続:SEが転職するなら「経理」の理由。強固な地位でSE的美意識を発揮しよう。
当マガジンではここまで、SEの稀有なポテンシャルを言及し、「経理」に求められる素養を説明してきた上で、前回は業務的な性質の相違を挙げました。
なおも「SEの転職先としてなぜ経理を推奨するか?」について、今回の記事がその主な理由を述べる回となります。
頑として確立される「経理」ポジション。なぜ?
会社には、各々のカラーがあります。
・ワンマン社長の会社
・技術部が強い会社
・管理部が強い会社
・営業部が強い会社
しかしどのような会社であっても「経理部」の立場は、強大とまでは言わないものの「一定の地位を確実に確保している」状態です。
それはなぜでしょう。
理由1:「お金を管理している」から
単純には、「お金を管理しているから」というのも一点と思われます。
お金をもらうには、頭を下げなければいけない。それは誰でも持ち合わせている精神です。「金よこせよ」というカツアゲ精神を有した一部の反社会的勢力でもない限り。
別に経理部がお金を生み出しているわけでもなければ、もちろんお金の持ち主でもありません。
ただし、ある程度経営陣から「一定の経費支出の権限」を攘夷されているとすれば、「お金を出す」権限さえも持ち合わせます。
理由2:いわば会社の「法の番人」
支出したお金をどう処理するか。また、うまく処理するためにはどのようなエビデンスが必要になるかを提示できるのが経理です。
逆に言えば、お金に関して経理の言う通りにしなければ、会社のルール、ときには法のルールを逸脱することにさえなってしまい、社員個人としての責任も逃れられない。
それは、法律分野に疎い人間からすれば、「経理には逆らえない」という認識を生むには十分です。
必要とされるがゆえの安心感
以上のような理由から、経理担当は会社において一定の存在感を放っており、経理知識ゼロな社員から「いつもお世話になっています」「いつもありがとうございます」的眼差しが与えられることさえあります。
その「認められた立場」は、仮にSEから転職した立場とするのならば、自己の基盤を着実に形成するのにこの上なく望ましいものです。
なにせ、自分が努力して培ったSEとしてのキャリアをある種さっぱりと捨てて、違う分野の専門家になるとすれば、プライドも捨てないといけないし、新しいポジションで周りの人から認められるまで相当な苦労が想像されます。
しかし、経理業務自体は、SE持ち前の学習能力で2〜3ヶ月ほど自習し簿記3級程度の知識を身につけた上で、実務を通期(1年)通して経験すれば、一応一通りの「ツボ」は抑えることができます。(他の記事を読んでくださった方には蛇足ですが、あくまで「地方の中小企業」の経理を対象としていることをここでも補足します)
開き直って言えば、たとえば5年経理をやった人がいたとしても、決算業務の経験はたった5回です。
しかも1年に1回しかやらないから、忘れることも多い。
いや、むしろ年1回ならまだしも、5年に1回とか、初めて経験するような業務が毎年出てくることも珍しくありません。
日々の仕分け業務などは何も考えずできるようにならないといけないのですが、低頻度かつ難易度の高い業務をさらっとこなせるようになるにはもっと経験が必要で、そういったものは、都度「忘れたので調べ直します」と正直に言っても何らポンコツ認定されることもありません。
「ツボ」さえ真面目に真摯に抑えれば、転職間もないにもかかわらず、会社において自分の地盤を構築し、自己存在意義を肯定でき安心感を得ることは決して難しくないのです。
人間誰しも承認欲求があります。
有名なマズローの5段階欲求説の中でも承認欲求は上位2番目に属します。
マズローといってもスシローがまずいと言っている訳ではありません。わかりやすく納得できる仮説なので各々確認してみてください。
誰かに認められた存在でなければ、自分は誰にも必要とされていないという思いに苛まれ、後述のプラスアルファの活動もままならないです。
まずはしっかり勉強して経理として真摯に業務をこなし、認めてもらうこと。
そして勉強の難易度以上に強固な立場を得られるのが経理なのです。
立場を利用してもよい。美意識を羽ばたかせよ。
あなたが経理として一定の立場を得たとします。
実は経理としていっぱいいっぱい、あっぷあっぷ状態でも、その立場を十分に利用しましょう。虎の威を借る狐でよいのです。
そして、そこに次回からのテーマとなる「地方の中小企業」の条件も加われば、元SEとして別の期待もかけられることでしょう。
