橈骨遠位端骨折を診る上で必要な知識④靱帯
内在手根靱帯
手根骨間に起始・停止が存在する靱帯と定義される。
掌側
橈骨と手根骨を結ぶ掌側の靱帯構造である橈骨手根間靱帯は、極めて強靭であり、橈側から橈側側副靱帯(RCL)、橈骨舟状有頭骨靱帯(RSC)、橈骨月状骨靱帯(RL)、橈骨舟状月状骨靱帯(RSL)が橈骨掌側部より起始する。
掌側橈骨手根靱帯
LTjtの安定性に関与するものとしては長橈骨月状骨(long radiolunate:LRL)靱帯と短橈骨月状骨(short radiolunate:SRL)靱帯の2つがある。LRL靱帯は掌側橈骨月状三角骨靱帯や掌側橈骨三角骨靱帯とも呼ばれる大きな関節包靱帯であり、橈骨遠位の舟状骨窩掌側縁から起始し、尺側遠位へ斜走して月状骨掌側面橈側に停止する。その後、関節包側の線維層だけが尺側へ延び、LRL靱帯は手jtを背橈屈させると緊張する。
SRL靱帯は手jt部の靱帯の中で最も重要なものの一つとされ、月状骨窩掌側面近位に停止する。その間、同一平面上で尺側に近接するUL靱帯と線維が連続する。
掌側尺骨手根靱帯
掌側尺骨手根靱帯にはUL靱帯のほかに、尺骨三角骨(ulnotriquetral:UT)靱帯と尺骨有頭骨(ulnocapitate:UC)靱帯が含まれる。
UL靱帯は掌側遠位橈尺(palmar distal radioulnar:PDRU)靱帯から起始し、月状骨掌側近位尺側に停止する。線維を交えるSRL靱帯と同様に月状骨の安定化に寄与している。なお、UL靱帯は手jt背側で緊張し、中間位で最も靱帯長や緊張が少なくなる。
UT靱帯はPDRU靱帯と尺骨茎状突起基部から起始し、三角骨掌側面(外束)と尺側面(内束)に停止し、手jtの背橈屈で緊張する。外束はSRLやUL靱帯と同一平面上にあり、三角骨を拘束する。
UC靱帯は尺骨小窩部から起始し、ULおよびUT靱帯、LTIO靱帯の表層領域に向かって線維を出して結合し、その後は有頭骨に停止する。そのためUC靱帯はULおよびUT靱帯のみならず、LTIO靱帯掌側領域をも補強する役割を担っている。UC靱帯はUT靱帯と同様に手jtの背橈屈で緊張する。
背側
橈骨と手根骨を結ぶ背側の橈骨手根間靱帯としては、橈側から橈骨舟状骨靱帯(RS)、橈骨月状骨靱帯(RL)、橈骨三角骨靱帯(RT)が橈骨背側部より起始する。これらは合わせて背側橈骨手根靱帯(DRC)と呼ばれる。この遠位には舟状骨の橈側と三角骨の尺側に付着する背側手根間靱帯(DIC)がある。
外在手根靱帯
前腕骨と手根骨を連結する靱帯と定義され、背側には尺骨と手根骨を結ぶ靱帯がないため、背側橈骨手根(dorsal radiocarpal:DRC)靱帯と掌側橈骨手根靱帯、掌側尺骨手根靱帯の3つに分けられる。
DRC靱帯
Lister結節尺側から橈骨尺骨切痕の間の橈骨遠位背側縁より起始するDRC靱帯は、尺側遠位へ幅を狭めながら斜走して三角骨背側の骨隆起に停止する台形状の形態を成している。平均で靱帯長は20.5(13.8~29.4)㎜、中枢側の幅は9.2(5.5~17.8)㎜、厚さは1.1(0.6~1.8)㎜、末梢側の幅は5.1(3.4~9.3)㎜、厚さは0.9(0.3~1.3)㎜である。DRC靱帯は手jtの掌尺屈で遠位成分の緊張が増加する。
この靭帯は三角骨背側骨隆起の停止部において、そこから起始するDIC靱帯と線維を共有するだけでなく、LTIO靱帯背側領域とも結合して同部を補強する。また、月状骨が掌屈位になろうとすることを妨げる作用も有している。
LTIO靱帯
連続したC型の形状を成し、組織学的に掌・背側、近位の3領域に分けられる。
