自由のために新たな家族をなすことを決意した。その根拠地たる彼らの農場はうまくいったかわからないのだが、それは自由のための戦いの始まりだった 
                        (おわり)

読書会のもようです。

お志有難うございます。