時空を越えた調味料
〈2017 秋 冷蔵庫内にて〉
「私たち、もうずっとこのままなのかしら」
「やっと扉、開けたと思ったら、お茶か酒しか出さないし」
「前はあんなに!楽しそうに料理していたのに」
「ブツブツ言ってたわね、1人分作った所で、とか」
「何、食べてるのかしら…」
「栄養、取れてるのかしら…」
マミちゃんは今日も
しばらく使っていない調味料達に
身も心も、心配されている。
「マミの事はもちろん心配だけどさ!
俺たち、このままだと確実に
使われる事なく、賞味期限が切れて捨てられてしまうぞ!」
もう限界だ、と酢が叫んだ。
「前は楽しそうに料理していたのにね…
ずっとこのままでいるつもりなのかしら…」
酢の賞味期限を見て、まだ大丈夫だから、と酢を醤油がなだめた。
「僕、このまま使われないで一生を終えるの、嫌だなぁ」と小瓶のオイスターソースが。
「マミは一体いつまで何も作らない気だ!
しっかりしろ!!」
と、また酢が叫ぶ。この冷蔵庫では酢の気性が少し荒い。酢はマミちゃんのお気に入りだったから、使われないショックも尚更大きいのだ。
イライラしている酢に我慢ができなくなったマヨネーズが
「私達が冷蔵庫の中で騒いだってしょうがないじゃない!!」
と言った時、
マヨネーズの隣にいたケチャップが
何かを思いついたようにボソッと言った。
「このままずっとここにいても仕方ないし、
マミちゃんの未来も心配だから
思い切ってみんなで未来に行ってみないか?」
「「「「「 未来?? 」」」」」
「ほら、ずっと受け継がれている、アレだよ、
言い伝えがあるじゃないか!」
…それは、普段は騒がしい調味料達が、3日間誰も喋らず、冷蔵庫の電子音に耳を傾け続け、さらに未来に向けて念を飛ばし続けると、全員未来にワープするという、マミちゃんの冷蔵庫内で代々受け継がれているおかしな言い伝えの事である。
言い伝わってはいるが、
結果は誰にもわからない。
〈2020 5月〉
…今日は今年初めての夏日です。
皆さん熱中症にはくれぐれもお気をつけて…
リビングのテレビから音がする。
「ちょっとマミー?大丈夫ー??」
マミちゃんは誰かと電話をしていた。
「ゔー…気持ち悪い。閉め切って寝たせいだ。
昨日は寒かったんだもん。朝起きたらサウナみたいで…」
「マミん家ポカリとか無いよね?
無いなら作りな!経口補水液!」
けいこうほすいえき??
なんだそれは… とりあえず調べて作るよと言い、姉からの電話を切った。
…しまった。
作ると言ったものの、うち調味料ないんだった。と、フラフラしながら台所に行くと。
「あれ?」
冷蔵庫の上に砂糖と塩がケースに入っておいてある。冷蔵庫を開けると…
「ん?あれ??なんで??!!
…まぁいいや。早く飲んで寝よう。
経口補水液はー 砂糖と塩と…レモン?
レモンは無いからお酢でいいや
500ミリの水に入れてと…
うゔ〜気持ち悪いよ…」
必要な物を取り出し、使ったら元に戻し、扉を閉めた。
…ザワザワ
「成功したのね!」
冷蔵庫内がザワザワしている。
「マミちゃん相変わらずだったね。」
「久しぶりに顔を見たわね、相変わらずね」
「それに見て!
冷蔵庫の中、私達以外何も入ってないわよ!」
「あれは多分今でも独り身だな…」
「オリンピックまでには家族が欲しいと言っていたのに…叶わなかったのかしら…」
「「「 でも 」」」
「経口補水液、作ったわね、あの子!
私達来た甲斐あったじゃない!!」
「そうね!ちょっと、嬉しいわね…」
「かなりよ、かなり嬉しいわよ!!」
「役に立てて、嬉しいわね…」
〈ある日〉
電話が鳴る。
「もしもし?お姉ちゃん??
今?オムライス作ってるよ。
それがさ、ある日突然、
冷蔵庫の中に全部微妙に賞味期限が過ぎてる調味料が現れてさ!!
大丈夫だって!
色とか匂いとかは普通と変わりなかったから!
最近天気悪くて出かけられないしさ、
せっかくだから前みたいに料理しようと思ってさ!
前に彼氏に料理下手って言われて、
心折れて作らなくなっちゃってたんだけど、
今時間が出来て、自分の為に料理しようと思ったんだよね」
作るのも食べるのも好きだもんねーと楽しそうに電話をしながら卵を溶くマミちゃん。
「とりあえずは、賞味期限切れのこの子達、早く使い切らなきゃね。
だから、賞味期限切れのね、調味料が!
ある日時空を越えてやってきたんだってば!
違うって!!
ずっと放置してないって!!
ある日突然ね…」
おしまい
#貴方のお家の物はみんな貴方の味方
#1人じゃないよ
#自炊をしよう
#stayhome
#ノンフィクション
#小説 #物語 #短編
#キナリ杯
読んでくださって
ありがとうございましたm(_ _)m
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