サイコ戦争についての覚書1

今はど深夜だし明日は仕事があるが、忘れてしまう前に覚え書きを残しておく。
サイコ戦争は精神戦だ。必要な武器をそろえておかないと、戦場にエントリーする前に防御システムに拒絶される。
だから第一に装備を身につけなけばならない。

サイコ戦争は常に発生している。
その発生は突発的だが、サイコ戦争にさらされたとき、万が一の偶然がない限りは備えができている人間が存在しない。
無防備のままサイコ戦争に巻き込まれた人間は、記憶を失い、サイコ戦争に参加したということ自体を忘れてしまうだろう。

自分はサイコ戦争についてさほど詳しいわけではない。
たまたま開発していた指先の動作がたまたまファースト防御のための魔法陣の引き方と一致していたので、サイキック波に記憶を消去されずに済んだだけで、だからサイコ戦争にエントリーしたものの、戦争の開始地点から一歩たりとも外に出たことはない。
それがサイコ戦争に気づいたのは、富裕していた従軍記者の思考カプセルを偶然見つけられたからに過ぎない。

だから自分に分かるのは、サイコ戦争のエントリー地点の見分け方のみだから、この覚え書きではそれについてのみ記す。

まず第一に、音がある。
耳鳴りのような音で、擬音化したら、きゅいん、きゅいん、きゅいん、というような雰囲気の音だ。
次に、光が見える。その光は目を瞑っていても見える特殊な光で、色は緑色に似ている。ただし、その色はの世の色ではなく、言葉では表現しにくいが、現実社会では決して目にすることのない色の光だ。それを見て自分は緑と感じたのだが、それは匂いや感触を色で表すようなもので、何色に近いかという感じ方は人によって違う可能性も大いにある。
最後に、一瞬の間、刺すような冷たさを感じる。冷たさは、足先から脳天まで、わずか1秒足らずの間に、文字通り突き抜けるような感覚で襲ってきて、そのあと何事もなかったように消え去る。

それからサイコ戦争が始まる。

富裕していた従軍記者の記録によると、サイコ戦場には、滅びた恐竜の残滓念や多元宇宙の侵略精神、生きることのできなかった機械のあるべきであった概念体といった敵がさまよっており、それと戦わなくてはならないという。
銃で殺せるものは銃で殺せるが、物理的手段が通じるのはごく一部の敵であり、それは敵性精神のうちでも、物理現実の世界に根を張っているもののみに限られるという。つまり、根を枯らせば、派生である精神を殺せるという理屈なのだろう。

自分はこれからサイコ戦争を除くが、持てる防御は心もとない不完全な手わざのみである以上、襲われたらひとたまりもない。

何かあったとしても記憶を失うだけですむだろうから、そのときのために、この覚書を残しているのである。

未来の自分へ。
第一の防御のための手わざとは、1911のスライドを引き、左手でマガジンリリースを押し、左手でマガジンを受け取るときの親指動きだ。スライドに指を置く角度を研究していたときに、親指を重ねることを検討していたことがあったが、結局効率性の問題から取りやめたあの動作のことだ。
親指の動きだけが重要なので、それ以外の指の動きは無視していい。
スマホに動画を残しているから確認すること。

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