古いものは通用しないという考え方の罠 最新ワードの落とし穴
今回はマーケティングの講義を例に、少し違った視点から考えてみたいと思います。
学校での講義と社会人向け、特に経営者向けのセミナーの違いとして、特徴的な事があります。
それは質問の内容です。
例えば今担当している広告デザイン専門学校も含め、学校では講義中の質問はあまりありません。しかし講義の後などに時々質問を受けます。その内容は多くの場合、講義の内容で、しっかり理解できなかった点についてです。また常に課題を持っているので、自分が取り組んでいるデザインの課題について、どう考えたらよいかなどという質問もあります。
以前担当した社会人向けのセミナーでは、やはり理解できなかった点に加え、受講者の方が扱っている業務についてや、世の中で話題になっている企業(主にうまくいっていない事例)について、どのように考えるべきだったかなどです。
これに対して、経営者の方に向けたセミナーなどでは、質問に違った特徴が見られます。
まず「これから何が儲かるか」であるとか「どうやったら儲かるか」といった質問。
これらについては、一応業務なので、その日のセミナーの内容に即して、考え方を基に事例を挙げたり、質問者の業種の課題を伺い、失敗事例と成功事例の比較を話すようにしています。
次に挙がるのが、新しいビジネス用語です。
マーケティングであれば、「webマーケティング」や「コンテンツマーケティング」「データマーケティング」など。こうした`用語'(あえてこう記します)については、実は知らないものも多いです。そうした場合は、その用語の意味を質問者に伺い、その場で調べて、可能な限りお答えします。
これらの質問については以下のようにお答えします。
例えば「webマーケティング」であれば、まずwebを利用して何がしたいのかを伺います。
この場合、多くの質問がSNSを活用するとか、オンライン販売とかというもの。これらについては、全てマーケティングの4P、4Cのみでお答えしています。SNSについてであれば、Promotion、Customer Communicationで説明します。
オンライン販売であれば、Place、Convenienceで説明します。またコンテンツマーケティングであれば、Product、Customer Valueで、全ては製品・サービスの品質ありきと説明します。
データマーケティングであれば、マーケティングに限らず、基本的なデータを基にした分析なしでは何もできないと答えます。
つまりビジネス用語は日々無限に産み出されていますが、そうした言葉に飛び付く前に、基礎をしっかり理解する方が近道とお話ししています。
これらの解答に、いつも二つの反応が見られます。
一つ目は、所詮学校の先生は机上の空論、実務はお勉強とは違うというもの。二つ目は全く逆で、とても勉強になったからより深く聞きたいというもの。
セミナーの性質によって、反応の比率が変わりますが、概ねこの二つです。
面白いもので、一つ目の反応の方とは、その後お会いする機会は殆どありません。二つ目の反応の方とは、長いお付き合いをすることになることが少なくありません。
僕もこうした傾向に慣れてきたので、あまり気にしません。これもマーケティングです、誰もが同じものを求めているわけではありませんから。
経営者の方に向けたセミナーでは、終了後に懇親会があることが多いのですが、その場の席もこの傾向で別れます。
とある勉強会の後、比較的大きな会社の会長さんが僕の前に着席されました。このような時、変に気を使うと大体失敗します。自分の本質的な考えをしっかり述べなければ、お叱りを受けてしまいます。
同じ経営者の方でも、より大きな責任を持つ(認識している)方ほど、こうした傾向にあるように思います。
さて、脱線話でも「本質的な」と記しましたが、経営者の方向けのセミナーでも挙げたように、僕はどんな話でも、基本的には基礎理論で説明するように心がけています。
なぜなら容易に新しい言葉に飛び付くのは、必ずしも良くないと考えているからです。また往々にして、新しい言葉を多用する人ほど、意味をしっかり理解していないことが、少なくとも自分の回りには多かったからです。
確かに時代の変化とともに、新しい産業が誕生し、様々な技術や考え方が現れました。社会の大きな変革はパラダイムシフトを引き起こし、それまでの考え方が通用しなくなってきました。特に1990年代以降はその傾向が顕著であることは皆さんが周知のところです。
しかしここで勘違いしてはいけないことがあります。それは、慣例や通念が変わっただけで、基本原則は変わらないということです。
よく経済システムが変化するという言葉を耳にしますが、これについて、僕はかなり懐疑的に思っています。どれだけITやAIが発展したとしても、市場原理が根本的になくなることはありません。近年ヨーロッパで社会主義的な考え方に移行しつつあることについても、既に資本論で語られていることです。
日本経済についても、単純に戦後の慣例や通念が通用しなくなっただけで、今経営者が見直すべきは「勘と経験と努力」ではなく、「仮説・分析・検証」にのっとった科学的な判断です。
膨大な情報が無作為に溢れ、取捨選択が難しい時代だからこそ、子t場が何を意味するのか、そしてどのようなことが起こるのかを考える時、新しい言葉に惑わされない目が必要なのではないでしょうか。