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[小児科医ママが解説] 頭のカタチ【Vol.2】矯正ヘルメット。効果はどれくらい?治らないこともあるの?

前回は、頭の変形は結構な割合でみられること。そして自然によくなることもあるけど、中には進行して、発達に影響する可能性があることを書きました。(【Vol.1】様子を見てって言われたけど、ホントに大丈夫?

今回は、じゃあ頭の形の治療として「矯正ヘルメット」があるけど、実際のところの効果はどうなのか。

そういったことを、なるべく医学的な根拠をお示ししながら、書いていきます。


生後6ヶ月くらいからのヘルメット矯正は、たしかに効果ありそう。


ヘルメット矯正は、最近は芸能人の子どもがやっているなどして、日本でもようやく認知度があがってきた印象です。健診でも親御さんから質問をされることが多いので、まとめてみます。

そもそもアメリカでは1970年代にはじまり、今では生まれた赤ちゃん全体の0.25%くらいがヘルメットを受けているのではないか、といったメジャーな治療になっています。

日本では2007年頃から導入されはじめ、2014年にやっと、日本形成外科学会が厚生労働省に、ヘルメット早期導入に関する要望書を出したという流れです。(厚生労働省、「第22回 医療ニーズの高い医療機器等の早期導入に関する検討会について」


世界的なガイドラインでも、「ヘルメットは、保存的加療(向きぐせや姿勢の調整など)で改善が得られない、(生後6ヶ月以後の)中等度~高度の頭の変形に対して有効」としています。(Neurosurgery. 2016 Nov;79(5):E632-E633.)

「ヘルメットを使わない場合にくらべて、ヘルメットを使うと、短期間に・より頭の非対称性が改善される」というデータが実際に複数示されています(①Arch Pediatr Adolesc Med. 2008 Aug;162(8):719-27.②J Craniofac Surg. 2001 Jul;12(4):308-13.③Plast Reconstr Surg. 2015;135:833–842.)

たとえば上記②の研究だと、体位変換(体や頭の位置をこまめに変える)など、ヘルメット以外の治療をした場合と、ヘルメットで治療した場合を比べると、平均の治療期間はそれぞれ63.7週と21.9週だった。
つまりヘルメットで治療したほうが、3倍はやく頭の変形が治療できるのでは、という結果です。


そして、治療の開始期間については生後5~6ヶ月ころがベストではないか、というのが現状の見解です。

FDA(アメリカ食品医薬品局)としては、一応ヘルメット自体は(首がすわるであろう)生後3ヶ月~18ヶ月で使用できるとしています。
しかし各国の様々な研究の結果から、ヘルメットが一番効果が出る時期としては、生後6ヶ月位からの開始がちょうどよいのでは、という結論になっています(①Neurosurgery. 2016;79:623–624.②Neuropädiatrie in Klinik und Praxis. 2014;1:4–9③Plast Reconstr Surg. 2013 Jan;131(1):55e-61e.④Plast Reconstr Surg. 2011 Aug;128(2):492-8.)。

ただし変形が重度の場合はもっと早いほうが効果あるという説もあり(Neurosurgery. 2016;79:623–624)、ケースバイケースで一概には言えません。

変形の重症度も様々ですし、ヘルメットの製作・成長に応じた調整の仕方など、各国・各研究でばらつきがあるので、「ヘルメットの治療をしたら○%が○歳までに治ります!」という言い方はできません。
しかし上記をみると、たしかに生後6ヶ月くらいからのヘルメット治療は、効果がありそうだといえます。


肌荒れトラブルは、あるある問題。


しかしどのヘルメットの矯正でも、必ずといっていいほど聞く声が「肌荒れトラブル」です。

生後5ヶ月頃から、約6ヶ月間治療した経過を見たオランダの研究ですが、こちらでは皮膚トラブルが96%、また発汗の増加も71%で見られたという報告でした(BMJ. 2014 May 1;348:g2741.)。

1日23時間以上はつけるべき(Dtsch Arztebl Int. 2017 Aug 7;114(31-32):535-542)とするガイドラインもありますので、汗をかきやすいお子さんに長時間、ヘルメットをつけることでの皮膚トラブルは、完全にゼロにはしづらいかもしれません。

また、そんな皮膚ケアが大変なか、頑張ってヘルメット治療をしたのに、結局変形が良くならなかった!という失敗についても、気になるところです。

ただし、失敗率がどれくらい、という言い方はできません。
そもそもの変形の重症度もちがえば、いつから治療を始めたのか、ヘルメットの製作・調整の仕方、言われたとおりの時間と方法でちゃんとヘルメットをつけられていたか・・・様々な要素がありすぎて、一概にくくれないのです。

一応、ヘルメット治療が失敗してしまうリスクとして、
①指示されたとおりにヘルメットをつけられていなかった(コンプライアンス不良)→これがあると2.4倍失敗しやすくなる
②治療を始めた年齢が高い→これがあると1.13倍失敗しやすくなる
と報告している研究はあります(Plast Reconstr Surg. 2015;135:833–842.)。

金額についても、なかなか気軽には手が出せないという方が多いと思います。保険治療ではないので、ヘルメットの種類や医療機関にもよりますが、およそ40万円ほどの料金が一括で必要な場合が多いです。

ほかにも別に論文ベースではありませんが、治療中の声として、「(ヘルメットが物理的にあたって)抱っこや授乳のときに邪魔」「汗を吸って臭い」「病院での待ち時間が長い」といった声は、どのメーカーでも一定数聞かれます。

なお、適切な診断や治療をうけて、正しく装着している限りは、ヘルメットの重さ(150~180gくらいのことが多いですが)自体による物理的な副作用については気にしなくて良いとされています。(Dtsch Arztebl Int. 2017 Aug 7;114(31-32):535-542)



というわけで、たしかに効果のありそうなヘルメット治療ですが、やはり皮膚トラブルは懸念されるのと、金額についてよく家族で相談する必要がある、といった悩みがでてきます。

同じヘルメットを使って同じように治療しても、皮膚トラブルがほとんどでないお子さんもいれば、順調に早く変形が治るお子さんもいれば、そうではないお子さんもいます。
こればかりは出たとこ勝負でなんとも言えません。親御さん・ご家族が納得した治療を選んでいただけるのが、ベストです。


まだ生後3ヶ月だけど、頭の変形が気になる。とりあえず何か家でできることはある?
もう生後6ヶ月。健診でも様子を見ましょうと言われたけど、ヘルメットの時期を逃したくない!
そんなときどうしたらいいかも、また記事にしていきたいと思います。


【Vol.3】”様子を見て”と言われた時、ひとまず家でできること。ドーナツ枕は使わないで。
【Vol.4】日本のヘルメット治療:ヘルメットの種類、病院、治療ブログのまとめ。

 (この記事は、2023年1月26日に改訂しました。)


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