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[小児科医ママが解説] フォロミいるのか問題(Vol.1) タンパク質の多さは魅力。鉄も多いけど吸収率を考えるとビミョー。

以前、哺乳瓶の消毒について記事にしましたが(記事:哺乳瓶の洗浄。食洗機はOK?消毒はいつまでやるの?)、今回はフォローアップミルクについてです。

「フォロミって、飲ませたほうがいいんですか?」こちらも外来や健診で本当によくあるご質問です。

今回も公式団体の見解をもとに、見ていきたいと思います。

内容が多くなってしまったので、3回にわけて載せていきます。

【Vol.1】(今回の記事)
→ 
フォロミに「多い」3つの成分①タンパク質②ミネラル③鉄 に注目して解説しています。

【Vol.2】「フォロミいるのか問題(Vol.2)カロリーは、かせげない。亜鉛・銅がゼロは、実はかなりイタい。ビタミンDも少なめ。」
→ フォロミに「少ない」3つの成分①脂質(カロリー)②亜鉛・銅③ビタミンD に注目して解説しています。

【Vol.3】「フォロミいるのか問題(Vol.3)【食事まずまずすすんでるけど、肉・魚を食べません!】の子こそフォロミの出番では。」
→ 結局フォロミってどういう子に使えばいいのよ、という結論です。

全3回のフォロミ連載に共通する、参考文献はこちらです。

●AAP(米国小児科学会)
"Recommended Drinks for Young Children Ages 0-5"
https://www.healthychildren.org/English/healthy-living/nutrition/Pages/Recommended-Drinks-for-Young-Children-Ages-0-5.aspx

●WHO(世界保健機関)
“Cross-promotion of infant formula and toddler milks”

https://www.who.int/nutrition/publications/infantfeeding/information-note-cross-promotion-infant-formula.pdf?ua=1
"Guiding Principles for Complementary Feeding of the Breastfed Child"
https://www.who.int/nutrition/publications/guiding_principles_compfeeding_breastfed.pdf

●厚生労働省
「授乳・離乳の支援ガイド(2019年改定版)」

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_04250.html

●日本ラクテーション・コンサルタント協会
補完食「母乳で育っている子どもの家庭の食事」

※WHO/UNICEF発行ガイドの和訳
https://apps.who.int/iris/bitstream/handle/10665/66389/WHO_NHD_00.1_jpn.pdf;jsessionid=3845A5637DEB73DA298D400CB560D918?sequence=2



フォローアップミルクは(原則)「必要なし」


AAP(米国小児科学会)のスタンスはかなりハッキリしていて、Toddler’s milkつまりフォローアップミルクは「必要ない」むしろ「有害になりうる可能性もある」
とのこと。

「Harmful:有害」というのはなかなかドギツい言い方だなと思いましたが、要は、フォローアップミルクを飲むことで、お腹がいっぱいになるなどして、必要な補完食(離乳食)を摂取するチャンスを逃したり、十分に食事の量をとることができない、という意味で良くない、というニュアンスです。

WHOもフォローアップミルク(だけでは)「栄養学的に十分な量はとれない」として、UNICEFと共同で、フォローアップミルクの各企業における宣伝のあり方に警告を出すなどしています。

厚生労働省は「フォローアップミルクは、母乳または育児用ミルクの代替品ではない。」としながらも「必要に応じて使用するのであれば、生後9ヶ月以後にする。」という文言です。

じゃあこの「必要に応じて」というのはどんな場合なのか。という話になってきます。

今回は一般的な人工乳に比べて、フォロミに多く含まれる成分に注目して、フォロミの必要性があるかを見てみましょう。


フォロミに多いもの:①タンパク質 ②ミネラル ③鉄


フォローアップミルクに多く含まれている成分を3つあげるとすれば、①タンパク質②ミネラル③鉄 です。

一般的な人工乳とフォローアップミルク、どれくらい差があるのか見てみましょう。


※以下で「一般的な人工乳」というときは「明治、和光堂、森永、ビーンスターク、雪印」の5メーカーさんの成分を参考にしています。
また「フォローアップミルク」というときは、上記5メーカーさんからそれぞれ出されているフォローアップミルクの成分を参考にしています。(明治ステップ、和光堂ぐんぐん、森永チルミル、ビーンスタークつよいこ、雪印メグミルクたっち)


①タンパク質

言わずもがな、筋肉を中心とした、体の発育にかかせない成分です。

【ミルク100mLあたりに含まれる タンパク質】
●一般的な人工乳:1.5g
●フォローアップミルク:1.9~2.0g
※母乳は0.92g(生後9~11ヶ月):個人差や変動が大きいです。

【厚労省の定める食事摂取基準】
●15g(生後6~8ヶ月)~25g(生後9~11ヶ月)

たしかにフォローアップミルクのほうが多くタンパク質が含まれています。

もしミルクを1日1000mL飲んでいる子の場合、1日で(ミルクだけから)取るタンパク質の量は、一般的な人工乳:15gに対して、フォローアップミルク:20g。

つまり生後9~11ヶ月で1日にとりたい25gに、あと一歩(といっても5gくらい不足ありますが)、というところまで、フォローアップミルクならいけます。


②ミネラル

体の水分のバランスを保つのに、大切なミネラル。

【ミルク100mLあたりに含まれる ミネラル】
(①ナトリウムNa ②カリウムK ③リンP ④カルシウムCa [mg])
●一般的な人工乳:①Na 15.2~19.5 ②K 57.1~66.1 ③P 24.7~28.3 ④Ca 44.4~51.3
●フォローアップミルク:①Na 28~32.2 ②K 98~105 ③P 49.9~56.7 ④Ca 98~112
※母乳:①Na 13.5 ②K 47 ③P 15 ④Ca 25

