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4.リハーサルに関して
私は撮影前にリハーサルをやる。珍しいと言われるがまるで意味がわからない。
リハーサルをやる事はお互いの距離感や空気を掴むためには絶対必要だと
思っている。この姿勢は自主映画時代から一度もブレたことはない。
どんなに事務所に日数多いと言われようが、「必要?」って言われようが
俳優部と演出部にとってリハは絵コンテよりも何よりも大事だ。
私の演出方法は至ってシンプル。
基本は1シーン1カットだ。
空気とリアルを追い求める為、そしてその場の
空気を薄めないために
濃度と純度を保ったまま1シーンを切り取るだけ。
リハで一番初めにその手法を説明するのは現場にいきなりその手法を持ち込むと、
みなさんが驚いてしまうからだ。
まずは自分が思っている世界観と空気を
全て俳優部に浸透させること。
これは撮影ではなく、その場に生きている人間と人間の間にカメラを置くだけという意識になってもらう事だ。
いつも俳優部に求めるのはカメラがあるからではなく人間が生きているからカメラで撮るという意識だ。
その意識が高いほど、良い空気が映ると思っている。
映画とは
偶然あるカメラの前でキャラクターが生きるというだけの事だと思っている。
それが、本作でも滲み出て、観ている皆さんの
心に少しでも響く事を願っている。
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今回のリハは4日間、まずは修太と大学の仲間
重点を置いたのは修太と美鈴の空気と修太と誠の距離感だ。
美鈴も誠も修太を放っておけないという共通の意識がある。
包み込む美鈴とほどよい距離感で浮遊する誠。
その二人と修太が自然な空気になれる事が課題だった。
初日というのもあり皆、硬かった。
どうするかなと思っていたら、前田Pが「飯でも行きますか?」と
言ってくれた。とりあえずみんなでランチした。
話も弾み、少し打ち解けた。
そして良くなった、やはり昔から変わらない
時間の共有が空気の溝を埋める。
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2日目、安本家のリハ。ここで衝撃的な出来事が・・・
一人ずつキャラクターの年表を渡して面談している時の事
恵子役の山口さんからの指摘。これには参った。
脚本を17稿重ねたことからの時系列の歪みだった。
何か気になるだろうが、これは舞台挨拶のネタにとっておく。
これを恒例のランチタイムに中田君、岐洲君、木村さんに山口さんから
クイズとして出題してもらったが誰も当てられなかった。
故に、私は山口さんに1ミリたりとも頭が上がらないばかりか
この映画の窮地を救ってくれた山口さんを心底、信頼した。
家族のリハはかなりスムーズだった。
木村さんの狂気と山口さんの安心感が何故か融合していた。2人の力がそうしたのだろう。
そして中田くんの陰と岐洲くんの陽も融合していた。
この4人は安本家を
違和感なく違和感を生むという難しい家族関係に作り上げてくれた。
こうして家族は出来上がった。