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カナヘビと私

出会い

2022年5月
彼女は我が家にやってきた。

ニホンカナヘビ
新潟の実家ではよく見かけていたし、今住んでいる横浜でも、時々は目にする存在。

好奇心旺盛な10歳の娘が、近所で捕まえてきたのだ。小さなプラケースに入れられたカナヘビは、外へ出たがって右往左往している。
「可哀想だよ。家で飼っても長生きはさせられないから、元いた場所に放しておいで。」
娘に言ったが、娘は急にプラケースを私の鼻先へ突き出した。
「見てごらんよ。こんなに可愛い子いる?」
初めて間近でカナヘビを見た。
真ん丸の黒目、やけに整然と並んでいる鱗状の模様、盛りすぎたアイラインのような白い筋、小さな恐竜のようなフォルム、警戒しながらのチラ見…たしかに色々と可愛い。

真ん丸の黒目
盛りすぎた白いアイライン
恐竜というか怪獣というか

「一晩家に置いて、明日は放しておいでよ?」と、娘に持ちかけるも、「うーん、三日間ね!」と押し切られた。

三日間となると、この小さなプラケースは可哀想だ。以前カブトムシを飼っていた、大きなケースを使うことにした。
そして…餌をあげなければならない!何を食べるんだ?急いで検索すると「生き餌」「コオロギ」「レッドローチ」「ミルワーム」様々な単語が出てきた。頼んだら明日届けてくれるAmazon様。ありがたい。取り急ぎ「ミルワーム」を注文した。

うぇぇぇぇ!!

何かの幼虫だ。それが何かは、今でもわからないし、知らないほうがいい気がしている。

娘は喜んで、カナヘビに「カナちゃん」と名前を付けた。友達のカナヘビ博士に、カナちゃんがメスであることは確認済みとのこと。

命名紙  なぜそこに置く💧

翌日、ミルワームが届いた。
娘は学校に行っている。
カナちゃんはお腹を空かせている。
私がやることは一つだ。
うぇぇぇぇ!!と叫びながら開封した。動いている。クネクネ…ウネウネ…
これをカナちゃんにあげる…ん?どうやって?箸??
独身時代の一時期、セルフネイルに凝り、ラメを乗せる用のピンセットを使っていたことを思い出した。あれならちょうどいい!
古いガラクタ置き場からそのピンセットを探し出してきた。

さぁ、カナちゃんどうぞ!!
野生動物なので、警戒して食べないかと思いきや、私が差し出したミルワームを食べる食べる!!連続で5匹も食べた。
ちょっと顔を斜めにして…パクッ♪
きゃーっ!!何この子可愛い❤️
娘が赤ちゃんの頃、スプーンで離乳食を与えていた日々の記憶が甦ってきた。
思えばこの瞬間から、私の心はカナちゃんの親となったのかも知れない。

飼育はじまる

三日間で放してしまうには、あまりに可愛すぎたカナちゃん。「飼う」前提で、環境を整えるための勉強を始めた。
カナヘビを飼っている人はたくさんいて、専門のYouTubeチャンネルなどもあった。ありがたい時代だ、本当に。
飼育に必要な床材・シェルター(隠れ家)・水入れ・カルシウムパウダー・植物など、ブログや口コミも参考に買い集めた。

カナヘビは尻尾が長~い

餌問題

野生のカナヘビは昆虫を食べて暮らしている。いわゆる「生き餌」だ。人間の手で生き餌を与え続けることは容易ではない。

とりあえず「コオロギ」だ。
Amazonでも取り寄せられるし、急ぎなら爬虫類ショップや大きなホームセンターで買うことができる。

・フタホシコオロギ
・ヨーロッパイエコオロギ

画像を貼るのは自粛するが、生き餌として流通しているコオロギは主にこの二種。
フタホシコオロギ(通称フタコ)は黒くて、完全成体のフォルムは嫌われもののアレ(G)そのものだ。
ヨーロッパイエコオロギ(通称イエコ)は、フタコより一回り小さく、色はクリーム色。体も少し柔らかく食べやすそうだ。(※個人の予想です)

