地方移住時にケアが必要な人間関係とは
このマガジン「SEに疲れたら経理をやろう。地方の中小企業で。」も議論が大詰めに入ってきましたが、前回と今回は、
「地方で暮らすって、しんどくないの??」
という心配について記述しています。前回はその心配のナンバーワンを占めているであろう「お金の話」を書きました。
お金に次いで、地方暮らしがしんどいというイメージを持たせる要素、「人間関係」が今回のテーマです。
地方の「近所付き合い」はどれほどか
よく地方は人付き合いが面倒だとか、よそ者に冷たいだとか排他的だとか言われます。
確かにその一面もあります。自治会の集まりに出なければ村八分を食らうだとか、青年会に入って近所の葬儀は必ず手伝わなければいけないだとか、そういったしきたりがあるような田舎であれば、隣人の顔もわからないような暮らしをしてきた都会人にはストレスかもしれません。
実家に戻って親と同居する場合はそういう面倒もあるかもしれません。
しかし家族で引っ越してきた人は賃貸アパートだろうし、そうであれば東京も田舎の都市もあまり変わりません。(逆に言えば、知らぬ土地にいきなり家を買って住むのはリスクが高く、別次元の話です)
地元住民との密な関係をむしろ望んている人は肩透かしを食らうくらい、幸か不幸か地方も東京もあまり変わないのが現状です。
「人付き合い」を嫌がることに合理性はあるのか
そもそも、居住地域で括られた半強制的な集会があったとして、それを苦と思うのはなぜなのでしょうか。
「自分の時間が奪われる」「気が合わない人にからまれる」「仲良くもない人とつるむのがストレス」などの理由があるでしょう。これはよく理解できます。
しかし、ではあなたが「信頼がおける」「一緒にいて楽しい」と思っているような相手は今までどうやって見つけたのでしょうか。
今ならば「SNSで気の合う友達と知り合った」というケースが増えているでしょう。しかしこれまでの多くは、学校の同級生、近所の幼馴染、部活仲間、会社の同期・・・つまり、あなたが好きなことをやって見つけ出した相手でなく、偶然に、ときには否応なく帰属した集団の中にたまたま存在していた他人に過ぎません。
地方の付き合いの中でも相性の良い人間に出会うかもしれない。
たとえそれは欲してなくとも、慣れない生活の中で住みやすくなるための知識を与えてくれる人と親しくできるか否かでは差が大きいです。何も知らないよそ者には世話を焼きたくなるのが田舎の人の性質ですから、東京などにいる時よりもそういった人を見つけられるチャンスは多いかもしれません。
そうして偶然築かれた人間関係の中で、悲喜こもごも生活して行くのが人間本来の生活様式ではないでしょうか。
「人との繋がりの欠如は、酒やタバコなどに匹敵するほどの健康リスクがある」という調査結果もあるくらいですから。
逆にもっとあざとく捉えれば、その土地の人の性質を知ることは仕事にも役立つのです。
いきなり仕事で歳も価値観も離れまくった人と利害関係を結んで嫌な汗をかくくらいならば、近所の小さなコミュニティで地域に慣れておいた方がずっと楽です。もしうまくいかなくても、会社の同僚みたいに平日のほとんどを同じ空間で過ごしたりするような相手でもなければ、頭を下げて何か取引をしなければいけない相手でもありません。
そう考えると、どうせ避けられない「人付き合い」はむしろ積極的に介入して実を得るくらいの意気込みで臨んだほうが合理的といえるでしょう。
田舎で生きるためにおさえておかないといけない人たち
具体的に、越したときに配慮が必要な人たちの傾向と対策を、「さだまさし」ばりに述べたいと思います。
<会社の同僚、先輩>
都市部では、仕事の帰りがてらにあまりに簡単に飲みに行けてしまいます。
それを利用して何処かしこに顔を出す酒好きな人がいますが、普通はそうでなく、一緒する人は固定されるでしょう。その一方では、職場の忘年会であっても、常に欠席する人も少なくありません。
同じ会社の人間が仕事時間以外でわざわざ集まること自体の意味を感じにくいというか、その価値は低いような感覚があります。
だからなのか、会社の飲み会は来ないのに、異業種間パーティなどに有償でも参加することが「意識高い系」のアフターファイブの過ごし方だったりします。
地方の場合は、車社会なので、どうしても飲み会には参加しずらくなります。
家が離れていればタクシーや代行を使わなければいけないので金もかかるし、実家住みで家族の面倒を見ている人ならば、夜中まで飲むのも気がひけるでしょう。
そんなこともあり、そもそも飲み会の回数が都会で暮らすよりずっと減るため、一回あたりの金額が少し大きくなっても生活へ影響するほどではありません。
そして、なかなか参加できないからこそ、参加するからには楽しんでやろうという気持ちで臨む人が多い気がしています。
それは、会費相応の飲み食いはしてやろうといった単なる「がっつき系」もいれば、普段あまり話さない人と話そうとか、聞かないことを聞こうとか、言えないことを言おうとか、そういうワンテーマ持った参加意識さえ垣間見られます。
これは新参者にとっては非常に重要な情報源となるもので、皆がどういう気持ちで仕事をしていて、何を困っているのか、会社のどこが悪いのか、もっとどうなって欲しいのか、といった普段なかなか聞けない部分がみえてきます。
もちろん、前向きなことを熱く語る人もいれば、愚痴に終始する人もいますが、それはそれで個人の性質を知って普段仕事で絡む上で対策することができるわけです。
そういったことが、当マガジンで述べてきた「課題解決の担い手」という立場として「社員が本当に望むことをハズさない」活動へと繋がります。
言ってしまえば、とことん酒に付き合えば味方は何人もできます。そこで得た情報を仕事に活用すれば、酒好きだけでなく、酒嫌いな人でも味方にできるはずです。