【厚労省の定める食事摂取基準(生後6ヶ月以後)】
●①Na 600 ②K 700 ③P 260 ④Ca 250


たしかにフォローアップミルクのほうがNa・K・P・Caいずれも多めに含まれています。
しかし一般的な人工乳についても、もし1日550mL(乳児全体での人工乳摂取量の平均として、WHOでも使われる指標です)飲めていたとしたら、K・P・Caいずれも食事摂取基準はほぼ満たせます。

一方でNaについては、一般的な人工乳であっても、フォローアップミルクであっても、足りません。
ミネラルに関しては、あまりフォローアップミルクの利点はそこまで感じられません。


③鉄

生後6ヶ月以後の栄養素で、一番不足しやすいといっても過言ではないのが、鉄です。

赤ちゃんが胎児の時に持っていたヘモグロビンは、生まれたあとに、次々に分解されていきます。その関係で、生後6ヶ月以後に、鉄欠乏性の貧血になりやすいのが特徴です。
実際に生後-6ヶ月~1歳半のお子さんのうち、8 %くらいが貧血だというデータもあります(乳幼児における鉄欠乏性貧血の有病率.日本公衆衛生雑誌 2002; 49: 344─51.)。

鉄が足りないと、貧血になるだけでなく、精神的な発達の遅れや、痙攣・ひきつけの頻度も高くなるという報告もあり、発育に大切な栄養素です。

【ミルク100mLあたりに含まれる鉄】
●一般的な人工乳:0.7~0.9 mg
●フォローアップミルク:1.19~1.34 mg
※母乳:0.04 mg

【厚労省の定める食事摂取基準(生後6ヶ月以後)】
●4.5~5.0 mg

たしかにフォローアップミルクのほうが、一般的な人工乳とくらべて、1.3~1.8倍の鉄が含まれています。

・・・が、鉄に関しては「吸収率」を考えなければいけないのが、むずかしいところです。

同じ5mgの鉄でも、母乳から摂取したのか、ミルクから摂取したのか、どんな食材から摂取したのかで、体に吸収される鉄の量は異なるのです。

鉄の吸収率については、そもそも子どもなので測定や研究がむずかしいのですが、一応以下が報告されています。

【鉄の吸収率】

上記の参考文献にもあげた、WHO/UNICEFの補完食ガイドに加えて、下記の論文を参考にした値です。
(”Iron absorption from human milk, simulated human milk, and proprietary formulas.” [Pediatrics. 1977 Dec;60(6):896-900.])

●母乳20 %
●ミルク5~9 %
●米・豆類 5 %

●果物と一緒に摂取したときの、米・豆類10 %(※1)
●魚・レバーと一緒に摂取したときの、米 10 %
●魚・レバー・葉ものと一緒に摂取したときの米 15 %(※2)

※1:ビタミンCは、同時に摂取した食品中の鉄の吸収を、10 %まであげる。
※2:さらに魚/レバー+ビタミンCの組み合わせは、同時に摂取した食品中の鉄の吸収を、15 %まであげる。
※魚・レバー単体(ヘム鉄)だと25 %、ほうれん草・ひじき単体(非ヘム鉄)だと 5 %などという報告もあり。

どうでしょうか。

ミルクの鉄の吸収率は、とくに母乳と比べると、実はかなり良くないことがわかります。

しかも前述した厚労省の食事摂取基準(ここでは推奨量)というのは、「一般的な食事において、鉄の吸収率は15%」という仮定で計算されたものです。
食事が進まず、鉄をとれる源がミルクだけ、あるいは米だけ。といったお子さんの場合は、ミルクや米からの鉄の吸収率は5%ですので、厚労省のさだめる推奨量より、さらに多く摂取するべき可能性があります。

もし仮にフォローアップミルクだけを1日1000mL飲んでいる場合、1日にとれる鉄は11.9~13.4mg。
でも吸収率が 5%だとすると、実際には厚労省の定める推奨量に、体内の濃度としては達していない可能性があります。

フォローアップミルクだからといって、鉄が十二分に補える!というほどではなさそうです。


フォロミ連載、第1回目。まとめておきましょう。

フォロミに多い成分は ①タンパク質 ②ミネラル ③鉄。
①タンパク質:たしかに利点ありそう。
②ミネラル
:たしかに多いけど(K・P・Caについては)一般的な人工乳でも十分量とれる。
③鉄:たしかに多い。でも吸収率を考えると、結局フォロミだけでは不十分。

次回は逆に、フォロミに少ない成分に触れていきます。

【Vol.2】「フォロミいるのか問題(Vol.2)カロリーは、かせげない。亜鉛・銅がゼロは、実はかなりイタい。ビタミンDも少なめ。」


※・・・とりあえずもう結論 知りたいわ。って人は、第3回目=最終回に飛んでください。
【Vol.3】「フォロミいるのか問題(Vol.3)【食事まずまずすすんでるけど、肉・魚を食べません!】の子こそフォロミの出番では。」

(この記事は、2023年1月26日に改訂しました。)

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