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【読書録】『GIVE & TAKE「与える人」こそ成功する時代』アダム・グラント

今日ご紹介するのは、『GIVE & TAKE「与える人」こそ成功する時代』。著者は、アダム・グラント氏。監訳は、楠木建氏。三笠書房(2014年)。原題は、『GIVE AND TAKE』(2012年)。24ヶ国語以上で翻訳された世界的大ベストセラーである。

著者のアダム・グラント氏は、ペンシルベニア大学ウォートン校教授で、組織心理学者。同大学史上最年少の終身教授だということだ。『フォーチュン』誌の「世界でもっとも優秀な40歳以下の教授40人」に選ばれるなど、受賞歴も多数。

また、監訳の楠木健氏は、一橋大学大学院国際企業戦略研究科(ICS)教授、経営学者であり、経営に関するご著書も多い。

この、ビジネスやリーダーシップのプロであるおふたりが、人と人との「ギブ・アンド・テイク」について綴っている名著だ。以下、印象に残ったポイントを挙げてみる。

3つのタイプ

まず、人と人との「ギブ・アンド・テイク」の関係において、どのくらい与え、どのくらい受け取るのが望ましいのかという観点から、「テイカー」「ギバー」「マッチャー」の3つのタイプを定義している(Part 1)。

ギバー(GIVER):人に惜しみなく与える人。
ギブ・アンド・テイクの関係を相手の利益になるようにもっていき、受け取る以上に与えようとする。他人を中心に考え、相手が何を求めているかに注意を払う。
テイカー(TAKER):真っ先に自分の利益を優先させる人。
常に、与えるより多くを受けとろうとする。ギブ・アンド・テイクの関係を自分の有利になるようにもっていき、相手の必要性よりも自分の利益を優先する。
マッチャー(MATCHER):損得のバランスを考える人。
与えることと受け取ることのバランスを取ろうとする。常に”公平”という観点にもとづいて行動する。

ギブ&テイクという言葉は誰でも知っているが、ギバーとテイカーだけではなく、「マッチャー」というタイプを取り入れたのが新鮮だった。

私の身の回りの人々について考えたとき、極端な「テイカー」は少数で、かなりの人が「マッチャー」に当たるのではないかと思う。日本の習慣である、お中元やお歳暮、お祝いの「お返しをする」という発想なども、マッチャーの発想に似ていると思う。

成功するギバーと失敗するギバー

ギバーには、成功するギバーと、失敗するギバーがいる。成功するのも、成功から最も遠い位置にいるのも、両方がギバーである。まさに両極端。なかなか興味深い現象だ。

ギバーは成功への階段の一番下だけではなく、一番上も占めているのだ。どの職種であれ、ギブ・アンド・テイクのやり方と成功の関連を調べてみれば、ギバーが「バカなお人好し」なだけではなく、「最高の勝利者」にもなれることがわかるだろう。(p32)

そして、成功するギバーと失敗するギバーの違いを、次のように分けて説明する。

成功するギバー=他者志向
失敗するギバー=自己犠牲的(p254)

ギバーが成功する、というのは、巷で、有識者からよく言われることだ。しかし、単なるお人よしである場合、利用され、搾取されて、割を食って損をするだけだったり、疲れ果ててボロボロになってしまったりする。実際に、そういう例もよく聞く。

