「母がスノ担になっていました」
事後報告だった。
次女からそんなメッセージが入っていたのはかれこれ半年ほど前の出来事である。
彼女とのやりとりは基本的に無機質な文体で繰り広げられているのだが、この連絡もまた至ってシンプルな、必要最低限の情報だけが記載されていた。
「母がしっかりめのオタクになっていました。」
このメッセージをもらう前、オタクが最後に母と会ったのは去年の秋だか冬のはじめだったのだが、当時すでに母親も目黒蓮さんの顔面の強さと脚の長さは認識していた。
オタクがここ最近佐久間大介さんという天才アイドルに出会ってしまったという話を延々と力説する傍ら、
「いや〜脚が長くて顔がいいよね、目黒の。」(原文ママ)
などとこぼしていた。オタクの子はオタク。オタクの親はオタクである。基本的に人の話は聞いていない。
テレビでYouTubeが視聴できる環境になり、操作に慣れたいという話をしていたので、どさくさに紛れて試しに一緒に「食べたいものを当てろシリーズ」を見てみることにした。目黒蓮さんの顔がいいよね、と言っていたのでもちろん目黒蓮さん回から見た。
母は結構なテレビっ子気質なのでこのシリーズを大層気に入った様子だった。前後編見た母はすっかりニコニコになり、「これタダなの?!」と驚いていた。
わかる、わかるよ。気持ちすごいわかる。そもそも楽しいコンテンツに対して対価の支払いを気にする辺りが親子だな……という気持ちになった。
他にはないの?と聞かれたので、見やすくて母が好きそうなのは人狼かなと思い再生した。
これはいつだか別のnoteにも書いたのだが、とにかくオタクもこの時期佐久間大介さんにハマり始めのとんでもない時期だったので(それは今も)、「この子がさっきから私が永遠に話してる佐久間大介さんだよ!!!ほら!!!!世界一かわいいでしょ!!!!!!!」と語気強めに訴えかけてしまった。ただ先ほど同様、まあ聞いていないだろうと思っていた。
しかしながら「この子近くで見るとすっっっっごいかわいい顔してるね!!女の子みたい!!!!」と同じくらいのクソデカボイスが返ってきた。母である。
でしょーーーーーーー!!!!!!!!!
わかっとる。母は、わかっとるのである。
6人時代の人狼もおもしろいしここがオリジンだよ、とそのとき伝えはしたのだが、
「う〜ん、、目黒(敬称略)が出てないならいいや」
とのことだったので9人になってからはこの他に2本人狼回があることを伝えた。なぜ伝えただけかというと、オタクは外出しなければならなかったからである。念のため、食べたいものシリーズも他のメンバーの回があるからリンクとかいじってみてね〜と残して家を出た。
しばらくして帰宅すると、YouTubeを見ていた母親が振り返った。まだ見ていたのか?いやまあYouTube見る以外にもやらなければならないこと、やりたいことはたくさんあるだろうし、さっきテレビの前に戻ってきたのかもしれない。
オタク「ただいま」
母「………全部見ちゃった。」
オタク「……………。」
母「……………。」
せいぜい不在にしていたのは2、3時間なのだが、その間に食べたいものシリーズと人狼をほぼほぼ全部見てしまっていたのである。
とは言っても流石に母もインターネットにそれほど強くはないので見尽くせていなかった動画もあり、せっかくなので再び一緒に見ることにした。
そして一緒に見ながら、オタクは驚きのあまり度々母の方を二度見してしまった。度々の二度見。
全員の名前をほぼほぼ覚えているのである。
さっきまで"目黒"(敬称略)と強いていうなら佐久間大介さんと阿部亮平さん(阿部亮平さんは次女が好きなのであべちゃんとして認識している)はギリわかる、だった母が、フルネームとはいかずとも誰が舘様で誰が康二くんなのかとかそういうことを理解しているのである。
なに?2ヶ月くらいタイムリープしたか?
