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DXと中小企業。企業の社会貢献度が評価される日を夢見て

前回の下の記事に続き、会津若松スマートシティー拠点AiCTに関する内容です。

特に今回は、「中小企業のDX」に焦点を当てます。

中小企業のDX遅れは日本にとって致命傷

政府が国の政策として行政デジタル化に取り組む。そして一般企業に対しても「DXレポート」を発してDX化を推奨する。なぞるように大手IT系企業がこぞって「DX推進組織」を立ち上げる。コロナ禍で胸元を揺さぶられた眠れる巨人・日本にとって、経済停滞を抜けるためにはこの流れを止めずに走りきらなければいけません。

しかし集団で走れば必ず遅れる人が出るもの。DXでそれが懸念されるのが中小企業です。

とはいえ、企業数で言えば日本の99%が中小企業。従業員数では6割超。とりわけ、従業員が5名以下の小規模企業は日本の全企業数の9割弱を、また雇用の1/4をそれぞれ占めるという情報もあります。

また、人口の少ない都道府県ほど中小企業に勤める人口比率が多く、全体では6割強であっても、県民人口100万人以下の都道府県では9割近くに上ります

こんな彼らがこぞってDXに遅れをとれば、「集団から遅れている」どころか、むしろ「一部のエリートだけ先に行っている」と見え方が変わってしまいます。そうなると集団心理が芽生え、「前行っている奴らが特別なだけだから」とか「仲間もみんな同じところを走ってるから」となってきてまったく前に追いつこうとする努力をしません。

つまり、日本全体がDXでボトムアップできるかどうかは、中小企業にかかっている、といえます。立ち止まっている会社は潰れるだけだ、自業自得だ。と切り捨てるにはあまりにもボリュームが大きく、国民へのダメージも大きいのです。

結局、中小DXは外部主導になる

ならばどうするか。
中小企業内に最低一人、DX意識の高い人がいて社長をたきつければ自発的にDXに取り組める可能性があり、それを実現するのが私の下のマガジンの主張だったわけです。

しかし、日本全体のスピード感で言えば「2025年の壁」に間に合わせるのにはそれでは少し悠長です。99%の中小企業のうち何%かは救えたとしても、その他はおもいきり壁に正面からぶち当たって卒倒する企業が発生してしまうでしょう。

となると、結局、コンサルティング会社や懇意のSIerなどが積極提案することによる外部主導で、中小企業が変わっていくしか無いのです。

アクセンチュアが提示するソリューションにみる解

中小のDXにも関連して、会津若松のスマートシティー化拠点AiCTについて、私は以前次のように書きました。

「仕事を生み出すことができるか?が鍵」
「地方自治体のプラットフォームづくりだけでは雇用を維持できない」
「中小企業や農家を含む個人事業者に対しての動きがまだ見えない」
「中小企業の改革ありき」

これらの課題・提言に関しては、奇しくもというか、当事者だから当然というか、AiCTを主導する企業であるアクセンチュアが先日発表したばかりの新体制が、その解のひとつを提示しているように思えます。

■「仕事を生み出すことができるか?が鍵」への解

この発表では、アクセンチュアが成長を続ける要因の一つとして、「ナショナルアジェンダ(国家的課題)への対応」が挙げられています。

ナショナルアジェンダで取り組むテーマは数多くあるが、特に「地方創生」においては福島県会津若松市を拠点としたスマートシティー化やデジタル人材の育成・輩出、また、福岡市に開設した「インテリジェント・オペレーションセンター」における高度なBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)サービスなどがあるとした。

いくらナショナルアジェンダと言っても、会津若松は地方都市。予算は限られます。会津若松市の令和2年度当初予算を見ると、ICT関連として次の事業がありました。

・会津若松+の運用・整備:450万円
・新モビリティサービス推進事業:1,000万円
・スマートアグリ導入・実証事業:4,000万円
・デジタルDMO推進事業:520万円
・会津大学地域連携促進事業;500万円
・オンライン医療推進事業:550万円
・デジタルガバメント推進調査業務委託(公募型、約1年):1,650万円

大企業がオフィスを構えて人員を維持するには十分な予算ではありませんが、運用系は毎年同等の額が支払われることが約束されているでしょうし、最後のようなICT関連業務の単発案件の委託についてはその仕様書を書いたり審査したりするのも外部コンサルが多額で受注しているはずです。

