年のはじめに考える 国語の力(企業の言語力.2)

昨年末、久しぶりに広告デザイン専門学校の忘年会に参加しました。

この学校に限らず、新型コロナウイルスの影響で、ゼミの忘年会などの文化が途絶えてしまったようですが、この学校は小さな学校で、学生さんの仲が良いです。
学生さんが企画したので、参加することにしました。

卒業式の話でも記しましたが、この学校では、こうした場で、あまり学生さんから声をかけられません。
デザインの学校なので、他の科目は基本的に制作作業です。僕の講義は、大学なら教養科目ですから、そんなものと思っていますが。

・忘年会での出来事
ところで、この学校には、しばしば大卒や社会人経験者の学生さんがいます。厳しいことで有名な分、やる気のある学生さんが多いのも特徴です。

学生さんが楽しく談笑しているので、端の方の席にいると、「佐伯先生と話したい」と、1人の学生さんが来ました。
この学生さんは、文学部(中世日本文学専攻)出身で、「国語」を大切にすることに関心を持っています。
実は、この学生さんの学歴は、何となく気付いていました。ロジカルシンキングの講義では、明らかに学力の高さなどを感じますし、僕が個人で『日本国語大辞典』を使っていると話したとき、声を出して反応しましたから。(笑)

国語を大切にするということから、色々な話をして、また様々な質問を受けました。
殘念ながら、僕は文学には疎いのですが、普段専門書以外で読んでいる本の話や、それぞれのレベルに合った本の選び方などについて話しました。

ところで、僕はデザイナーの方と仕事をするとき、コピーライティングを担うことがあります。本来僕の専門ではありませんが、「国語」という視点から、僕なりの方法を伝えると、随分興味を示します。
そこで、ある時期に気付いたことを話しました。

それはある時期から、デザインの中の、言葉の重さと温度が、デザインの質と比例するということです。
以前はデザインの展覧会を見るとき、「目の保養」と言っていましたが、このことに気付いて以来、デザイン自体の見え方が変わりました。そしてそれからは、展示を見て、「見る力を養う」ことができるようになりました。

この話は、あくまでも僕の経験と感想なので、参考になるかは判りませんが、この学生さんは大きく頷き、何かを得たようでした。

・企業の言語力.2
以前の記事、「企業の言語力.1」では、主に「言語力」自体の考えなどについて記しました。実は続きを書いていましたが、そのままになってしまいましたので、今回は、もう少し具体的なことを述べたいと思います。

講義の中では、僕がデザイン業務と関わった経験などについても離すのですが、僕が企業とのコミュニケーションからコンセプトを作る作業、いわゆるディレクションです。
特に、デザイナーの方から僕に以来がある場合は、「お客さんが何をしたいか解らない」とか「何をしたらいいかわからない」といったケースも多く、いわゆるデザインのディレクションを超えて、ビジネス全体のディレクションを行うことになります。

僕の周りのデザイナーの方々は、経験豊富な方も多いので、勿論ヒアリング能力は高いのですが、僕が呼ばれる段階になると、流石にお手上げのようです。

このとき感じるのは、やはり「企業の言語力」の低さです。

企業の理念やパーパス、何を成し遂げたいのか、そのために何をしているのか、それによって出来た製品やサービスで何を実現したいのか、そうしたことの全てが不明瞭で、簡単に言えば、経営者自信が、社員や顧客に伝える言葉を持っていません。
文字通り、「企業の言語力」が欠如しているのです。

それでは、なぜ「企業の言語力」が欠如しているのでしょうか。

僕の経験からすると、簡単に言えば、伝えるべき「意志」や、提供したい「価値」を明確に持っていないことが原因だと考えます。

・言葉の重さと温度
先に、「言葉の重さと温度」と記しましたが、これは僕が人や企業などを見る上で、最も大切にしていることの1つです。

世の中では、得てして声の大きい人の意見が通りがちですが、そこに「重さと温度」があるとは限りません。むしろそうではないことの方が多いのではないでしょうか。
逆に、物静かで思慮深い方の言葉に、本当の意味で「言葉の重さと温度」を感じることもあります。

偉そうに言っていますが、実は、僕はあまり人を見る目がありません。
実は昨年末、会うべきではない人と会って話をして、イヤな思いをしました。なぜなら会ってすぐに、重さと温度のない発言に苛立たされたからです。

・企業の言語力
企業経営においても、国語は大切なのですが、さらに「言語力」となると、単なる国語力を超えて、企業全体で共有する意志が必要になります。これはよく「企業理念」や「パーパス」という言葉で表現されます。
パーパスについては、僕が説明するとき、実は人によって言葉を変えています。しっかりした考え(理念)がある方であれば、セオリー通りの「志」で構いませんが、殘念ながらそうした「姿勢」が感じられない方には、「覚悟」と説明しています。

企業の言語力とは、実現したい「意志」とそれを伝えられる「国語力」を持つことで得られるのではないでしょうか。

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