「暗い翼」 - 谷川俊太郎
空が降下してくる
厚い幕のむこうに無数の星の気配がする
大きな法則が
泣いているのを僕は聞く
月は誹謗され
雲も話さない
空とそして土の匂い
われわれのすべての匂いだ
しかしわれわれは
果して自分の立場を知っているだろうか
空が醜くなってくる
樹や蛙は誰かを憎んでいるらしい
神々が人間に疲労して
機械に代りをさせているのを僕は聞く
時間はガラスの破片だ
そして
空間はもう失われた
今夜 僕は暗い翼をもつ
すべての本質的な問題について知るために
(「空の青さをみつめていると」谷川俊太郎詩集Ⅰ)
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