連載小説 「素地(そじ)」
序章
今から思えば、そう遠くはない未来のお話。
街を行き交う人々は銀色の全身タイツや透明のコートなどは着ていない。
ただ、皆、美男美女ばかりだ。
決して美男美女ばかりが集まる都会のハイセンスな場所だから、という訳ではない。
何処も彼処も、だ。
化粧や整形でもない。
そんなものはとっくに廃れている。
まして、好みの問題などでもない。
皆、均等に美形。優劣はない。
外見だけではない。
皆、優秀な遺伝子を持っている。
...遺伝子。
この話が出るなら、一つ説明しておかなければならないだろう。
この時代、人間(という表現ももはや陳腐だが)の生まれ方自体が違う。
『パーツ』で生まれてくるのだ。
『パーツ』はとても大事だが、それ以上に大切なのが『素地(そじ)』。
『素地』を生むのは大変な作業だ。
『素地』が悪ければ、せっかくの『パーツ』も台無しだ。
まあ、やり直しがきくから何度でもやり直せばいいが、それはあまりお勧めしない。
こんな経験はないだろうか?
例えば、絵を描いていて気に食わない部分を何度も消して描き直したり、
色をどんどん重ねていって余計に酷い出来になってしまった事。
少しの訂正ならいいが、しつこく繰り返すと何をしているのか分からなくなってしまう。
そんな事が遺伝子にも出来てしまう、そんな時代の日常をご紹介していく。
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