[小児科医ママが解説] 喘息"っぽい"ってなに?喘息って、どう判断するの?
「前に、喘息っぽいって言われたことがあるんですけど…結局うちの子、喘息何でしょうか?」
外来でも、オンライン医療相談でもよくお受けするご相談です。日本や世界の医学的な見地を参考に、お答えしていきます。
特に「子どもの喘息」は、診断がむずかしい
最初から言い訳みたいですが、実は子どもの喘息って、診断がかなりむずかしいのです。
そもそも喘息とは、「発作性に起こる気道狭窄によって、喘鳴や咳嗽、および呼気延長を伴う呼吸困難を繰り返す疾患」・・・と定義されています。
要は、「ウイルスやホコリ、運動など、ちょっとした刺激でも、気道が過剰に反応して狭くなってしまい、咳がでたり、苦しくなったりする」体質のことです。
大人の方であれば、息を吸って・思い切り吐く、といった呼吸機能検査などで、客観的な指標をもって診断をつけることができますが、子どもはそもそもそういった検査もしづらいです。
また酸素化の値や呼吸の回数など、医学的に見たら「実は苦しいんじゃない?気管支がんばっちゃってんじゃない?」という状況のときでも「くるしくないよ!」と走り回っていたりするのが子どものむずかしいところ。
すごい大きな喘息の発作で、ぐったりして入院する直前まで、ウルトラマンごっこして全力で走り回っていたりするケース、よくあります。
ただのウイルスの感染症(=風邪)でも、聴診器をあてると、喘息のようなゼイゼイした音が聞こえることもよくあります。
別に、ゼイゼイした音が聞こえたからと言って「喘息です」というわけではないのです。
1回だけの診察では喘息かどうかは判断ができないところも、喘息のむずかしいポイントです。
そんなお子さんについて、どんな時に私たち小児科医が、喘息をうたがい、そして治療やお薬を検討しているのか、ご説明できればと思います。
喘息をうたがう 3ポイント ①今までのゼイゼイ ②花粉・アレルギー ③家族のアレルギー
私たちが、お子さんを見て喘息を疑う要因として、大きく3つのポイントがあります。
これらは、小さいときにゼイゼイがあったお子さんが、たとえば小学校に入ったあともゼイゼイするのか。要は、ゼイゼイしやすい体質なのかを予測する因子として知られています。
論文によって、Asthma Predictive Indexなどと様々な呼ばれ方をしていますし、細かい条件などはことなりますが、ザックリ分類すると、上の3つになります。
もう少し細かく見てみましょう。
(API, mAPI, ucAPIというのは、各論文における、喘息を疑う基準のようなものです。さらなる詳細は、各々、冒頭の参考文献を参考にされてください。)
①今までのゼイゼイ・咳のエピソード。
というのが、学童期に入ったときに、喘息を発症する予測因子や、喘息を疑う症状になっています。
このゼイゼイというのも実はむずかしくて、ちゃんと聴診しないとわかりません。
よく風邪のときなどに親御さんが「ゼイゼイしている気がします」といっても、実は鼻水がつまって鼻性喘鳴なだけ、つまり鼻を吸ってあげたら全然きれいな胸の音だったということもよくあるのです。
医学的なゼイゼイ・つまり本当の喘鳴というのは、鼻を吸ったところでよくなりません。
喘息の発作、つまり気道がウイルスなどに反応して狭くなっている状態で、息が吐きづらい(症状がすすむと、さらに吸いづらい)→その音を聴診で効くと、ギューっという音が聞こえて、あぁ喘鳴だな、と判断しているわけです。
なのでこの「ゼイゼイ」エピソードについては、風邪のときなどにお医者さんにかかって、聴診器で胸の音を聞いた医師から「ゼイゼイしていますね」と言われたことがあるか、ということを確認する必要があります。
②花粉・食べ物のアレルギー・アトピーがあるか。
mAPIやucAPIではいずれも「何かしらの吸入抗原(花粉や犬の毛、空気中のカビなど)に感作がある(血液検査でひっかかったことがある)」ことや、「乳・卵・ピーナッツなどに感作がある(血液検査でひっかかったことがある・食べて症状がでたことがある)」ことを、予測因子としてあげています。
