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せかいにふたりだけ

ふにゃあ、ふにゃあという息子の声で目が覚める。

時刻は深夜3時すぎ。スマホで育児記録アプリ「ぴよログ」を立ち上げると、授乳の時間がとうに過ぎていることに気づいた。

素早くベッドから這い上がり、キッチンの電気をつけ、哺乳瓶にミルクのキューブを入れていく。静かなキッチンにコロン、コロンと音を立てるキューブの音色が響きわたる。

給湯ポットのスイッチを押し、140mlの目盛りに合わせてお湯を注いでいく。はずみで指にお湯が跳ねた。思わずあちっと声が出る。

息子の声が少しずつ大きくなってきた。最近でこそ泣き声にも慣れてきて「ちょっと待って〜」と余裕を持つことができるようになったが、最初の頃は焦りでいっぱいだった。

息子が生まれてもうすぐ3ヶ月。生活リズムが少しずつ整い始め、ほんの少しだけわたしの心にも余裕が生まれてきた。新生児の頃はあんなにも毎日慌てふためいていたのに。

作りたてのミルクを少し冷やし、片腕に抱いた息子の口に近づける。彼は口を開け、必死に哺乳瓶に食らいつく。その必死な姿は混じりっけのない「生」への欲望だった。お腹が空いたけど後でいいや、はない。赤子は常に「今」を生きているのだ。

キッチンのダウンライトに照らされる息子のフサフサな髪、夫にそっくりなぷっくりとした唇、わたしにそっくりな形の眉毛。

私と夫、ひいては先祖から伝わるさまざまな遺伝子情報をミックスさせた息子は、今この瞬間にも体内で細胞を分裂させて、どんどん成長し続けている。

こんな小さい息子が、大きくなる日が来るなんて。

まだ自分では寝ることも食べることもできないのに、いつか人生を切り開いていくなんて。

今はまったく想像することができないけれど、きっとあっという間に来るのだろう。その日が来たら、私は泣いてしまうかもしれない。

静かな夜が横たわり、刻々と時計の針だけがすぎていく。

腕の中におさまる我が子を見つめながら、まるで世界に私と息子二人だけしかいないような不思議な気持ちになった。

スースーという彼の小さな寝息が静寂さの中に響き渡る。

死ぬ直前に思い出す記憶を選べるとしたら、きっとこの夜を選ぶだろう。

眠くてつらくて幸福だった夜を。
赤ちゃんだった息子と過ごした、世界に二人きりの夜を。


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