これからのデザインを考える 経営経済学者がデザインについて考える理由

・デザインを学ぶ
これまで僕は、約6年ほどデザインと関わってきました。最初はグラフィックデザインの技法と視点を学び、次に様々な分野のデザインと考え方について学びました。
その中で、デザインの役割や可能性について考え始めるわけですが、同時に、疑問点や矛盾がみえはじめます。すると、そもそも「デザインとは何か」という疑問にたどり着きます。

ここで面白いのは、デザインの世界では、デザインを定義するという行動が見られないこと。
これについては、後から気づくのですが、デザインは、考え方と技法がくみあわさったもので、学問や理論として、確立していないということ。例えば、僕の専門分野では、定義の説明から講義を行いますから、僕の目にはとても不思議なことに見えました。

そこでさらに、様々な方からデザインについて学びましたが、誰も定義化を考えていません。それどころか、定義できるものではないという言葉を聞きました。

当たり前です、皆さんは実務家でああり、デザインをしたいのであって、デザインを論理的に理解したいわけではありません。そんなことをしても、何の職にも就けません。

この頃には、デザイン学会の会員にもなりましたが、ここにも僕の求める答えの手がかりが見つかりません。
仕方がないので自分で勉強を始めることになります。この頃から、デザイナーの方にも、僕の疑問を理解してもらえなくなってきます。仕方がないので、色々な論文を探すと、これまで学んだことにはない視点や理論が見つかります。

ところで、僕は元々、マルクス経済学派ですから、批判哲学の考え方で思考を進めます。そのかていて、先にも述べたように、それまで学んだデザインの考え方について、疑問や矛盾を感じていましたが、この正体が見えてきます。

それは少なからず、「デザイナー」の「言葉」が、「デザイナーのための言葉」であって、「社会のための言葉」になっていない点です。これは、デザイン=問題解決とする、多くのデザイナーの言葉と矛盾します。

そこで今度は、この矛盾を元に、デザインの考え方を見直します。すると、デザインの考え方の、欠けた側面が見えてきました。

話が逸れますが、僕がマーケティングについて学んだ恩師はマーケティングの独自の定義として、「無限に連なる連鎖の、欠けたピースを見つけて繋ぐ行為」と仰いました。デザインの考え方の、欠けた側面にたどり着くというのも、何とも奇妙な気がします。

話を戻して、さらに勉強を進めていくと、各国の先端的なデザインの考え方にたどり着きます。そこからデザインの考え方の、欠けた部分へアプローチをしていきます。このような流れは、実は研究者にとって、一般的な作業です。僕は優秀な研究者ではありませんから、ここまでの流れは、既に誰かが明らかにしているでしょうから、先行研究を探すことにします。

・デザインを考える
ここからは、なぜ僕がデザインについて考えるのかについてです。

デザインの起源をたどると、ほとんどの文献などで、ウィリアム・モリスにたどり着きます。そしてそのきっかけは、産業革命です。
デザイン学の視点では、デザイン(モノ)とデザイナーの思想を考えますが、産業史における位置づけについて語られたものは、ほとんどありません。これは、1つには、先に述べたように、デザイナーには不要な分析だったからでしょう。

しかしこの視点にこそ、意味があるのではないでしょうか。

デザイナーが、産業革命によって誕生した「職能」であれば、僕は、その役割は、産業構造によって位置づけられると考えるからです。

産業革命以前は、生産者や商人といった実務家が、規模を拡大していきました。しかし産業革命によって登場した資本家は、必ずしも、事業の実務家ではありません。その企業は、製品を生産するために「デザイナー」という専門家を雇用します。
このとき、デザイナーは、どんな事業を行うかという意思決定には加わっていません。つまり「「ト」の出発点にはいないことになります。

これは、ほとんどのデザイナーは、仕事の内容や方向性を、経済構造や産業構造によって決定されることになります。例えば、「とにかく売る」ということを目指した「マネジリアル・マーケティング」の時代には、「とにかく売れる」ものを作ることを求められます。その後の「ソーシャル・マーケティング」の時代には、社会全体の価値に即したものをデザインすることが求められます。

その中で、ごく限られたデザイナーのみが、自己の思想を起点としてデザインを行うことができるのですが、このようなデザインは、基本的に売れませんから、極めてアートに近い存在になります。

近年では、デザインマネジメントという形で、デザイナーが経営者と同じ立場で、企業経営に参画するようになり始めました。とはいえ、このような立場に立てるデザイナーは、限られた人だけです。またこの立場の人材を探すとしても、その企業の目指す事業と、全く無関係な分野のデザイナーを担当させることはできません。

経営経済学は、企業と労働の在り方を考える学問です。つまりデザイナーの仕事の在り方も、経営経済学の対象となります。言い方を変えれば、これからのデザインを考えるためにも、僕は僕の視点からデザインを考ることも、必要だと思います。

いいなと思ったら応援しよう!