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惚れた側の無力さ
今月もお金を使いすぎた。
税金を前倒しで払ったせいで、
財布はカツカツだ。
厳しい冬になりそうだなぁ。
だから、生きるために
節制しなければならない。
「働かなきゃ」
先行きが不安だ。
お金が足りないと思うと
つい婚活アプリを開いてしまう。
でも、誰かからお金だけもらう関係なんて
無理だと思う。
私も嫌になるだろうし
相手もそれでは気の毒だ。
結局は自分で働くのが一番だ。
LINEの通知が増えていく。
女友達が失恋した。
十何年も2番目の女を続けていたけれど
とうとうその男から
「もう会わない」と告げられたらしい。
「今日通話する時間あるかな」
その夜、泣きながら電話がかかってきて
5時間話を聞いた。
いつか結ばれると信じていた彼女が
とてもかわいそうだと思ったから。
けれど、次の日には
「そんなLINEスタンプじゃ私の心は救われない」
と苛立ちをぶつけられた。
そんな彼女だ。
彼にLINEをブロックされ
気持ちをぶつける場所を失った彼女は
彼の会社のSNSに突撃していた。
「消えてしまいたい」と言う彼女に
私は「猫ちゃんがいるじゃん」と
言うしかなかった。
今年飼い始めた猫が
彼女の唯一の救いに見えた。
私にできるのは話を聞くこと。
それだけだった。
数日後、彼女は
「彼を忘れるために催眠術セラピーを受ける」
と言い出した。
夜中に私から電話をかけて
そのセラピーのランディングページを
一緒に眺めていた。
私は過去に霊感商法で首の凝りを治そうと
11万円を払った知り合いのことを
思い出していた。
その人の首は結局治らなかった。
これ以上彼女に苦しい思いをさせたくないという自分のエゴもあった。
今回のセラピーは思っていたより
割とまともそうだ。
「楽になるならいいんじゃない?」
と彼女の背中を押した。
その後
彼女は催眠術セラピーを受けた。
私の運転中に
「良い感じにかかった」
とLINEのポップアップで見た。
少なくとも、身体が動かなくなったり、
思考が止まって何時間も無駄に過ごすこと
はなくなったという。
元気そうで良かった。
私はその頃、筋肉痛で少し疲れていた。
首都高の下、日陰を歩きながら横断歩道を
渡る人々をぼんやり眺めていた。
こんなにたくさんの人がいる中で、
私は「パパ」と「彼氏」に出会えたことを
少しだけ幸運に思った。
彼女は元気を取り戻して婚活を始めたらしい。
でも、カラオケデートで相手が太ももに
手を置いてきたのが嫌で、
「2人きりの空間になる場所では
会いたくない」と言っていた。
「生理的に無理だと思う人とは
共同生活は難しいんじゃないかな」と私は思う。
お金がないからって婚活アプリを開く
自分に気づき
「完全に男をお金で見てるな」と苦笑した。
でも、結局は
誰かを利用するような関係は、無理だ。
滑稽な自分を認識して婚活アプリを閉じ
「自分でなんとかしよう」
と運転に意識を集中させた。
どうして惚れた側の女(私も含まれる)は、
こんなにも無力なのだろう。
彼女は15年以上も片想いをしていた。
いずれ子どもが欲しいと
アフタヌーンティーの席で楽しそうに
言っていたけれど、代償があまりに大きかった。
私もいつかは子どもを産むと思っていた。
でも、今のところそうはならなかった。
この先どうなるのだろう。
一緒に住むようになれば、
安心できる未来が手に入るのだろうか?
そもそも女性が子どもを産むイメージも、
安心の未来とやらも、
CMや教育で刷り込まれた幻想なんじゃないか。
そう思うこともある。
「一緒に暮らすことで好きな人の顔を
毎日見れたらきっと幸せなのにな」
ふと急に私の中に、可愛らしい薄桃色の何かが顔を出した。
いや、自分という人間は楽がしたいだけなのだ。
先ほどの何かを否定するために
「楽がしたいよね」とつぶやいてみる。
あんな乙女な意識はちゃんと封じ込めておかないと、女一人では生きていけない気がしたから。