その次の日はわたしが見ることができていなかったそれスノを一緒に見た。
アンケート回だったのだが、(有料配信なので細かい話は割愛)アンケートの回答者さんが佐久間大介さんについて「たくさん話を聞いてくれそう」とコメントしているのを聞いて、オタクは大きく頷いてしまった、と思ったら横でもっと大きく頷いている人がいた。母である。
そしてちょっと泣きそうな目でオタクの方を見てきた。(あんた、、、いい子を選んだね、、、)みたいな目で見るのをやめてもろて。ちなみにオタクは相葉雅紀さんのことも好きなのだが母は相葉雅紀さんに関しても息子を見守るかのような目でテレビを見ている。いろいろとごめん、お母さん……。いや、佐久間大介さんも相葉雅紀さんもちゃめちゃにいい子ではあるが……。(子……?)
Snow Manさんの兄組はオタクとほぼ同い年なので、まあ母から見たらまさに"子"か……。
も〜舘様最高〜!とかもその時点ですでに連発しており、これはハマりそう……。そんな予感がしていた。
1ヶ月ほどして、次女と連絡をとった。
オタク「先日帰った時、母がだいぶSnow Manさんにハマりそうな感じだったのですがその後いかが?」
次女「んー、YouTubeは一緒に見てくれるけどそんなでもないかな、普通」
そうか。ちょっと意外だった。手応えはあったんだけどな。
手応えとはなんだ手応えとは。
母は上述した通りかなりのテレビっ子なので、なんならオタクよりポップカルチャーに詳しいし、自分でも言っているが(いい意味で)ミーハーである。
最近テレビによく出ているタレントさんのことはあらかた知っている上で、ケンティー(中島健人さん)と岩ちゃん(岩田剛典さん)が推しの母。それに独身時代はオタクの頂点こと(これは個人の主観です、オタクを極めると最終的に流れつくのは宝塚なんだろうなと勝手に思っている)ゴリゴリのヅカオタだったので、ビジュアルに対しての評価がまあそれはそれは厳しい。最近の女優さんでかわいいと思うのは新垣結衣さん、長澤まさみさん、白石麻衣さん、浜辺美波さんらしい。ピラミッドの頂点というかまさにその点、一点だけやないかい、というくらい厳しい。攻撃的な発言はもちろんしないものの内に抱えている基準がメチャクチャ厳しいのでタレントとして好きだとしても「推し」として好きになるまでのハードルは高いのだ。
まあもともとしっかりめに推しがいるし岩田剛典さんに関してはオタクはまじで教養がないのでわからないがたくさんテレビに出ているのは知っているし、それにケンティーが好きだったらSnow Manさんにハマる余裕がないのも無理はない。
好きなときに好きなものを好きでいることがオタクにとっての最重要項目だと思っているので、母にも好きなときに好きな人を好きでいてほしい。しばらく会う予定もないがまた帰ったときに一緒にそれスノ見るか。それくらいの気持ちでいた。
それからの1ヶ月の間に母に何があったのかは、次女にも、もちろんオタクにもわからない。強めに頭を打ったのか?何もわからない。
「久しぶりに実家に帰りましたが、母がしっかりめのSnow Manのオタクになっていました。」
冒頭の次女からのメッセージは、正確にはこうだった。
オタク姉妹はただその事実を受け入れるしかなかった。
誕生日のメッセージが絶対に欲しいからFCに入りたいと相談を受けたらしい。何はともあれうれしいことである。メッセージが欲しいだけみたいなので母の分の会費を折半してくれないか、という相談だった。
が翌日、
次女「自分で払わなきゃ意味がないと言っているのでやっぱり昨日の会費の件大丈夫です」
オタク「はい」
はい。
こんなもんでは終わらなかった。
ここから、母が本領を発揮し始める。
オタク「やっぱり目黒蓮さん推しか?」
次女「そこなんだよな。なんと目黒(敬称略)ではありません」
オ「エッ?!」
次「これおもしろいからクイズね。誰担でしょう。箱推しとかではない」
オ「あ!向井康二さんでしょ」
次「はずれ」
オ「渡辺翔太さん」
次「違う」
オ「佐久間大介さん?!」
次「ぶ」
オ「怖い。宮舘涼太さん」
次「違いますね〜」
