現代日本のゾンダーコマンド現象
SNSのインフルエンサーが差別発言していた。
また、サッカー選手が日本人ホテル従業員に差別発言した動画をめぐっても、差別発言をしたサッカー選手を擁護するインフルエンサーがいた。
私は、SNSで差別を擁護する現象を「ゾンダーコマンド現象」と名付けている。
ナチスの作ったユダヤ人強制収容所で、ナチスの看守に自発的に協力して、ユダヤ人の死体処理にあたっていたものをゾンダーコマンドというのである。
私は、その話をプリーモ・レーヴィの『溺れるものと救われるもの』という本で読んだ。
社会的弱者を差別発言で傷つける彼らは、ゾンダーコマンドなのである。
彼らも同じ社会的弱者なのであるが、支配階級や権力構造からわずかな特権を得て、一日でも生き永らえるために、同じ社会的弱者を攻撃して、死体を処理することで、権力の組織犯罪を隠蔽するのである。
こうして社会的弱者は、尊厳もないまま歴史の闇に葬られていった。
組織犯罪の証拠も、そのまさに社会的弱者の手で歴史の闇に葬られる。
完全犯罪である。
野鳥の生きる過酷な自然環境では、弱肉強食が当たり前なので、ゾンダーコマンドなど現れようがない。(ライオンの獲物のおこぼれにあずかるハイエナみたいなゾンダーコマンド的な動物はいるかもしれないが)
人間社会は、立法して、社会秩序を広範囲に形成して、社会的弱者が、淘汰されないように市民社会を築いている。
なぜ、現代日本にゾンダーコマンド現象が起こるのか?
戦争も革命もない時代に、同族嫌悪で市民社会の軋轢を解消せざるを得ないからだ。
排外主義も差別も、市民社会の中で解消できるはずなのだが、それを支えるリベラル・デモクラシーが、機能不全である。
政治家は、市民社会の軋轢に煙突を立てて燃やさなければならないが、彼らは、ゾンダーコマンドを利用して、自分に矛先が向かうのを回避して、私腹を肥やしている。
権力構造の維持が自己目的化しているから、政治家は、軋轢を解消しようなどとはつゆ思わない。
権力基盤の弱い政治家も、ゾンダーコマンド化しつつある。
わずかにでも勝ち組の圏内に入りたいという希望とそのための涙ぐましい努力が、人間をゾンダーコマンドに変えていく。
SNSで差別を擁護する彼らのゾンダーコマンド仕草から目が離せない。
彼らの神経質な喋り方の割にのっぺりとした無感情な顔には、人間の業の深さがあふれている。
ゾンダーコマンドは、人間の生存本能が生み出した化け物である。
未熟な市民社会に生まれる、その化け物は、私の中にも住んでいる。
(おわり)