またAPI・mAPI・ucAPIすべてにおいて、「医師から、アトピー性皮膚炎と診断されたことがある」という項目も、学童期に喘息を発症しやすい予測因子となっています。なおAPIとucAPIにおいては、アレルギー性鼻炎も(アトピー性皮膚炎ほどではないが)予測因子の一つになるだろう、としています。
③ご両親や兄弟などの喘息・アレルギー性疾患。
API・mAPI・ucAPIすべてにおいて「ご両親の喘息」は、学童期での喘息の発症を予測する、としています。
さらに臨床上では「ご兄弟の喘息」も確認することが多いです。
今でこそ気管支喘息はよく知られた・診断されやすい病気になりましたが、親御さんの世代以上になると、実は小さい頃に喘息だったけどなんとなく見逃されてきた・治療されてこなかったというケースも多いです。
親御さん自身が認識されていなくても、実は喘息をお持ちという場合も少なくないことが予想されます。
なので、お子さまのご兄弟で、喘息と診断されたことがある、という場合は、ご両親の喘息と同様、この子も将来喘息を発症するリスクがあるかもな、と思って接しています。
ただし、中にはこうした①~③をはっきり満たさないものの、明らかに喘息のような症状を繰り返しているお子さんもいます。
こういうお子さんは、何か特定のアレルギーや、アレルギー体質からくる喘息、というよりは、ウイルスやタバコや冷気から喘息が引き起こされやすい体質(非IgE関連喘息や反応性気道疾患などと言われるものです)の場合があります。
ひとくくりに「喘息」といっても、お子さんによって様々なタイプがあることをわかっていただけたら幸いです。
「まずは1ヶ月、お薬トライ」はわるくない。
子どもの喘息に、診断をつけることはむずかしい。でも、いくつか疑う指標はあると。じゃあ実際に「この子、喘息っぽいかもな。将来、喘息になりやすい体質かもしれないな。」と思った時に、医者は次に何を考えるか。
もちろん一概にはいえませんが、「まずは1ヶ月、お薬ためしてみます?」が、現状のガイドラインにのっとったやり方の1つです。
お薬を使っている間、咳やゼイゼイが改善する。やめてみたら、また悪くなる。この傾向があれば、やっぱり喘息なんじゃない?ということになります。
まだハッキリした喘息の診断はついていないけど、まずは治療をためしてみる。それが効いたなら、やっぱり喘息なんじゃない?と診断がつけられる。
他の病気でもこういうやり方をすることはありますが、「診断的治療」という方法です。
試すお薬の種類についてもケースバイケースですが、まずは飲むお薬として、プランルカスト(薬品名:オノンなど)やモンテルカスト(シングレア)などが代表的です。
ツロブテロールテープ(薬品名:ホクナリンテープ)が処方される場合もあります。
とくに喘息かも、という説明がなくても、上記のような薬が処方されることもよくあり、必ずしもその医者が「お子さまに喘息を強く疑っている」わけではないです。ただの風邪のゼイゼイかもしれないな~と思いつつ、もし仮にお子さまが喘息だったら効果のあるお薬だから出しておこう、くらいのニュアンスで出されていることも多いです。
お薬は数日飲んだだけでは、どうしても効果はみえづらいため、まずお試しだとしても、1ヶ月しっかり飲んでから効果を判定します。
飲んでいた間、明らかに調子が良かった!となれば、お子さまは喘息なのでしょう、ということで、コントロールが良好になるまで(咳やゼイゼイが見られなくなるまで)まず約3ヶ月は内服の治療をつづけます。
うーん、飲んでみたけどいまいち・・・という場合は、もう1ヶ月つづけてみたり・あるいは一度中止してみたりします。それと同時に、本当にこの症状は喘息からくるのかな?ということを考えます。
喘息に似た症状がでていても、実は慢性の副鼻腔炎や胃食道逆流症、あるいは生まれつき気管が柔らかい・細い病気がある(気管支軟化症や血管輪など)、といった、違う病気の可能性もあるからです。
かなり専門的なお話まで踏み込んでしまいました。読んでくださって、ありがとうございます。
とくにお子さまの場合、喘息「っぽい」と言わざるをえない事情、また喘息の奥深さ・むずかしさ、少しでも伝われば幸いです。
喘息が結局治るのか、いつまで治療するのか、というのも、よくご質問をいただきます。それについても根拠をしめしつつ、また解説したいと思っています。
(この記事は、2023年1月26日に改訂しました。)