オ「阿部亮平さんは違いそうだしな……え普通にラウちゃんか?(普通にとは)」
次「楽しいね」
オ「岩本…照…さん?」
次「残念でした〜」
オ「エッ、嫌だ、怖い。……だってあと1人の名前は……そんなことあったらそれは即ち""すべて""をわかってしまっているということだから避けてたし言いたくなかったんd」
次女「正解は、深澤辰哉さんです。」
その言葉がポンと画面に現れた瞬間、オタクは言葉を失いただ暗く狭い部屋で体を震わせるしかなかった。
今になってみると、驚くことでもないのかもしれない。なぜなら嵐の中では大野智さん推しだったのだから。
母は、「アイドル」という概念について、すべてを理解する能力に異常に長けているのである。そしておそらくそれは無意識のうちに……。これが才能か。ドルオタとしての才能……。
深澤辰哉さん推しになった理由を次女に尋ねると彼女は(画面の向こう側でおそらく)高らかに笑った。
次女「姉、びっくりするよたぶん」
オタク「もうすでにびっくりしているのでいまさr」
次女「これです」
嘘でしょ…………………………
確信した。
母は本能的に、すべてを理解(わか)っている。
もちろん、彼らの歴史とかこれまでの作品とか、知識としては(これはドドドドド新規であるオタク自身もそうだが)まだまだわからないこと、知らないことは多いかもしれない。
それでも、どんなアイドルにせよ""アイドル""という概念に惹かれる上で言語化できないアレを、コアとなるアレを、可視化も言語化も不可能な「アレ」のすべてを、母は本能的に察知している。そう確信した。
次女「YouTube、6人のも含めて全部見てるしなんならなかなかの回数見てると踏んでいる」
オタク「そうなんだ」
次女「誰がどの回で何という発言をした、みたいなことをごく自然なテンションで覚えている」
怖い。
ちなみに母がJr.チャンネルから今までの含めて一番好きなのは(上記の振り付け講座の他に)ここらしい。
この動画、というかこの動画のここ、らしい。
深「みんなは…運転手さんは除きますね」
佐「照って言えよ」
もうね、わっかんないよ。こわいよ。でも本能的にすべてを理解している母が一番好きっていうんだからすべてが詰まっているんだろうな。ここに。
オタクは母のことがとても好きで、永遠に敵わない存在だとこれまでもずっと思っていた。もちろん違う人間なので、私の考え方を理解してもらえないこともあるし、私自身が母に対して「ハァ〜?😒」と思うこともなくはない。でもそんなことは誰に対してもそうだから気にならない。トータルでみてオタクやっぱり母のいつでも柔軟で前向きな考え方が好きだし、楽しいことを大事にするところや、明るくて元気な性格も見習わなければなと思っている。母は偉大だし、人間として敵わない。ずっと目標だと思う。
そしてこの度、人間としてだけではなくオタクとしても永遠に敵わないなこの人には………という気持ちになった。
そんなわけで、無事親子3人FC会員になった。先日入会を済ませたらしい。
比較的フットワークが軽い(そんなところも今考えてみると脈々と受け継がれるオタクDNAだったのかもしれない…)母なので、ライブに絶対に行きたいらしい。
オタクは内向型なのでジャニ用語がわからないのですが、次女が力強く「おっしゃこうなったら連番でぜってえ入るぞ!!!!!」と言っていたので、連番で入れるようにオタク自身も明るく元気に過ごしてきたるべき日に向けて徳を積んでいきたいと思う。
自分が佐久間大介さんのオタクになってしまったときの記録noteより長文になってしまったような気がする。ずっと書きたかったので書けてよかった。
上に「強めに頭を打ったのかもしれない」と書いたけれどもシンプルに沼に足取られたんだろうな。字面だけ見るとかわいそうにと言いたいところだが全然かわいそうではない。最高にハッピーだからである。
思い返してみれば私もGrandeurの佐久間大介さんの太もも力説していたときに次女から「マジでいつからそんなになったんですか?怖いんですが」と怯えられていたんだった。
オタクの子はオタク、オタクの親はオタクである。
お母さんへ このnoteは絶対に読まないでください。
おしまい