それは「ITスキルを業務に活かして会社を改善して欲しい」といった会社側からの願いです。
そんな期待を得た時こそ、願ったり叶ったりフェーズに入ります。
それに向かって進むことは、きっとあなたの自己実現にもつながるのです。
(上で触れたマズロー5段階欲求説の最上位が自己実現欲求です)
SEだから削れる、経理の仕事
経理はミスが許されない仕事であり、それゆえにチェック作業に多くの時間を費やすことに疑問を持ちません。
しかし元SEの目線で見れば、あまりに非効率、もっといえば時代錯誤にみえる業務が山積みです。
具体的な部分は、会社の規模や業種、使っているソフトや仕事のやり方などで千差万別なのですが、たとえば「仕入の請求書チェックと支払い」を挙げます。長いので結論を急ぎたい方は次のブロックは読み飛ばしてください。
何か原料や商品を購入したとして、その支払い業務があります。
月末締めなどでその請求書が毎月郵送されてきたら、まず中身をチェックします。
といっても請求書に記載された商品名や規格などが正しいかどうかは発注者の仕入れ担当者しかわからないので、まずは彼らがチェックをする。
チェックに問題なければ経理部にその請求書が回付される。
経理部では、システムに入力された仕入情報(仕入元帳)と整合性が取れているか確認し、問題なければ、支払期日までに送金処理をします。
ここまで読んで、普通にSE的な感覚を持ち合わせていれば、「それってすべて自動化できるんじゃ?」と思うでしょう。
まずは請求書が紙で送られてくるのがそもそも大きな過ち。
その紙を発行するのにも仕入先でシステム入力しているわけで、他社内の話にしてもいったんデータ化されているのに、なぜ紙でわざわざ送ってくるのかと。
しかもその紙を、自社のデータ(仕入伝票データ)と見比べて確認する。
データ→ 紙 →データ と一度紙媒体を挟むという行為は意味不明にしかみえません。
まるでテレビの映像を一定時間毎に紙に印刷してパラパラ漫画で楽しむような行為。いや、その例えだとなにか逆にツウで崇高な趣味とさえ感じるほど滑稽です
もちろん、請求データと仕入データのマッチング確認も、「データフォーマットが共通化されていれば」不要になります。
そして、支払いもそう。
請求書の金額を目で確認してまた銀行の送金システムにて入力するなどというのはミスしか生みません。
銀行に送金する処理も、銀行振込APIを使えば自動化できるに決まっています。
さて、そんな当たり前のことをなぜしないのか。
いや、やっている会社や業界もあるのです。
上記の「データフォーマットが共通化されていれば」というのがキーワードだったのですが、流通業界では流通BMIという仕組みで発注から納品、請求までの情報を全てデータでやりとりするための基盤が構築されています。
銀行口座への送金についても、フィンテック(fintech)サービスと呼ばれる銀行システムのAPIを持っているところもあります。
しかし、やらない。いや、やれないのです。
詳しくは「なぜ地方中小企業か」の説明にて詳述しますが、簡潔にいえば「現場にも上層部にもその意識がない」のと「メリットを感じていない」ためです。
しかしながら、そういった標準化された他社間データ連携を利用できなかったとしても、SEであれば別の手段をもって効率化するアイディアも持ち合わせられるはずです。
そのためには自社システムの使い勝手がどれほどのものかにも依るでしょう。
もしそれが閲覧性に乏しければ、せめて自社のデータシステムからエクスポートして、それをRDBとしてテーブル化しておき、一覧性・検索性を高めることでチェック作業を効率化するとか、毎月仕入先ごとに購入金額を集計して自動出力しておく処理をスケジュール化しておくとか、そういった「やれる工夫はする」でしょう。
これは一部の瑣末な例ですが、そんな効率化のネタは経理の日常業務に腐る程転がっているというのが悲しいかな実情です。
逆に言えばSEとしての経験を存分に発揮できるシーンが山ほど転がっています。
手始めとしては、自分の経理の仕事を効率化しましょう。
そうすれば、前任者に劣らない役割をこなしているのにも関わらず、あら不思議、自由な時間が生まれたじゃないですか。
経理の枠のみに留まって働くだけであれば、空いた時間にYoutubeを見たりまとめサイトを見てサボってもかまいませんが、それでは下がった給料は取り戻せないし、将来にAIに存在を脅かされながらSEとしての能力も日々劣化していくことになります。
