学校の勉強は役に立たないと考えてしまう理由
僕はデザインと関わるようになってから、それまでになかった、色々なことを学びました。その1つの例が「手すり」です。
ベテランのプロダクトデザイナーの方から、手すりの形や位置、大きさなどに様々な意味や役割があることを教えて頂きました。
ただ、教えて頂いた時点では、まだ「知っていること」で知識になっていません。これがしっかりとした知識になったのは昨年のこと。ひどい捻挫で足首を痛め、自分自身が手すりの必要性を、身を持って体験、理解できたことからでした。
デザインの学校で教えるようになって、学んだこともたくさんあります。
例えばマーケティングの講義の内容は、基本的に大学で教えていたことと変わりません。ただし、経営学部の必修科目を受講しているわけではないので、内容に合わせて、その都度必要なことを説明します。
またデザインを学んでいる学生さんですから、当然、なるべくデザイン実務に役立つ(と言ってもなるべく広い視点で考えてもらうようにしてきますが)事例などで説明するようにしています。
これらのことから僕が学んだのは、デザインという視点から考えることや、デザインを主眼にした講義をすることです。
大学の講義は学問を教えており、問題の対象は社会全体です。また学者としての研究も、専門分野はありますが、目的は社会全体の幸福を実現するため、普遍的な理論を構築することにあります。学識者として招かれた場合は、個々の問題に対して、普遍的な理論を当てはめて考え、ミスリードが起こらないようにするのが役割の1つです。
以前、あるデザイナーの方に「学者は問題を解決しない」と言われたことがあります。個別の案件で学識者として招かれれば、その問題の解決に努めますが、普段は、例えばこの指摘をしたデザイナーの方が活用する「理論」を構築することが仕事と言えます。
・理論を「使う」ということ
僕は今、色々な分野の経営者の方と関わっています。基本的には中小・零細企業ですから、経営者の方自身が業務に携わっています。
それぞれの仕事の専門的な考え方を教えて頂いたとき、自分が、例えば高校までで学んだことが、いかに「知っているだけ」で、知識でなかったことを気付かされました。例えば清掃会社の社長さんから、洗剤について教わったとき、多くの人が中学校で学んだ理科を理解していないことに気付かされました。
世の中の多くの人は、学校で学んだことを「記憶」」して蓄積しているだけで、実は知識にできていません。
ここに「体験(経験ではない)」が重なると、論理的な考え方ができなくなります。つまり理論を知っているだけで、使うことができません。
業務では理論をちゃんと使えているのに。
・料理と勉強は同じ
少し話が変わりますが、本当に料理ができる人は、1つ1つの作業や動作の、科学的な意味を理解しています。
「蓋をする」「酒を加える」「塩をふる」などなど、、、
化学式を書くことができる必要はありません。しかしその、1つ1つの動作が何をもたらすかを、ちゃんと論理的に説明できます。しかし料理が苦手な人は、説明通りに「作業」をしているだけで、意味が解っていません。そのためレシピ通りに作っても失敗します。
勉強も同じです。
ただ覚えただけのことは、普段の仕事や生活に活かすことはできません。「レシピ通り」に「作業」をしているだけだからです。これが仕事であれば、「作業」をしているだけで、「仕事」をしていません。
実は勉強も同じです。ただ「知る、覚える」ことが勉強ではありません。理解し、実践できるようになることが大切なのに、「知る、覚える」しかできていないと実践できません。実践できない記憶は役に立つことはありません。
・問題意識の違い
先にも述べたように、大学の講義や研究という立場からの視点は「社会全体」を対象としています。大学では学んだ理論を、ゼミの議論や卒業論文で、自分のテーマに当てはめ、深く考えます。つまりゼミでは、ある種の実践訓練やケーススタディを行います。
それではビジネスではどうでしょう。
企業のお手伝いをするときは、その企業の経営者、はたらく人、顧客など、扱う問題の直接的な対象の立場になって考えます。デザインと関わるときは、ターゲットとなる顧客の、その代表的な実在する人物を想定して考えます。しかしどちらの場合においても、適用する理論が異なるだけで、理論を無視して考えることはありません。
もちろん理論は、対象が具体的に絞られるほど、基礎だけでは対応できなくなります。しかし原理原則は変わりません。人が守るべきルールは変わらないのです。
これは、問題意識が異なるだけです。
・より良い学びのために
ここまで述べたように、覚えることと学ぶことは違います。しかし多くの人が、「学ぶ=覚える」と勘違いしています。言い換えれば、覚えただけでは、どんな知識も役に立ちません。この仕組みを理解していない人が、「学校のお勉強は役に立たない」と言うのだと思います。
学ぶことはとても面白い行為です。それ実践できれば、なお面白くなります。
例えば料理のように。