
トーマス・マン『魔の山 第五章』読書会 (2023.3.17)
2023.3.17に行ったトーマス・マン『魔の山 第五章』読書会の模様です。
八王子ひげだるまさんが作成してくれた人物一覧です。
トーマス・マン「魔の山」登場人物一覧表 第五章からの登場人物と主要人物
解説音声です。
トーマス・マン『魔の山』解説 人文主義者セテムブリーニの説く「精神と自然の対立」
https://youtu.be/dc8iqR2-cJ0
トーマス・マン『魔の山』解説 「ワルプルギスの夜」について
https://youtu.be/lKkvM-cpLfQ
我が離脱
ハンス・カストルプは、平地の人々が、金を持たない人に残忍であることを語る
(引用はじめ)
どうでしょう、下の平地の人たちの考え方、そして『あいつはまだ金があるのかい?』といった質問、そのときにする顔つき、そういうものに生まれつき平気でいられるには、よほど鈍感な神経をもっていなくちゃならないでしょう。(P.345)
(引用おわり)
それに対してセテムブリーニは、こう忠告する。
(引用はじめ)
残忍性という非難がずいぶん感傷的な非難であることにかわりはありません。あなたもその土地におられたら、自分で自分がこっけいに感じられることをおそれて、そういう非難を口にはされなかったでしょう。そういう非難はよろしく人生の無能力者どもにまかせておかれたことでしょう。あなたがいま残忍を非難なさるのは、ある離脱を物語っているのですが、私はそういう離脱がはなはだしくなるのを見たくはないのです。人生の残忍さをとがめることの慣れてしまうと、人生から、生まれついた生活様式から、離脱しがちだからです。(P.344)
(引用おわり)
サナトリウムの生活は、若者を人生から離脱させてしまう。サナトリウムをふるさとだと思って、平地の生活に戻れずに、何度も帰ってきてしまう若者のこと話しながら、セテムブリーニは、ハンスに平地に戻ることを強く勧める。
私も会社を辞めて、読書会の活動を始めては見たものの、次第に何かの療養みたいになっており、会社を通して感じていた世間の残忍さというものを、遠く眺めるようになってしまった。
だから、セテムブリーニの忠告が、私に向けられたように刺さったのである。それは、私の離脱を物語っているのであり、時間感覚も曖昧なままもう10年も生きてきてしまった。
世間という平地に戻るために、何らかアクションを起こさないと、ならないのだが、しかし、目下の百年に一度の世界史的な混乱を眺めていると、私もいずれ若くはない我が身を起こして、山を降り、この小説のラストのように残忍の巷に飛び込んでいくのかもしれない。
(おわり)
読書会の模様です。
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