[小児科医ママが解説] 頭のカタチ【Vol.1】様子を見てって言われたけど、ホントに大丈夫?
「うちの子、めっちゃ絶壁じゃないですか?」
「向きぐせが治らないんですけど、どうしたらいいですか?」
最近はヘルメット治療についても、親御さんから聞いてくださることも増えてきました。なるべく論文など医学的な根拠を示しながら、ご説明していきます。
全部で4回にわけて、記載します。
気になる回だけ読んでもらっても、内容は通じるようになっています。
意外と多い、頭の変形。自然に治ることもある。けど・・・
頭の形がナナメになっている子(斜頭症)や、全体的に絶壁で頭の前後が短い子(短頭症)など。
軽症などを含めると、頭が変形しているお子さんは、実はかなりの割合でいると言われています。
とくに早産や病気が指摘されていないお子さんのいても、たとえばアメリカでは1歳未満の16~48%(Arch Pediatr Adolesc Med. 2008 Aug;162(8):719-27.)、カナダでは生後7~12週で46.6%(Pediatrics. 2013 Aug;132(2):298-304)、オランダでは出生~生後7週で19.7%(Pediatrics. 2007 Feb;119(2):e408-18.)や24%(Eur J Pediatr. 2016 Dec;175(12):1893-1903.)といった報告があります。
頭のどの長さを測って診断するかなど、基準が各研究異なっているので、一概にはまとめられませんが、少なくとも20%くらい、多いと50%近くが、何らかの頭の形のゆがみを持っているのでは、というデータです。
日本ではまだ診断の概念自体も新しいので、正確なデータはありませんが、国籍によって大きく異なる・日本やアジアが極端に多い・少ないということを示唆するデータも逆にないため、同じような割合だと考えていいのではないでしょうか。
このような頭の変形をきたす原因としては、以下が挙げられます。
こう書くと、妊娠中や出産で何か気をつければ、頭の形に影響が出なかったんじゃないか・・・とせめられる親御さんもいらっしゃるのですが、どれか1つの原因だけが、必ずしも頭を変形させるわけではありません。
とくに出生前・出産時のことについては、防ごうと思っても防ぎきれないものばかりです。ぜひご自分をせめないでいただけたらと思います。
…で、様子を見ていたら治るものなのか。
結論としては「頭の変形は、様子をみていたらたしかに一定数は治る。が、中には治らないケースもある。発達への影響を考えると楽観視はできない。」というところです。
オランダの研究では、生まれた時点で斜頭症があった23人のうち、生後7週になっても残っていたのは9人のみ、つまり61%は自然に治っていたというデータがあります。(Pediatrics. 2007 Feb;119(2):e408-18.)
同じくオランダのデータで、生後7週には24%の子どもに斜頭症や短頭症があったが、5歳になったら21%くらいには減っていたというデータもあります(Eur J Pediatr. 2016 Dec;175(12):1893-1903.)
※ただしこの研究では全員を5歳まで追跡できているわけではないので、アバウトなデータとして捉えて方が良さそうです。
こういった「自然によくなる」報告もあることから、私たち小児科医や保健師さんなども、親御さんから頭の形を相談されても、ほとんどの場合「まぁそのうち良くなるでしょう」ということが正直多いです。
しかし実際には、頭のかたむきが重症だと、その頭の形で落ち着くような姿勢をお子さんも好むので、どんどん変形が進行していくケースもあります。さらに、頭の変形が発達に影響があるのではないか、という報告が複数でてきました。
頭の変形は、発達の遅れのリスク?
変形性斜頭症、つまり、上から見て頭の形がナナメになっていると、生後6か月や8ヶ月の時点で運動や言語発達・認知機能といった面で遅れが出るのではないか、という報告があります。(Pediatrics. 2010 Mar;125(3):e537-42.)(Plast Reconstr Surg. 2001 Nov;108(6):1492-8; discussion 1499-500.)
また小学校の学習においても39.7%で運動や言語で何らかの特別な支援を必要とするのではないか(Pediatrics. 2000 Feb;105(2):E26.)といった趣旨の複数の報告があります。
ただし注意していただきたいのは、これらの論文の中でも指摘されているとおり、「頭の形がゆがんでいる・変形しているからといって、必ずしも発達に影響がでる」というわけではないことです。
発達に影響が出うる、あくまで一つのリスクとして、頭の変形があるよ、ということです。
さらに単に向きぐせなどではなく、「頭蓋骨早期癒合症」という病気によって、頭の変形をきたす場合もあります。
この場合もやはり、成長する過程で認知機能や学習・言語障害のリスクが3~5倍高くなる可能性が言われており(J Pediatr Psychol. 2004 Dec;29(8):651-68.)、生後1年くらいまでの手術が推奨されています。
上記を踏まえて、「そのうち治るよ。」という軽い感じよりは「もしかしたら今後の発達を考えると、手術やヘルメットで、治療すべき状態ではないのか」と意識して、小児科医も見ていかなければいけないのではないかという流れに変わってきています。
では、その見極めはいつぐらいにすればいいのか。
ヘルメット治療って、実際どうなの?
そんなことを、次回以後に書いていきたいと思います。
【Vol.2】矯正ヘルメット。効果はどれくらい?失敗することもあるの?
【Vol.3】”様子を見て”と言われた時、ひとまず家でできること。ドーナツ枕は使わないで。
【Vol.4】日本のヘルメット治療:ヘルメットの種類、病院、治療ブログのまとめ。
(この記事は、2023年1月26日に改訂しました。)