その時間を次のことに使うのです。
おや、国もこっちを見ているようだ
国も、経理をはじめとする事務処理の非効率性を改善しなければいけないという意識はとっくに持ち合わせています。
それは補助金という形で明確に主張されています。
厚生労働省から「業務改善助成金」というズバリな政策を中小企業に対して提供しています。
導入例:
・ POSレジシステム導入による在庫管理の短縮
・ リフト付き特殊車両の導入による送迎時間の短縮
・ 顧客・在庫・帳票管理システムの導入による業務の効率化
・ 専門家による業務フロー見直しによる顧客回転率の向上
つまり、経理・労務・財務等のパッケージソフトを導入した中小企業もその対象となります。
もしそういったソリューションを提案したことのあるSEなら、誰よりよく知っているでしょう。
しかし問題は、そこまで優遇して中小企業の背中を押しても、補助金制度を活用したシステム導入を企業自身がイニシアチブを取って執り行うことが困難であるという事実です。
そのため、「特定事業者」として登録されたパッケージソフトの代理店たるSIerが
「今なら補助金もらえるんで導入しませんか?ただし設定費をいくらかいただきます。あ、それから保守も入らないとサポート受けられませんよ。」
と多額のコンサル料・設定費・保守費を要求する。
まるで「パソコンを使った自宅でもできる簡単なバイト」のような話です。
この辺りの事情も、SE経験がある人ならよく知っているでしょう。
本来の補助金の趣旨からすれば、補助金の甘い汁に群がるシステム屋を儲けさせる方向ばかりに作用するのはおかしい。
中小企業の業務効率を改善し、本来の業務に経営資源を投入してもらい、利益を上げてもらうことで、税金をより多く納めてくれたり、地方で雇用を増やしそれが若者の地方定着に繋がり地域経済が活性化したりなどの効果を期待しているはず。
それなのに、大手システム会社を肥やし、ますます企業間・地域間の格差を生んでどうする。
だからこそ、SIerに手を借りたとしても、せめて正当な費用で自社が一番恩恵を受けられるように、費用の妥当性と費用対効果を判断し、システム導入・移行及び運用を補助できる社内人材が必要とされるのです。
それができるのが「SE経験のある経理」にほかならないのです。
お国もその存在を渇望しているようにしか見えません。
今こそ美意識を持ち出すとき
SEが共通してもつ哲学、美意識とは何か考えます。
通常、「美意識」「仕事の哲学」などというと、所詮理想論だと一笑されます。
それを声を大にして言うなり、地に足がついていない上辺だけの「意識高い系」と同カテゴリの人間とみなされるかもしれません。
なぜ日本では自分の理想や夢を語ることが小っ恥ずかしいような、青臭いような雰囲気があるのでしょうか。
一連の当コラムで勧める転職ケースでは、その「美意識」こそ成功の鍵となるのです。
別記事でも書きましたが、SEや技術者をはじめとして工学系を進んできた人の多くは、そのままですが「エンジニアリング」、つまり技術を人間の生活に役立てることにモチベーションをおぼえると思います。
言い換えれば人と技術を結びつけるキュービッドとなることを目指しています。
そして、その技術で、強者をより強者にするのではなく、立場の弱い人・恵まれない人に多くの恩恵がもたらされるとしたら願っても無いこと。
しかも、それが今の日本に一番必要とされている。
東京一極集中で地方は疲弊。世界的大企業が国策的に優遇され中小企業との格差は拡大。
恵まれた人だけが最新技術の恩恵をふんだんに受け、よりリッチになる一方で、そうでない人はいつのまにか技術弱者となり、労働に見合わない対価で働き、強者に搾取される。
弱者に与えられる世間の声は「負け組」「自業自得」。
しかし、自分たちが経理に転身し力を発揮すれば、そんな問題を解決できる人材となれるかもしれない。
しかもこれほど今の日本とこれからの日本に必要とされる立場になれるチャンスもそう多くはないでしょう。
あなたが「SE的美意識」を羽ばたかせるのに場が不足することがありません。
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ここまでで、「なぜSEが」「なぜ経理になるのが良いのか」を説明したつもりです。等マガジンの主張を成すもう一つの鍵:「地方の中小企業」について次回から説明していきます。
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