カナちゃんは爬虫類の中では小型で、完全に成体となったコオロギは大きくて食べられない。逆に食べられてしまうこともあるくらいだそう。
なので、ベビー・幼体のコオロギだけを与えるわけだが、この供給が難しい。例えばAmazonで30匹注文したとして、暑さでほとんど死着することがある。かと思えば、気象条件が良く、ショップで入れてくれたおまけの分までピンピン元気で、50匹近く届くこともある。

こんな紆余曲折を繰り返すうちに、カナちゃんが幼体を全て食べきれず、コオロギが何匹か成体になってしまった。
厄介なのは、このコオロギを勝手に野に放つことが禁止されていること。そう、このコオロギたちはいわゆる「外来種」なのだ。

野に放てない、ならば飼い続けなければならない。そこで浮上してくるのが「繁殖」だ。
繁殖を上手く計画的に行えば、いつでもカナちゃんは小さくて美味しいコオロギが食べられる。
今度は「コオロギ 繁殖」で検索。どこまでも学びは続く。

たまご
フタコベビー
イエコベビー

もはや、カナヘビを育てているのか、コオロギを育てているのかわからない!!
という状態に陥ったが、確実に言えるのは「すべてはカナちゃんのため」
この餌問題だけではなく、日光浴、サプリメント、カナちゃんの健康のためなら、良いと言われることはすべて試した。

一ヶ月の壁

カナヘビの飼育は難しく、一ヶ月以内に落ちて(死んで)しまうケースが多いそうだ。
では逆に、一ヶ月を越えたなら、天寿を全うするほど長生き(6~7年)するのでは?という目標ができた。
一方で、カナちゃんの本当の幸せは、ケースの中ではなく、外の自由な世界にあるのだろうな、という思いもあり、心の中で葛藤が始まった。
そうこうしているうちに一ヶ月の壁は越え、カナちゃんはケースの中で元気いっぱい動き、可愛らしい表情をたくさん見せてくれた。

小さな恐竜
ぬぉぉぉん
新幹線みたいな形🚄

熱中症事件

カナちゃんには日光浴(紫外線)が欠かせない。欠乏すると「くる病」という病気になってしまうためだ。骨が曲がったり、失明したり、様々な症状が出るという。

そのため、晴れた日には、30分程度外へ出して日光浴をさせる。ケースを外へ出すと、嬉しそうに背中を太陽に向けてじっと静止する。この姿がまた可愛らしい。

日向を探す天才

ある日、いつものように日光浴をさせていたが、電話が長引いて、時間が少しオーバーしてしまった。慌てて見に行くと、少しぐったりして息があがっていた。すぐに涼しい部屋に入れて、水をかけて、うちわで仰いだ。すると次第に動けるようになり、翌日には食欲も戻ってくれた。
変温動物の弱さ、カナヘビ飼育の難しさを実感した出来事だった。

尻尾自切事件

カナヘビは二週間~一ヶ月に一度のペースで脱皮をする。
ある日、日光浴中のカナちゃんが脱皮をした。まとわりつく皮が鬱陶しいのか、植物に体をスリスリと擦りつけていた。
そのうち、ご自慢の長~い尻尾がその植物に絡まってしまった。どう動いても取れず、パニックを起こしたカナちゃんは、なんと自分で自分の尻尾を切ってしまった。この行為を自切(じせつ)という。

絡まっちゃった💦
尻尾切っちゃった!!😱

うわぁぁぁん😭😭😭
驚いて、咄嗟にマキロンとオロナインを探してしまった。(たぶんカナヘビには不要)

自切したカナヘビの尻尾は、再生はされるものの、もう一度自切することはできなくなる、という情報を目にした。
この状態のカナちゃんを野生に戻すのは不安だな、ケースの中だけれど、ずっと手元で安全に育ててあげたいな、という思いが強くなった。娘の夏休みが終わった頃に、越冬グッズを揃えようと考え始めた。

眠る日々

カナちゃんは早寝早起きで、朝に挨拶をしにいくと、もう目はキラキラ✨今日も元気いっぱいよ!!…という女子だったが、娘の夏休みが始まり、暑い暑い日が続いてくると、朝になってもずっと寝ている日が増えた。
日中、起きたと思ってカメラを向けると、その体勢でまた眠ってしまうことも。