このうち背側および掌側領域は真の靱帯構造であり、膠原線維や小さな血管・神経を有している。一方、近位領域は血管・神経を有している。一方、近位領域は血管や神経のない線維軟骨構造になっている。背側領域は厚さが1.4±0.2㎜であり、膠原線維は横に配向分布している。掌側領域は厚さが2.3±0.3㎜であり、背側と同様に膠原線維は横に配向分布している。近位領域は膝jtの半月板に似ており、厚さが1.0±0.2㎜で、膠原線維に配向分布はみられず、しばしばLTjtの間隙へ向かう突出が認められる。
LTIO靱帯はLTjtを安定化させるが、3領域における靱帯厚が有意差をもって掌側、背側、近位の順になることから、月状骨と三角骨間における相互の並進運動への拘束力としては掌側領域が最も重要といえる。ただし、三角骨に対する月状骨の掌・背屈運動では背側領域の拘束が大切となるものの、近位領域は三角骨と月状骨間の運動に対する拘束性をあまりもたない。
LTIO靱帯が直接骨に付着することは稀であり、線維軟骨のみ、もしくは線維軟骨と硝子軟骨を介して月状骨および三角骨に固着する。各3領域の靱帯実質部および付着部のすべてにⅠおよびⅢ型コラーゲンが存在し、付着部では軟骨における膠原線維の主成分であるⅡ型コラーゲンも認められる。約3割の手jtでは近位領域のみならず、掌・背側領域の靱帯実質部にもⅡ型コラーゲンが含まれている。また、3領域の靱帯実質部には軟骨の細胞外マトリックス(アグリカンやバーシカン、ケラトカン、ルミカンなど)が存在する。
背側手根間靱帯
屍体を用いた研究において、背側手根間(dorsal intercarpal:DIC)靱帯は三角骨背側骨隆起より起始し、90%以上の標本では月状骨背側遠位部に付着してから舟状骨背側溝に停止し、50%の屍体標本では舟状骨の他に大菱形骨中枢端にも停止部を有する。DIC靱帯は太い1つの線維(遠位部で網様の細い線維が結合する場合も含む)、太い2つの線維、3つ以上の線維からなる3型が存在するが、いずれであっても横走する近位部は厚く、遠位部は薄い。遠位成分は手jt掌尺屈で緊張が増加し、近位成分は中間位で最も靱帯長や緊張が少ない。
本靱帯は有頭骨頭や有鉤骨近位極に対する関節唇として働くが、LTIO靱帯背側領域と線維を共有するため同靱帯の安定性増強の役割も担っている。
背側舟状三角骨靱帯
舟状骨から月状骨、三角骨の背側遠位縁に沿って張り、LTIO靱帯背側領域のすぐ遠位に存在する。有頭骨頭や有鉤骨近位極に対する関節唇として働くが、LTIO靱帯の安定性の増強効果も有している。
三角有頭骨靱帯およびTH靱帯
いずれも三角骨掌側遠位縁に付着し、三角有頭骨(triquetrocapitate:TC)靱帯は有頭骨体部掌側近位尺側、TH靱帯は有鉤骨体部掌側に付着する強靭な靱帯である。手根中央jtの安定性に関与し、特に三角骨を含む尺側手根骨の二次的な安定化機構になる。
LT靱帯
新鮮凍結肢体を用いた研究によれば、8例中7例において明確な靱帯として同定されたが、この靭帯が独立したものか、またはLTIO靱帯掌側領域の一部か否かに関しては定説がない。月状骨掌側遠位尺側から起始し、LTIO靱帯掌側領域を部分的に覆い、尺骨月状骨(ulnolunate:UL)靱帯遠位やLTIO靱帯の掌側領域橈側と接着するため、LTjtの安定性に寄与している。
LTjtに関係する靱帯の微細解剖
これまでに記載する手根靱帯は主に後骨間神経、時に尺骨神経手背枝や橈骨神経浅枝により支配され、DRCやDIC、背側舟状三角骨靱帯といった背側に存在する手根靱帯は神経支配が特に豊富である。LTIO靱帯掌側領域やTC、THといった三角骨の掌側に付着する靱帯も中等度の神経支配があるものの、ULやLRL靭帯への神経支配は少ない。神経支配が多いDRCやDIC、背側舟状三角骨靱帯、LTIO靱帯掌側領域ならびにTCやTH靱帯が付着する三角骨は手jt運動の重要な制御機構になっている。
