コロナ禍とエンタメ

記憶の中では、コロナ禍の始まりは高校2年後期、期末テスト直後の休校期間となっている。

テレビから聞こえてくる「新型コロナウイルス」という新しい単語に、兄と「一日に何回耳にするか、表につけていったら面白そうだね」なんて話をしたのを覚えている。あの頃は自分たちを取り巻く環境が、こんなにも変えられてしまうなど妄想の中の絵空事でしかなかった。それが気がつく間も無く現実となっていった。

休校期間中は退屈でしかなかった。家の中という閉塞した空間では、刺激となる物事はたかだか1週間で尽きた。だから、エンタメを求めた。
まだ聴いたことが無い、知らないバンドを漁った。気に入った曲はプレイリストに入れた。
NUMBER GIRLの無観客配信ライブ、音楽番組出演を齧り付くように観た。画面越しに向井秀徳と乾杯したり、向井秀徳に撃たれたりした。

高3になった。休校期間が終わっても、数ヶ月前に日常だったそれとは程遠い生活を、日常と強いられる日々が続いた。春の終わり頃には、部活の最後の大会が中止、3年生は引退となり、周りの友達は受験モードに切り替え始めた。1年冬に部活を辞めていた私は、どうも受験生への切り替えができず、焦燥感と面倒臭さの狭間で喘ぎながら、やはりエンタメに手を伸ばした。
霜降り明星のオールナイトニッポン0、せいや2時間ポケひみ回を聴いた。リアタイはできなかったから、次の日の朝イチで聴いた。アフタートークは映像付きで、揃いの漫才衣装だとわかったときは胸が熱くなった。
BiSHがベストアルバムを発売した。その収益は全額ライブハウスに寄付するというものだった。購入して幾分かの貢献感に浸った。

切り替えて受験生になってからも、受験生を卒業してからも、エンタメは心の拠り所だった。
蛙亭のオールナイトニッポンi(現 オールナイトニッポンPODCAST 蛙亭のトノサマラジオ)の配信がスタートし、講習の帰りに聴きながら歩いた。送ったネタメールが初めて読まれたりもした。
大学に入学してからもコロナ禍の世界で、授業はオンラインばかりだった。話しかけられ待ちにブーストがかかり、友達は文字通り1人もできなかった。一人暮らしを始めていたので、一日なにも声を発さない日すらあった。そんな孤独の中でも、寂しくはなかった。決して強がりとかではなく、エンタメがあったから寂しくなかった。
しもふりチューブはただの1日も途切れることなく、毎日更新された。毎日夜ご飯を食べながら何回も笑った。
イヤホンを挿せば、いつもの音が変わらずそこで鳴っていた。
好きなラジオ番組の多くは毎週生放送だった。家事をしながら、学校の行き帰りに歩きながらタイムフリーで聴いた。独りで笑ってしまうのをマスクが隠した。

コロナ禍の初めの頃は「エンタメは娯楽、二の次だ」なんて意見を耳にすることもあった。しかし、少なくとも私にとっては、エンタメがあの頃の、現在の、血となり肉となっている。それほど私の心の拠り所だった。
2023年も5月になり、コロナ禍でかけられていた制限が徐々に解除されてきている。エンタメ業界も形を変えながらではあるが、また嬉しい盛り上がりを見せている。
「コロナ禍で苦しかったエンタメ業界を今度は後押しする番だ」など大それたことを言えるわけではない。
私の想いは、どんなことがあってもエンタメを無下にしてはいけない、ということだ。
これからも様々なエンタメを知り、享受し、また離れることだってあるだろう。ただ、その時に摂取したエンタメが、今日の自分を構成する要素となっていることは確かなのだ。


この文章は、「#いまコロナ禍の大学生は語る」企画に参加しています。

この企画は、2020年4月から2023年3月の間に大学生生活を経験した人びとが、「私にとっての『コロナ時代』と『大学生時代』」というテーマで自由に文章を書くものです。

企画詳細はこちら:#いまコロナ禍の大学生は語る|青木門斗|note

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また、これらの文章をもとにしたオンラインイベントも5月21日(日)に開催予定です。

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