(。-ω-)zzz
o(__*)Zzz
( ̄q ̄)zzz

何かがおかしい、と直感した。
体力が落ちてしまっているのか、病気やストレスがあるのか、わからないけれど、何かがおかしい。

突然のお別れ

何かおかしいけれど、飼い主としてできることは、彼女のために最善のお世話をすること。
8月27日、大好きな日光浴をさせた。
陽射しが強めだったので、日除けを作りながら、水をかけながら。
でも、ほんの少し目を離した間に、日除けの中でカナちゃんは仰向けに倒れてしまった。
水をかけても、風を送っても、もう二度と動かなかった。

その後のことは、しばらく覚えていない。どうやら私自身がパニックに陥ったらしく、一時間ほどごっそり記憶が抜け落ちている。
カナちゃんを手のひらに乗せて、名前を呼んで泣き続けていたあたりから記憶があり、悲しみとは裏腹にカナちゃんを初めてちゃんと抱っこできた喜びを感じたりもしていた。

送り出す前に

幸い我が家は一軒家で、敷地にカナちゃんを埋めて弔うことができる。
でも亡くなった当日は、とてもじゃないけど無理だった。触れると体はまだぷにぷにしている。たくさんたくさん撫でた。小さな手を広げて握手もしてみたし、美白でピカピカなお腹を褒めたり、再生途中の尻尾にお疲れ様も言った。
夜はカナちゃんを小さなケースに移して、寝室で一緒に寝た。涙と鼻水は止まらなかったけれど、初めて一緒に眠れて嬉しかった。

お葬式

翌日、まだ体のぷにぷには残っていたけれど、乾燥が始まり、目の周りとお腹に変色が見られた。土に還してあげる時がきた。最後にまたたくさん撫でて、頬擦りもした。

花壇の一番良い場所、玄関に一番近く、毎日挨拶ができる場所に、家族みんなでカナちゃんを埋めた。
掘り返されないように深く深く。
天国で真っ直ぐ歩けるように体を曲げずに。
切れた尻尾(取っておいた)も一緒に。
ローズクォーツ・アメジスト・ラピスラズリも一緒に。(女子だから天然石好きと予想)
そして最後に、よく登ったり隠れたりしていたお気に入りの草を植えた。

通りに面した花壇なので
目立たないお墓が安心⛑️

ありがとうカナちゃん

ここまで書いてきて、家族の中でカナちゃんの死に一番ダメージを受けているのは私だということがおわかりいただけたと思う。
あの日、日光浴をさせなければ…
体調に違和感を感じた時、医者にかかっていたら…
後悔は尽きない。生涯引きずると思う。

夫は「カナヘビでこんなにお母さんが落ち込むなら、うちは犬や猫は飼えへんな…。」
カナちゃんを捕まえてきた張本人である娘は、「私だってちょっとは泣いたけど、お母さんの涙にもらい泣きしちゃうほうが多いよ。」「私がカナちゃん捕まえてきたばっかりに、本当にごめんね。」と。

いや娘よ、それは違う。
私は今まで、こんなに濃密でワクワクする三ヶ月を過ごしたことはなかった。ペットというか子供というか、よくわからないけれど心から愛おしい存在に出会わせてくれてありがとう。ちっとも懐かないし、むしろ警戒されっぱなしでも、こんなに何かを大切に思えることってあるんだ!と、とても感動している。

人間は年を取ると、経験が増える分、感動しにくくなるのが定説だが、カナちゃんの存在はそれをバリバリと打ち破ってくれた。
随分と長く生きていても、こういうことがあるから人生って面白いな、捨てたもんじゃないな、と思う。

最後に

でもね、もう二度とカナヘビは飼いません。
カナヘビにはやはり野生でのびのびと過ごしてほしい。
何より、私にとってのカナヘビは、カナちゃんだけでいい。唯一無二の存在だから。
大変ながら楽しかった、キラキラと輝く三ヶ月間の思い出。ずっと忘れないし、大切な大切な宝物だから。

凛々しい。女の子だけどね🎀
ありがとうカナちゃん💕