こう言うと、飲めない人には役に立たずな情報な上、時代錯誤と思われるかもしれません。ましてや職場飲み会はセクハラやパラハラの温床ということも明らかになってきているのに。
しかし、コミュニケーション活性化だなんだとSlackなどをアイスブレイクのツールとして導入するくらいなら、定期的に飲み会したほうがやはり近道と感じざるを得ないのです。100歩譲って流行りのランチミーティングでも良いです。
チャットツールを仕事で使い出すと、会話履歴の保存だとか情報の再利用化だとかそれらしい理由をつけて、単に面と向かって話すのが嫌でチャットする人が絶対出てきます。そういう人に限ってチャットでだけは雄弁に語るくせに、重要な会議では発言しなかったりします。これではビジネスマンとして、いや、人間としてのその人自身の問題を助長しかねません。
脱線しかけましたが、恥を忍んで言います。
仕事はデジタルに。人間関係はアナログに。
<両親>
都会から地方に移住することに対し、反対する親もいるでしょう。
「安定した企業で働くことが幸せ」「そのために大学に出してやった」「せっかくの特権身分を捨てるとは何事」などと思っている団塊世代に新しい価値観を注入することは、猫にお手を教えるのと同じくらい困難です。反論できない側面もあるわけですしね。
それでも親の近くに移り住むのならば歓迎される可能性はありますが、それはそれで「近くに来たのに全然顔を出さない」などとなんでも自分の都合よくしか考えられない老化脳に困らされることもあります。
同居ならば親との接触は避けられませんが、そうでないなら、よほど理解のある親でない限りはあまり関係性を変えるのはよした方が良いと思います。
もし近くに移り住んだなら、緊急事態に駆けつけやすくなるわけだし、自分が本当にやりたいことをやるための決断であることを主張すれば、それ以上とやかくは言ないでしょう。
<配偶者、子ども>
もし結婚していてまだ子供も小さく、配偶者もフルで仕事をしているのであれば、地方移住は困難を極めます。
もし配偶者に理解があり、二人とも地方志向なのだとしたら、むしろ強力な味方なのですが、そうでない場合は厳しい。
まず配偶者については、単に仕事の問題だけならまだマシです。
夫が妻を説得するというケースで言えば、女性は周囲に自分のコミュニティを築いている場合が多いので、そこから引き剥がしてまた人間関係を一から構築させることは、男が思うよりずっと酷なことのようです。
特に主婦ならば、子供を媒介とした「ママ友」関係ができあがっていて、引っ越し先の慣れない地で、すでに出来上がっているグループに途中参入するのはきつい。
「公園デビュー」なんて言葉もあるとおり、女性どうしのコミュニティへの出入りの難しさがそこにあります。
妻の性格にも依りますが、夫の自己実現よりも友人関係を含む今の環境の維持が譲れないのならば、人生を分かつしかないかもしれません。それほど深刻な問題です。
もしなんとか許してもらえたなら、たまには以前の友達とも会えるよう旅行を計画するとか、転居先でも友人ができるようにいろいろな集まりに参加することを支援するなど、アフターフォローが必須になるでしょう。
これは男女逆でも同じ話で、男も地域に根付いた友人関係を持つ人も多いでしょうし、ましてや仕事に「自分の居場所」を確保していたとしたらなお問題です。もし妻の転居に合わせて夫が会社を変えなければいけないとすると、そのような男特有の「ポジション作り」を別の会社でイチから構築しなければいけません。
「定年後に人間関係を失うのは男」とよく言われるように、人間関係の再構築はあまり得意でない人は男が多いと思います。
なんだかこう書いていると、男の方がよほど精神的アフターフォローが必要な気がしてきますが、ケースとしてはレアなのでこれ以上掘り下げないておきます。
さて、子どもの場合ですが、当然年齢と性格の要素が大きいです。
小学校高学年以上になっていたなら、とっくに都会の生活に慣れ、友達もでき、今更田舎に移り住むのは嫌でしょうね。特に中学の途中から転校などとなるといじめの対象になるおそれもあります。性格的に誰とでも打ち解けられるならば問題ないかもしれませんが、決断するなら早いに越したことはないです。
ちなみに筆者の場合は、移住を決断した年に幼稚園を卒園する息子が一人いました。
性格が明るかったことと、友達が変わってもがんばると言ってくれたことが助かりました。できるだけ負担にならないようちょうど小学校入学から新しい環境に入れてあげたいと思い、タイミングを逃さぬべく卒園直後の3月に引っ越しました。
まだ職も決まらないうちに移住の時期を確定させたのです。それだけタイミングを重要視しました。
離れた場所で小学校の入学手続きをこなすのは妻にまかせきりで負担をかけてしまいましたが、なんとか春の新生活が始まる前に移住できたことは功を奏しました。
家族の負担をできるだけ軽減するためには、それぞれの置かれた環境と心情をできるだけ察した上で、ベストなタイミングで行うことが大事なのです。
まとめ
地方で暮らす上での心配事として聞く「人間関係」について書きましたが、たいしたこと書いていなーとお感じであれば、それが答えだと思います。たいしたことないのです。
というのも、結局は、自分がどういう心境にあるかによって他人の捉え方大きく変わるのです。
つまらない仕事だと思っていれば、同僚の人間性も輝いて見えないし、日々不満だらけだと、隣人が話しかけてきても「うるせー」ってなると思います。
もし地方移住やそこでの仕事によってかつてない充実感が得られるならば、人間関係に臆する必要はまったくないし、充実感に満ちた行動はだまっても周囲に良好な関係を築くでしょう。
気にすべきとすれば自分の家族であり、それを最優先にケアしておけば大丈夫、ということが今回言いたいわけです。
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