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中小企業に「効く」人事制度刷新ストーリー

ひょんなことで、転職により中小企業の人事制度刷新を任され「プロジェクトひとり」となった私。
システム職の経験を活かして地方DXをしたかったはずが、頼りない数年の総務経験だけでDXならぬ「JX(人事トランスフォーメーション)」をすることに。Let it be の人生ここに極めり。


十月十日(とつきとおか)で為す母の偉大さよ


社長から告げられたターゲットスケジュールは、「10ヶ月後に運用開始」です。

後から気付いたわけですが、人事制度刷新というのは会社にも社員にも大きな影響があるものだから、簡単に変えられないものです。どの本を読んでも「社員教育・理解に3ヶ月」「試行運用最低半年」などと書いてあるわけです。いくら200人程度の企業であっても、その半分の期間でよいというものでもありません。

総務・人事経験が5年あったとはいえ、「人事制度をゼロから構築」などというミッションインポッシブルは未経験です。怖いもの知らずな私は、中規模なシステム案件くらいを想像し、

「設計4ヶ月、構築3ヶ月、運用準備3ヶ月・・・妊娠後に赤ちゃんが生まれるまでくらいの猶予があるなら、まぁなんとかなるか」

などと考えたものです。

無茶な理想を掲げることは悪くない。「中小企業」がアドバンテージになるとき

私はもともと人事のプロでもなんでもありません。これまで「こんな制度じゃだめだよな」と思うことはあっても、それを実現する側となると話は別です。
制度の不満は誰だって言える。そして、社員全員が満足する制度などありっこない。しかしつくるとすれば、下記は外したくないのです。
これは寄せ集めですが私のオリジナル理論だと自負します。

「失敗しない人事制度の大原則」

  • 過去の他社の失敗と同じ轍を踏まない、新しく確かな理論で構築されている

  • 倫理的にも正しく、価値観が時代にあっていて軸がブレずどこをとっても一貫性がある

  • 会社の経営理念、中期経営計画と矛盾しない

  • 年功序列で右肩上がりの賃金を抑制し、適切な労働分配率を維持できる

  • 運用が頓挫しない程度にわかりやすい

こう並べてみると、専門家でも裸足で逃げたくなる厳しさですが、これに次の条件が加わると、あら不思議、とたんに一筋の光が差します

  • 地方中小企業であり、これまでまともな制度がなかったせいで、社長も社員も、それを渇望していること

なにせ、人事制度に詳しい人もいなければ、コンサルを雇うほどの金もない(というよりいまいち外の人間を信用していない)、それでいて、後はお前に任せた!というわけなので、自由度が高い。
つまり自分次第。これはプレッシャーでもありながら、チャンスと捉えることもできるでしょう。いや、そうでないとやってられないとも言えます。

まずは巨人の肩に乗る

「人事制度」などというと魔境のような底知れぬ闇の深さを感じたものですが、結局のところ「システム」にほかなりません。
つまり構築済の各論がしっかりあるわけで、Pythonでライブラリをimportするように、「ありもの」で目的に合っているものはどんどん取り入れて組み合わせればよいのです。
ただしその前に、そもそも論があります。同じ喩えをするなら開発言語がPythonで良いのか?という問題です。ここを間違ったら大きな遠回り。

しかし、日本の人事制度の歴史と、今回ターゲットとする私の会社をみると、選択すべき方向性は、開発環境を選択するよりはるかに楽であることがわかってきます。

そのためには巨人の方に乗り、歴史の勉強です。私が手に取った本ので参考になったのは、まずは下記です。

著者はこの世界で大御所で、日本の人事制度歴史の伴走人と言って良い今野 浩一郎氏。そのため、著者の主張や感想も強め。それがまたリアリティがあって良いです。いかにも教科書チックに見える装丁のとおり、辞書的にも使え、プロジェクトの間ずっと参考にできます。

そしてもう一冊紹介するならば下記。

これこそ作者の主張から成っている本ではありますが、どれもけっこう納得できる。日本の古い制度がなぜだめか、そして、別の機会に詳述したい「ジョブ型」がなぜ日本で成り立たないか、が様々な視座から語られます。
ジェンダー問題もかなり熱く語られ、間違えても時代錯誤のマッチョな制度にならないように意識付けするためにも、これは読んでおく必要があると感じました。

経営者は、数字で動く

さて、人事制度の歴史を本でなぞったところで、だいたいは進むべき方向性が見えてくるのですが、歴史を語っただけでは、下記の大原則の①②をカバーしたに過ぎません。

「失敗しない人事制度の大原則」

①過去の他社の失敗と同じ轍を踏まない、新しく確かな理論で構築されている

②倫理的にも正しく、価値観が時代にあっていて軸がブレずどこをとっても一貫性がある

③会社の経営理念、中期経営計画と矛盾しない

④年功序列で右肩上がりの賃金を抑制し、適切な労働分配率を維持できる

⑤運用が頓挫しない程度にわかりやすい

そこで、社員の背中を押すのに必要なのが③、経営者の背中を押すのに必要となるのが④なのです。
特に④のためには会社の数年分の決算書を紐解いて、数学的に分析する必要があります。

人事課の皆さんは皆そんな面倒なことをやってるのでしょうか。
いや、やってないことも多いのではないでしょうか。
でも、経理も知るものなら、そしてそれが元SEの人間なら、分析したくてウズウズするはずです。

眼の前に数字が落ちていたら拾うのが経理。
拾った数字を加工して可視化したくなるのがシステム屋。

それを次回に書きます。

つづく


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