では、成功するギバーになるため、「他者志向」になるには、どうすればよいのか、それが本書のPart 6以降に書かれている。

成功するギバーになるためには

以下、「他者志向」のギバーになるためのヒントやアドバイスの部分を抽出してみた。

「他者志向」になるということは、受け取るより多くを与えても、決して自分の利益は見失わず、それを指針に、「いつ、どこで、どのように、誰に与えるか」を決めること(p255)
他人のことだけでなく自分自身のことも思いやりながら、他者志向的に与えれば、心身の健康を犠牲にすることはなくなる。(p267)
他者志向のギバーは、自分自身の幸せを守ることの大切さを理解している。いまにも燃え尽きそうになると、他者志向のギバーは人に助けを求め、やる気や気力を維持するのに必要なアドバイスや、協力を仰ぐ。(p277)
多くのギバーを悩ませている三つの罠 - 信用しすぎること、相手に共感しすぎること、臆病になりすぎること(p294)
ギバーは、人は誰でも善人だと思う傾向があるので、他人はみんな信用できるという誤った思い込みにもとづいて行動する。(p296)
相手の心ではなく頭に注目することで、大いにギバーの有利になる(p306)
テイカーを相手にするときには、自衛のために、マッチャーになるのがいい。ただし、三回に一回はギバーに戻って、テイカーに名誉挽回のチャンスを与える。(p308)
ギバーは男女ともに、相手を喜ばす合意に達するためなら、自分の得になる選択肢がほかにあっても、かなりの譲歩もいとわないことがわかっている。(p313)
自分自身を、家族に代わって交渉する代理人だと考える(p318)
他者志向のギバーは、自分自身の利益だけでなく、相手の利益にも高い関心を示す。相手と自分の双方が得をするチャンスを探すことで、他者志向のギバーはより突っ込んだ考えができるので、テイカーや自己犠牲タイプのギバーが見落としがちなウィン・ウィンの解決策を見つけることができる。(p326)
「パイを大きくする」という考え方(p326)

自分の利益を犠牲にしないこと、そのためには使える助けは使う。相手がテイカーであれば、マッチャーのようにふるまってよい(これはきわめて実践的なアドバイスだ。)。ゼロサムゲームではなく、そもそものパイ自体を大きくして、Win-Winの関係を築く。そのように物事を見通し、戦略を立てる。

ギバーとして成功するための「他者志向」になるには、相手をテイカーと見抜く鋭い洞察力、状況に応じてうまく立ち回る成熟した人間力や対人関係能力、自分自身をうまく納得させる精神力、パイを広げるための戦略力、などが求められそうだ。

テイカーをギバーに変えられるか?

本書の最後のほうで、この根源的な問いかけがなされている。なかなか一筋縄ではいかなさそうだし、あっと驚くミラクルな解決方法が示されているわけでもないが、ヒントとなる考え方が示されている。

最初に人びとの行動を変えれば、信念もあとからついてくる(p371)
自分の選択によってくり返し人に与えていると、与えることを自分の個性の一部として内面化するようになる。(p371)
出世のためにボランティア組織に参加する場合でも、長くたずさわるほど、それだけ与える時間が増え、ますますボランティアの役割を自分の重要な一部と考えるようになるという。こうなれば、助けている相手と共通の意識がはぐくまれて、しだいにギバーになっていく。(p372)
テイカーが成功を、人を出し抜いて優れた成果を達成することだと考えるのに対し、マッチャーは成功を個人の業績と他人の業績を公正に釣り合わせることだと考える。一方、ギバーは成功を、他人にプラスの影響をもたらす個人的なものだと考える。(p381)
成功のイメージが「個人の業績+他人への貢献度」で成り立つとすれば、職場でもギバーになる人が増えるかもしれない。(p382)

テイカーはギバーに変わりうる、ということは朗報だ。

行動から変えれば、信念も後からついてくる、という。ということは、まずは形から入り、テイカーを上手に巻き込み、自らギブをするという経験ができるよう、仕組みを整えると良いのだろう。

テイカーをギバーに変えることができれば、自分の成功のみならず、チームの成功、組織の成功にどんどん好影響を及ぼすことができるだろう。そして、世の中にギバーが増えると、助け合いの好循環が生まれる社会になるだろう。そのためには、心ある人々がどんどん他者志向の成功するギバーになり、そのようなアプローチを伝染させていければよいと思った。

総じて、ビジネス書としてビジネスに役立つ一冊であるのはもちろん、人と人との関わりにおけるギブとテイクの在り方について、すべての人の参考になる本だと感じた。

ご参考になれば幸いです!

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サザヱ
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