また、手根靱帯は内在および外在で組成が異なり、内在手根靱帯はしなやかさや柔軟性をもつⅢ型コラーゲンが、外在手根靱帯は膠原線維が密に詰まっている強靭なⅠ型コラーゲンの含有が優位に多い。
屈筋支帯(横手根靱帯)
手関節の骨要素は掌側にくぼんだ溝を形成する。これは屈筋支帯(臨床的には横手根靱帯という)で閉鎖され、手根管という線維性結合組織と骨から成るトンネルを形成する。この管の最も狭い部位は遠位手根骨の中央を約1㎝越えたところである。その部位の断面積は約1.6㎝²に過ぎない。手根管は10の屈筋腱(腱鞘で覆われ、結合組織中にある)と正中神経が通過する。
正中神経の詳細な走行については、橈骨遠位端骨折を診る上で必要な知識⑤神経を参照して下さい。(9月23日(木)アップロード予定)
手根管の骨性境界
手根骨は手jtの背側面に凸の球を形成し、掌側面に凹の弓を形成する。これは掌側面に手根管を作り、橈側と尺側にある骨の突出(橈側・尺側手根隆起)によって境界される。大菱形骨結節と舟状骨結節は橈側に触知可能な隆起を形成し、有鉤骨と豆状骨は尺側に触知可能な隆起を形成する。これらの間に張っているのが屈筋支帯(横手根靱帯)で、掌側で手根管を閉鎖する。
手根管を通る断面
手根管の近位部を通る断面
手根管の遠位部を通る断面
右中指の関節包、靱帯と腱鞘
長い屈筋腱(浅・深指屈筋の腱)は、手の掌側では強い共通の腱の滑液鞘の中を走行する。腱鞘は長い屈筋腱が摩擦なく滑るように働く。腱鞘の外層の線維鞘は線維層を成し、輪状部と十字部によって補強される。また、これらの靱帯は指の掌側の腱鞘に移行し、屈曲の際に腱鞘が変位するのを防ぐ。輪状部と十字部の隙間は指の屈曲に必要である。
指の腱鞘を補強する靱帯
A1-A5=[線維鞘の]臨床部、C1-C3=[線維鞘の]十字部
第1輪状部(A1):中手指節(MCP)jtのレベル
第2輪状部(A2):基節骨の近位部のレベル
第3輪状部(A3):近位指節間(PIP)jtのレベル
第4輪状部(A4):中節骨の骨幹部のレベル
第5輪状部(A5):遠位指節間(DIP)jtのレベル
十字部はその走行が行ってしていない。
中手指節jtの関節包と靱帯
側副靱帯は伸展で緩み、屈曲で緊張する。このため、もしも手が長期間動かない状態(例えばギプスなど)であるならば、指の関節は常に“機能的な位置”に置く必要がある(すなわち中手指節jtが約50~60°屈曲した状態)。これがなされずに指の関節が長期間伸展位に置かれると、側副靱帯は短縮し、ギプスを外した際に伸展位による変形が生じる。副側副靱帯と指節関節靱帯はともに屈曲と伸展で緊張し、伸展を制限するように働く。
第3中手骨の頭を通る横断面
第2-5中手骨の頭のレベルでは、掌側の線維軟骨版(掌側靱帯)が深横中手靱帯の線維と連結している。屈筋腱鞘の第1輪状部と掌側靱帯が結合して、中手骨の遠位部を補強し横中手弓を安定させる。
引用・参考文献
坂井建雄他)監訳:プロメテウス解剖学アトラス解剖学総論/運動器系第3版、医学書院、2019年、1月
安部幸雄編):橈骨遠位端骨折を極める 診療の実践A to Z、南江堂、2019年
森谷浩治:月状三角骨関節の解剖、建部将広企):特集 月状三角障害の診断と治療、整形・災害外科、2021年、7月P941~950
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