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今夜は温かいポタージュを

Christmas Story Day10

メリークリスマス!

サンタクロースは無事に我が家にもやってきた。NORADの追跡記録によれば、我が家には深夜02:58に到着して、76,895,523,482番目に配達終了したらしい。

ベランダの洗濯ポールの位置をずらして、サンタクロースの着地点を確保しておいたし、念のため、玄関もきれいにしておいた。どちらからでもアクセスできるように。

ツリーの下に置いておいたミルクとジンジャークッキーもなくなっていた。おそらく02:58くらいだった、気圧の急激な低下を感じた。サンタが高速で移動するため抵抗の少ないエアーパッセージが開通したらしい。昨夜、何度か起こった原因不明のインターネット接続トラブルも、寝ていたわたしの夢が断線したのも、そのせいだ。
おかげで、朝起きた時もまだ寝足りなく、まだ夢の中なのか、分からなくなってしまった


わたしより先に起きていたはずの息子は、二度寝しながら、リボンのかかったままのプレゼントを抱きしめていた。クリスマスの朝といっても学校がある。今日が冬休み前の最終登校日。

息子はバタバタと包みを開けて、欲しかったVOLCOMのパーカーを見つけて小躍りしたのも束の間、慌ただしくグラノーラをかき込んで、遅刻ぎりぎりのくせして、どうしても決まらない髪型を何とか整えようと鏡の前で苦戦している。いかにも14歳らしく。

わたしも夢うつつのまま、昨夜のクリスマスディナーの残りを息子の弁当箱に詰めて息子に渡し、何とか髪型を決めた息子は学校に出て行った。

さぁ、今度こそ、わたしの朝ごはんタイム。
グレープフルーツをむいて、グラノーラにはナッツを配合してヨーグルトをかける。お気に入りのコーヒーを丁寧に淹れる。コーヒーの香りが部屋に満たされ、Spotifyではまだクリスマスソングがリストされていて、マライア・キャリーはまだ歌い続けていた。All I want for Christmas is you.

マライアのメロディに重なるジャスティン,ビーバーのデュエットに、わたしの鼻唄が重なった。わたしがクリスマスに欲しいのは、あなた……。

朝食も食べ終わり、食器を片付けていると、ふと、宅配便がチャイムを鳴らす。Amazonからだ。
なんだろう、ここ最近はAmazonには何も頼んだ覚えがない。
重たいですよ、とドライバーから荷物を渡された。ぐっと持ち重りのするパッキンを両手で受け取り、サインした。

開けてみると、ギフトボックスが入っていた。
バッグでも入りそうな大きさだ。

え?
エルメス?

一瞬、目を疑ったが、そんなはずはない。
オレンジの箱に茶のリボンが、そう見えてしまっただけだ。

箱を手に取ってみると、やはり持ち重りがする。
これはバッグなんかではない。重たい石でも入っているのかしら……

朝食を片付け終わったテーブルに乗せて、リボンをほどき、蓋を開けてみる。薄紙をかさかさと剥がしていくと、中からガラスのポットの部分が見えてきた。

うわぁ!
フードプロセッサーだ。

スイッチとダイヤルだけのシンプルな作り、でも頑丈でグッドデザインで、使いやすそうなフードプロセッサーだ。
野菜や肉をチョップしたり、ディップにしたり、さらにクリーミーなポタージュにもできそう。

マニュアルが入っていない。いったいどこのメーカーかと台座のロゴを見てみると……

NORTH POLE と刻印されている。

NORTH POLE?

え?

リックだ。

NORTH POLE とかいう会社のデザイン部門にヘッドハンティングされたとか言っていたっけ。

その時、やたら派手やかなベルの着信音と共に、iPhone にメールが届いた。アニメーションGIFが添付されている。

開封してみると、ジングルベルに合わせて陽気に踊る可愛らしいサンタクロースと助手のエルフが。

小さなサンタクロースが、HO HO HO とお腹を抱えて笑い、さらに小さなエルフが、クックと、おかしくってたまらないといったように、いたずらっぽく笑いながら、iPhone の画面からわたしに語りかけてきた。



Hi Sayuri
Merry Christmas and a Happy new year!

グリーンのコートを着た小人のエルフが、右手の2本指で大げさに敬礼してきた。

まるでグリーンのコートを着た小柄なリックのように。

地球のように深い碧の瞳。
その瞳はわたしの望みを全てお見通し。


サンタクロースではない、エルフだ、小人のエルフ。
リックはエルフだったのだ。

CEOのアシスタントとか言っていたのは、つまりサンタクロースの助手ということだ。
NORTH POLE は、つまり北極ということ?

とにかく、このフードプロセッサーはリックが贈ってくれたのだ。

何だかまだ夢の続きのようだし、目が醒めたような気もした。

わたしはここにいる。
ここ、雪の降る街で暮らしている。
今はまだ、やることがたくさんありすぎるから、もう少しだけこの街で、雪も楽しまなくっちゃ。
次の日曜には、真新しいVOLCOMのパーカーを着た息子は得意になって滑りに行きたがるだろう。

今を楽しめ、ってことね。

美しい形のフードプロセッサーに見とれながら、食品庫にジャガイモが残っていたことを思い出した。茹でて滑らかにすり潰そう。今夜のメニューが決まった。息子のために温かいポタージュを作ってあげよう。

I hope you have a Merry Christmas!

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