バリュー投資家の系譜 Part1(ベンジャミン・グレアム編)
1.目的
この記事は、「バリュー投資家の系譜」の概要を掴むことで、資産形成で成功するためのヒントを探すことを目的として作成しています。
今回のPart1では、ベンジャミン・グレアムを取り上げます。
2.バリュー投資とは
「バリュー投資」とは、割安株(企業の利益や資産等から判断し、株価が過小評価されていると考えられる株式)に投資を行う手法のことをいいます。
これと対になる投資手法として「グロース投資」というものがあります。これは、成長株(市場平均成長率よりも高い成長率が期待される株式)に投資を行う手法のことをいいます。
①世界三大投資家の一人であり、「オマハの賢人」の異名を持つウォーレン・バフェットや、②同じく世界三大投資家の一人であり、「冒険投資家」の異名を持つジム・ロジャーズ、③「テンバガー」(株価が10倍になる株式)の名付け親であり、「レジェンド」の異名を持つ「ピーター・リンチ」など、世界の著名な投資家の多くが「バリュー投資」を行っています。
この記事では、「バリュー投資の父」の異名を持つベンジャミン・グレアムの①基本データ、②投資家人生のターニングポイント、③投資手法を整理し、グレアムの投資手法の中から、資産形成で成功するためのヒントを探していきます。
3.ベンジャミン・グレアムのバリュー投資
(1)基本データ
基本データは以下の通りです。
生年月日:1894年5月9日(1976年9月21日没)
国籍:アメリカ合衆国(イギリス生まれ)
学歴:コロンビア大学
職歴:ニューバーガー・ヘンダーソン・アンド・ロエブ(ニューヨークの証券会社)→ベンジャミン・グレアム共同投資会社(独立して設立。後にグレアム・ニューマン社に社名変更。)→コロンビア大学ビジネススクールでの教鞭→カルフォルニア大学ロサンゼルス校教授
異名:「バリュー投資の父」、「ウォール・ストリートの最長老」
著書:『証券分析』(1934年)、『賢明なる投資家』(1949年)
(2)投資家人生のターニングポイント
グレアムの投資家人生のターニングポイントとしては、以下の二点が挙げられます。
①金融業界への就職
グレアムの父は、グレアムが9歳のときに亡くなり、以後グレアム一家の生計はグレアムの母が一手で担うことになりました。
コロンビア大学入学後、グレアムは優秀な成績を修めていたため、大学院に進学をし研究者になるという道もありました。しかし、グレアムには「家計を支えたい」という思いがあり、経済的な面から、研究職ではなく、ビジネスマンとしての道を選び、ニューヨークの証券会社であるニューバーガー・ヘンダーソン・アンド・ロエブへ入社をしました。
数学や英語、哲学といった学問で優秀な成績を修めていたグレアムが、打って変わって金融業界へ就職したことは、投資家人生のターニングポイントといえるでしょう。
②証券分析の才覚の現れ
ニューバーガー・ヘンダーソン・アンド・ロエブでは、グレアムは債券部にてレポートの作成、企業分析等の業務を担当しました。ここで当時は珍しかった数学的な証券分析の才覚を現したグレアムは、独立し、「ベンジャミン・グレアム共同投資会社」を設立しました。証券分析において高い評価を受けたグレアムは、コロンビア大学ビジネススクールやカルフォルニア大学ロサンゼルス校で教鞭を取りました。
証券を数学的に分析することに尽力したことは、投資家人生のターニングポイントといえるでしょう。
(3)投資手法
①バリュー投資の確立
グレアムがバリュー投資に力を入れ始めたきっかけは、1929年の世界恐慌です。グレアムが経営をしていたベンジャミン・グレアム共同投資会社は、この世界恐慌で大きな損失を被りました。
グレアムはこの世界恐慌を乗り切るために、これまで以上に証券分析に力を注ぎ、バリュー投資の手法を確立します。
②七つの基準
グレアムが確立したバリュー投資の七つの基準は以下の通りです。
(ア)事業規模が小さい企業でないこと
事業規模が小さい企業のことを小型株といいますが、小型株は株価の変動が大きいため、避けるべきであると考えられています。
小型株でないことに基準としては、製造業では売上が10億ドル以上であること、公益企業では総資産500万ドル以上であることが挙げられています。
(イ)負債の返済に充てるだけの換金性の高い資産があること
負債の返済に充てるだけの換金性の高い資産があると経営が安定しているといえると考えられています。これを会計用語で換言すると、流動資産が流動負債より多いことを指します。より具体的には、「流動比率(=流動資産÷流動負債×100)が100以上であること」や「棚卸資産を除いた流動資産が少なくとも流動負債と同額であること」等をいいます。
B/Sに注目した基準であるといえます。
(ウ)過去10年間で収益が黒字であること
この基準はシンプルで、過去10年間で収益が黒字であれば、経営が安定しているといえると考えられています。
P/Lに注目した基準であるといえます。
(エ)過去20年間で配当が行われていること
この基準もシンプルで、過去20年間で配当が行われていれば、経営が安定しているといえると考えられています。
(オ)収益力が伸びていること
過去10年のうち、最後の3年間の1株あたり純利益の平均値が、最初の3年間の1株あたり純利益の平均値に比較して、33%以上伸びていれば、収益力が伸びているといえると考えられています。
注目すべき点は、単に純利益が伸びているという基準ではないことです。
(カ)株価収益率(PER)が低いこと
具体的には、株価収益率(PER)が15倍以下であることをいいます。
株価収益率(PER)とは、株価を1株あたり純利益で割った値をいいます。一般的に株価収益率(PER)が大きいほど割高であり、小さいほど割安であると考えられています。
まさにバリュー株(割安株)を探すための基準であるといってよいと思われます。
(キ)株価純資産倍率(PBR)が低いこと
具体的には、株価純資産倍率(PBR)が1.5倍以下であることをいいます。
株価純資産倍率(PBR)とは、株価を1株あたり純資産で割った値をいいます。一般的に株価純資産倍率(PBR)が大きいほど割高であり、小さいほど割安であると考えられています。
まさにバリュー株(割安株)を探すための基準であるといってよいと思われます。
※ なお、(カ)と(キ)の例外として、株価収益率(PER)×株価純資産倍率(PBR)が22.5未満であることが挙げられています。これをミックス係数といいます。
4.まとめ
グレアムの投資手法の最大の特徴は、当時は珍しかった、証券を数学的に分析したことであると考えられます。
グレアムは投資が投機とならないようなリスクヘッジ手法としてこの投資手法を確立したのです。グレアムが確立したバリュー投資の七つの基準が意味することを、会計的に理解することが求められるでしょう。
5.参考文献
「マンガでわかるベンジャミン・グレアムの投資術」(2022年)
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