また、こういった案件をこなすことができれば、今後、日本全国数多の自治体に対しても同様の受注を得るだけの実績とノウハウを積み上げることができます。ビジネスとして費用対効果をみると決して筋は悪くないことでしょう。AiCTに安定的に根付いてもらうためには必要なことです。

■「中小企業や農家を含む個人事業者に対しての動きがまだ見えない」への解

対中小企業という点ではこちらが強調したいトピックですが、アクセンチュアの「テクノロジー コンサルティング本部」では、事業変革を実行するための施策として、「脱ホストコンピューター」、そして成長要因としても挙げられた「ナショナルアジェンダへの対応」を引き続き掲げます。(下記画像はアクセンチュアの発表資料をニュースサイトから借用)

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「脱ホストコンピューター」は、明らかに富士通など従来のハードで囲い込みを行ってるSI企業を意識したものでしょう。「2025年の壁」で語られる通りこれは中小企業の足かせなので、クラウドサービスやパッケージへの乗り換えをしましょう、というわけです。

また、「ナショナルアジェンダへの対応」は次の趣旨です。前述の文脈と違い、自治体の仕事だけではなく中小企業に焦点が当てられます。

中小企業が共通利用できるIT環境を提供することで競争力の向上を支援する。土居氏は、「中小企業がグループとなり共同で調達や購買ができれば大企業のような競争力に匹敵する。この仕組みをSAPと共同開発しているところだ」と紹介した。

私は10ヶ月前の記事で次のように書きました。

どっちみちどの会社もやらなければいけない業務は、クラウド上にSaaS化して、企業規模に応じて安価で使えるような仕組みがあったなら、多少コストがかかっても多くの企業が乗っかるのではないでしょうか。(中略)こういった、やたら手間のかかる、企業が企業たるために必要な業務をICTで削減することができれば、会社が事業活動自体に時間を多く割くことができます。

調達や購買ではありませんが、要点は一緒です。こういった内容を、中小企業のDX、または地方創生という文脈でやってくれるならば、従来のように一部SIerがユーザー企業の限られた利益を吸い上げながらもあまり企業価値向上に繋がらなかったような状況を打破でき、サービス提供側と使う側でWin-Winの関係が望めると思うのです。

中小企業DXは誰に与えられた使命か

中小企業の改革が日本復活の前提条件だとわかっていたとして、アクセンチュアのような企業が腰を上げたとしても、それがそこまで旨味のあるビジネスなりうるのか?という問題に突き当たります。

つまりDXの意義の一つとして「システムコストを最小化しつつ利益を最大化すること」があるので、それはSIerにとって首を締める提案をするに等しいわけです。

例えば富士通の組織再編から見えてくるのは、地方隅々の小さな案件の「整理」です。

会津若松はかつて富士通の半導体工場があったお膝元地域で、富士通ほど人単価が高く与信調査も厳しい企業が珍しく中小企業と直接契約して細かなビジネスをしているケースが多くあります。それは決して利益効率の良いものではないわけで、現在3%そこらだった利益率を10%に上げるというのは、今後は利益率の高い案件にのみ注力すると言っているようなものです。社名に”Japan”をくっつけてX JAPANみたいにしたいわけではなく、これをきっかけに付き合う客も変えていくということです。

利ざやの大きい案件に集中して利益率を上げるのは企業戦略として当然です。おそらく小さな既存顧客は地場の代理店に世話をさせるのでしょう。
しかし思うのですが、実はそのような地場のシステム会社こそが細かい案件のやりすぎで営業効率を高められておらず、むしろDXが必要な企業の筆頭ともいえるのです。当然ながら、上で書いたアクセンチュアのようにナショナルアジェンダに対応するだとか、中小企業の共通基盤を開発するなんていうパワーは持ち合わせません。富士通はそれをしうる企業ですが、新経営方針を見ていると、あくまで従来踏襲のビジネスに収まっています。アクセンチュアがトップダウン型で世の中を変えていく革新的戦略だとすると、富士通はボトムアップ型で保守的。リスクは小さいですが、営業利益が3倍になるようには見えませんでした。(中小企業の経理風情が偉そうに言って申し訳ない)

つまり、中小企業のDXを引っ張れるのは大企業に限られ、それが大企業に課せられた使命だと言いたいのです。DXにも大小あって、ちょっとした工夫で仕事の効率が上がるレベルのものもあるわけで、それなら革新的なスタートアップ企業のサービスでもできるでしょうけど、それで日本の一人あたりGDPがアメリカに追いつくとは思えません。その先にある、根本的な企業活動を変えるステージにおいては、中小企業が低コストで利用でき、かつDXにつなげることができる革新的なサービスの誕生が期待されます。

企業の社会貢献を国が支えよ 

だからといって、志のある大きな企業が中小企業のためにリスクを背負って犠牲になっては本末転倒です。

上で言った革新的なサービスって何なの?となると、私の軽いおつむで思いつく程度では、やっぱり「中小企業フレームワーク」のような、主に間接業務など非競争領域における共通プラットフォーム、成功企業のノウハウがフィードバックされたCRMやグループウェア、そして受発注・請求・支払システムといったものを安価に使えるサービスでしょうか。関係企業の多くが同じフレームワークを使えば、データ連携もすぐできるし、同じ会話ができ、人材の出入りもスムーズ。アウトソーシングも楽々。こういったこと、中小企業の数の強みでなんとかビジネスになりませんかね。無理か!?

そもそも資本主義や競争社会を否定するような話になりますが、企業活動によってユーザーや国がどれだけ救われたかを表現できる指標がないものか、などといった思いにふけることがあります。

仮にその指標の単位を、ユーザーの満ち足りた気持ちを表して「満」としたとします。
例えば利益が5千万円のプロジェクトと1千万円のプロジェクトでは当然前者をやったほうがプロマネとして評価されます。しかし実は前者のプロジェクトはあまり納品先の企業成長には寄与できず、せいぜい経営者が自己満足で「100満」を得た程度だっとします。しかし後者のプロジェクトは、納品物によって顧客の業務効率が大きく上がり、事業がスムーズに行って利益が拡大した上、社員の給料が上がり、より税金を収め、地域経済を潤したとします。もたらされた価値は「1億満」です。つまり、後者のソリューションを提供した企業活動による社会的価値は前者より遥かに大きかったことになります。

こんな妄想は無理筋だとしても、それに近いことができるのが国の施策だと思います。補助金もそうですが、本当に意味のある使われ方をしているのか、受給者の申告を役所が評価するだけでは自己満足の世界です。それだけでなく、業績評価制度の「360度評価」のように、発注側から受注側を評価する、または発注側の業績推移を把握した上で、優秀なサポート企業には「認定DX支援事業者」のメダルでも与えて、次の案件獲得を優遇した上、支援金を給付したらどうでしょうか。そうすれば、もっとSIerは顧客の利益や幸福を尊重するようになり、自社の一時的な利益よりも本当に客のためになる案件を優先するようになるのではないか、と思います。

AiCTに話を戻して、まとめ

さて、また話が発散しましたが、まとめると、会津若松のAiCTは今のところ順調に良い方向に向かっているということです。

分野を問わず、スマートシティ事業のもとに志をひとつとした企業群が同じ建物に集まることで、企業間契約の垣根を超えたコミュニケーションも生まれていると聞きます。

今後は、ICT企業に限らず、社労士や行政書士、税理士、弁護士など法律・企業実務系含めたコンサルタント企業もAiCTに進出したら面白いと思います。産業医みたいに持ち回りで来るのでも良いのです。

通常、大きな企業であれば、そういった専門分野は本社機能が担います。とはいえ「会津地方独自の規制緩和を利用した実証実験にまつわる法律回りや契約面の注意点、訴訟対策」なんてものは、個別の企業が一から勉強するよりは、地元に専門家を育てて、まとめて安く面倒見たほうがよいものです。たいてい大企業のそういった部門は動きが遅くて、契約書1枚の書類審査に何週間も待たされたりします。相手やビジネスの事情の考慮もなく冷徹に自社が優位な文言のみ盛り込もうとします。それでは実証実験は回らないのではないでしょうか。もちろんAiCTには大企業だけでなくベンチャー企業もいますから、管理部門が手薄な彼らにとっては初歩的なところから面倒を見てもらえればありがたいでしょう。

それにより、国による数々の(わかりにくい)助成金の申請から、業務提携先との契約交渉、データマネジメントにかかる法令遵守、さらには新規サービスを立ち上げる場合の利用規約作成、そして従業員の労務管理対策まで、「商売のアイディアを持ってAiCTに行けば製品が売れるところまで仕上がる」なんていう状態にできたならば、どんどん新しいサービスが生まれる気がしています。

コロナ禍、地方創生、DX。AiCTの企業にはこの複合課題解決の最先端を走ってほしいものです。


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